『2年ぶりに、六甲の山の麓の自宅で、さみだれとアジサイの季節を迎えています。夜のとばりの下りる頃、そっとアンプの灯を入れて、サラの歌声に耳を傾けるひとときがまちどうしいこのごろになりました』
上杉氏は、マニア垂涎の高名な『上杉アンプ』を愛好者に販売しながら、タンノイのサウンドをご自身謳歌されていたが、あるとき雑誌に以下の告知をされたのを読んだ。
「上杉研究所のアンプを所有されているかたは、製造番号のご連絡をお待ちしています。創立10周年を機に、全国に渡った当社アンプの所在を把握しようと思い立ちました」
勇躍当方はペンを取って『U・BROS-1』の申告をした1週間後に返書があった。
「受け付けました。あなたの所有アンプは転売品です」
もうちょっと、色よい返事を期待していたのになあ。
永久保証も、こうなっては壊れては大変と、なんとなく電気を通す機会も減ったような気がする。
そのとき書かれたご本人直筆のような、わずかな一行をしみじみ眺めると、字の太さやインクの色から『モンブラン』と思った。
タンノイサウンドの、さまざまに聴こえるサラ・ボーンの歌声は、マイク無しに本人のそばで聴く実際はどのようなものか、あこがれをさえ抱かせて鳴る。
彼女の、七色の虹の声といわれるオクターブに広大な声量や、野太い低音に支えられた妙なる絹摩れの裏声まで、巷はそれを『ザ・シンガー』『女王』と賞賛したものである。
そのものズバリを、迫真のナマのように聴きたいと考えれば、アンプやカートリッジや、どのようなオーディオ装置の選択があるであろう。
そのようなあるとき、不思議なご縁で当方の前に登場した千葉のS氏はこともなげに言った。
「サラ・ボーンのことは、以前わたしがアメリカに渡ったとき、ワシントンのクラブのかぶりつきでツバキを浴びながら聴きました」
「!」
当方は、そのとき表情には出さなかったが、気分は複雑で、もはや結果のわかってしまったボクシング試合に感じるとは意外?
それでなんとなく、しばらくサラを聴かなかったのが、みょうである。
以後、千葉のS氏を大先生と尊称したが、なぜならこの御仁は、またこうも言っている。
「オリジナル・ブルーノートを多数コレクションしている多くの著名人を回って、めちゃくちゃ触らせてもらいましたが、程度の良い盤を揃えて蒐めるのは困難とわかりました」
サラ・ボーンの七色の声の再現は、当方の前にいまもって無窮に立ちはだかる山である。
するとあるとき、葛飾のオートグラフ氏から薄い小包が届き、封を開く内側からベスト盤と高名な『アフター・アワーズ』が現れた。
いま先生は、オートグラフによってサラを聴いている。
音楽が時代を映す鏡であると思ったのは、このように聴いた曲から忽然と光景が浮かぶようになったころである。
上杉氏は、マニア垂涎の高名な『上杉アンプ』を愛好者に販売しながら、タンノイのサウンドをご自身謳歌されていたが、あるとき雑誌に以下の告知をされたのを読んだ。
「上杉研究所のアンプを所有されているかたは、製造番号のご連絡をお待ちしています。創立10周年を機に、全国に渡った当社アンプの所在を把握しようと思い立ちました」
勇躍当方はペンを取って『U・BROS-1』の申告をした1週間後に返書があった。
「受け付けました。あなたの所有アンプは転売品です」
もうちょっと、色よい返事を期待していたのになあ。
永久保証も、こうなっては壊れては大変と、なんとなく電気を通す機会も減ったような気がする。
そのとき書かれたご本人直筆のような、わずかな一行をしみじみ眺めると、字の太さやインクの色から『モンブラン』と思った。
タンノイサウンドの、さまざまに聴こえるサラ・ボーンの歌声は、マイク無しに本人のそばで聴く実際はどのようなものか、あこがれをさえ抱かせて鳴る。
彼女の、七色の虹の声といわれるオクターブに広大な声量や、野太い低音に支えられた妙なる絹摩れの裏声まで、巷はそれを『ザ・シンガー』『女王』と賞賛したものである。
そのものズバリを、迫真のナマのように聴きたいと考えれば、アンプやカートリッジや、どのようなオーディオ装置の選択があるであろう。
そのようなあるとき、不思議なご縁で当方の前に登場した千葉のS氏はこともなげに言った。
「サラ・ボーンのことは、以前わたしがアメリカに渡ったとき、ワシントンのクラブのかぶりつきでツバキを浴びながら聴きました」
「!」
当方は、そのとき表情には出さなかったが、気分は複雑で、もはや結果のわかってしまったボクシング試合に感じるとは意外?
それでなんとなく、しばらくサラを聴かなかったのが、みょうである。
以後、千葉のS氏を大先生と尊称したが、なぜならこの御仁は、またこうも言っている。
「オリジナル・ブルーノートを多数コレクションしている多くの著名人を回って、めちゃくちゃ触らせてもらいましたが、程度の良い盤を揃えて蒐めるのは困難とわかりました」
サラ・ボーンの七色の声の再現は、当方の前にいまもって無窮に立ちはだかる山である。
するとあるとき、葛飾のオートグラフ氏から薄い小包が届き、封を開く内側からベスト盤と高名な『アフター・アワーズ』が現れた。
いま先生は、オートグラフによってサラを聴いている。
音楽が時代を映す鏡であると思ったのは、このように聴いた曲から忽然と光景が浮かぶようになったころである。