生家の境界に排水の掘堰があり、大きな木が一本茂っていた。
子供のころ、その木の上に小屋を造る夢想をして、布団に入っても完成の情景がよく浮かんだ。
あるとき、木に登って周囲を見ていると、隣家の裏庭から見慣れない男が手招きしている。
鉢巻きを締めた若い大工さんをたまにみかけていたが、その家の住人ではない。
周囲の板を集め蔵のまえに腰を下ろすと「鳥の巣箱をつくってやるから」という。
アイスクリームの蓋を板にあてエンピツで円を描いて、細い鋸で丸く穴を切った。
本職の手際であっというまに完成させ、こちらがいままで登っていた木を指してあそこに、と言い残すと、それから二度とその人を見ることはなくなった。
この家にも、庭を造成したとき、そういえば境界に大きな木が伸びていて、もはやターザン小屋を造る夢も消えていたが、晩秋の落葉の散らかりようが半端ではなく、やむをえず二股に分かれた一方の幹をカットした。
すると、その年だけは落ち葉も少なかったが、翌年から、根の吸い上げる栄養が残った一方にピストン輸送されるのか、それとも危機を感じたか、次第に以前と変わらない枝を伸ばし、そのうえ、初めて見る大きな白い花を空じゅうにいくつもつけて、抗議のデモンストレーションのようで驚いた。
このあいだ腸をこわして生まれて初めて入院生活をしたとき、六人一緒の部屋にしばらくお世話になったが、窓際のベッドに沈黙する人の様子が、何か言いたげでおかしい。
それとなく観察していると、打ち解けて全員雑談話をしている時間に、こちらの子供の時を知っていると言っている。
職業を聞いて、ふと思った。
――鳥の巣箱を作ってもらいましたね。
あれから半世紀も過ぎていれば面影も覚束ないが、こちらのあてずっぽうに、その人はたしかにうなずいた。
袖摺りあうもえんと、ベッドのうえのいっけん退屈な時間は云う。
自宅の荒れ地のわずかな空間に、植物はどんどん茂っていった。
いま写真の端に映るホウの木は、冬にすべての葉を落として針金のような枝をみせているが、342や343街道の山沿いの道を走ると、盛夏に印象的な姿のホウの木をみては気に入っている。
子供のころ、その木の上に小屋を造る夢想をして、布団に入っても完成の情景がよく浮かんだ。
あるとき、木に登って周囲を見ていると、隣家の裏庭から見慣れない男が手招きしている。
鉢巻きを締めた若い大工さんをたまにみかけていたが、その家の住人ではない。
周囲の板を集め蔵のまえに腰を下ろすと「鳥の巣箱をつくってやるから」という。
アイスクリームの蓋を板にあてエンピツで円を描いて、細い鋸で丸く穴を切った。
本職の手際であっというまに完成させ、こちらがいままで登っていた木を指してあそこに、と言い残すと、それから二度とその人を見ることはなくなった。
この家にも、庭を造成したとき、そういえば境界に大きな木が伸びていて、もはやターザン小屋を造る夢も消えていたが、晩秋の落葉の散らかりようが半端ではなく、やむをえず二股に分かれた一方の幹をカットした。
すると、その年だけは落ち葉も少なかったが、翌年から、根の吸い上げる栄養が残った一方にピストン輸送されるのか、それとも危機を感じたか、次第に以前と変わらない枝を伸ばし、そのうえ、初めて見る大きな白い花を空じゅうにいくつもつけて、抗議のデモンストレーションのようで驚いた。
このあいだ腸をこわして生まれて初めて入院生活をしたとき、六人一緒の部屋にしばらくお世話になったが、窓際のベッドに沈黙する人の様子が、何か言いたげでおかしい。
それとなく観察していると、打ち解けて全員雑談話をしている時間に、こちらの子供の時を知っていると言っている。
職業を聞いて、ふと思った。
――鳥の巣箱を作ってもらいましたね。
あれから半世紀も過ぎていれば面影も覚束ないが、こちらのあてずっぽうに、その人はたしかにうなずいた。
袖摺りあうもえんと、ベッドのうえのいっけん退屈な時間は云う。
自宅の荒れ地のわずかな空間に、植物はどんどん茂っていった。
いま写真の端に映るホウの木は、冬にすべての葉を落として針金のような枝をみせているが、342や343街道の山沿いの道を走ると、盛夏に印象的な姿のホウの木をみては気に入っている。