ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

BMWの客

2007年08月26日 | 巡礼者の記帳
「家から2時間かかりました」と、黒光りしたBMWから降りて、その客は言った。
「いったいタンノイ・オート・グラフというスピーカーは、そんなに価値のあるものでしょうか?」
座り直した客は当方を向くなり「余人」を持って変え難いタンノイのことを、2曲も聴いてから申されるのは、何故えかな。
この客にこれ以上はもったいない。CDに変えておいて、職務質問に入らせてもらった。
すると、さる素封家が物故されて、我が世を謳歌していた『オート・グラフ』が、いま漫然と虚空をにらみ、惰眠をむさぼっている、とその客はタンノイの来し方を心配されている。
スピーカーの音の、何がどうなのか自分達夫婦はわからない、と正直に申されて、価値あるものであればぜひ引き取って大切に鳴らしたいものであると、ROYCEまで遠征されて、核心を聴こうということらしかった。
スピーカーの音の何がどれでもよく、音楽を充分楽しめる人々も、世には大勢居る。
『只聴く、澄明 水の滴るを』ということか...。
さる御殿のオート・グラフの主であった人が、何か言い残されたか知る由もないが、不知火の見える土地で生まれたそのご夫婦の望みがかなったとき、当方もその先達の到達された音の姿形を聴いてみたいものであると思った。
ゆえにアンプもプレーヤーもレコードも、一式セットで譲られるのが望ましいと思います。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無量光院の客

2007年08月18日 | 歴史の革袋
タンノイ・ロイヤルは吼えている。
「これは5拍子でしょうか?」
エルヴィン・ジョーンズの『INDIA』をフットワークでなぞって聴いていた客が言った。
シェリー・マンの演奏を聴いて次にE・ジョーンズを聴くとき、規則正しい心臓弁膜が一瞬、変拍子になって感心する。
この客は、スティックやブラシを持たせたら大変なものである。なぜなら、それでご飯を食べていたことが有るからだ。つまりお仕事で。
その話は置いて、平泉『無量光院』のことを聞いた。
「あの背後の『金鶏山』は、作庭のとき工事人を大動員して土を盛ったと言われていますが、ほんとうにそんなことが可能で...?」
「それはわかりませんが、むかし、人寄せがあってあの路を大勢で歩いていたとき、ちょうど無量光院の正面から見た金鶏山の頂上に夕日は沈んだのです。一年に、その日が二回有ると地元では言われています」
と言って、側の清楚に着席している奥方に、その時の光景を確かめた。
『奥の細道』にあった泉ケ城をめぐる衣川のことを探訪したことがあったが、辿り着けなかったので、気になっていたそこを質問した。
「いま泉ケ城はどうなっているのですか」
「えっ!。子供の頃、あの近くに住んでいたので、あそこで川遊びをしましたが...」
ジャズと芭蕉は変拍子で、話はトントン拍子に進んでいった。

☆10円銅貨の裏にも彫られている平等院を、平泉無量光院は原形とし、いま現地を訪ねると池の中島に礎石が残って、想像をたくましくして古代のエネルギーを感じるよすがとする。復元は近い。
☆院の屋根の南北両端に1対の鳳凰鳥が風を切っていたが、純金の金鶏1対が背後の金鶏山頂に埋蔵されているのは有名な伝承。
誰も掘り出していなければ、あの山に、まだそれは有る。
☆某国の1萬圓札の裏に描かれた鳥は、平等院の鳳凰ではないか、ともっぱらの噂だ。すぐ飛んでいくのであのチョイスは誤りだった。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

耳で見る客

2007年08月08日 | 巡礼者の記帳
添乗員に導かれ、白い杖を持った中年の客が入ってきた。
おや、と思った当方は「まったく見えないの?」尋ねたわけである。
「靴を脱いだり、柔らかな席はまるで個人の部屋のようだ」と感想を言うと「ぜひ、ここに来たかったので」と、お、おせじか◎〆△?*...。
四谷の『いーぐる』の話題が出たとき、そこはよく行きます、今度、チャーリー・パーカーの例会がある、と申されて
「後藤さんは、たまに席でジャズの話をしてくれますが、あのひと怖いですちょっと、ふっふっ」と言った。
つまり、見えない外見に、畏敬の気分があるらしい。
当方はむかし記念写真に納まっていただいて、幸運であったが、先日来た客は「ジャズを聞きながら本を読まないように、と注意された」といい、著作と同じくらい硬派というチグリス・ユーフラテス文明がジャズ好きの心を掻き立てる。
客は次にアイス・コーヒーを注文し、ストローの上下を確かめてするするっと飲み、そのとき鳴り出したエバンスに「おおっ、来たな」と口走ると姿勢を立て直して耳をそばだて、指でリズムを取るのであった。
この合わせたリズムの先が、エバンスかラファロかモチアンか、考えたがわからない。
当方のタンノイというスピーカーの外見や名前に惑わされず、JBLやアルテックやもろもろのスピーカーと聴き比べた感想を、この客の耳がどのようにジャズ歴史に分類するのか、興味深いことである。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

実存

2007年08月06日 | 巡礼者の記帳
「わたしは小学校4年まで『対馬』に育ち、それから関東に移住しましたが、対馬人のDNAがときどき浪立って、対馬を忘れることが出来ません」
ええっ?とその客を良く見ると、いぜん恐山から立ち寄ったひとで、いまコルトレーンを聴きながら、さすがに一味違ったセッションを聞かせる。
宮本常一の『忘れられた日本人』という書にある対馬の民族研究に、ご当人と同名の人が出現し、他人事でない戦慄を味わったそうであるが、手渡されたCDは、かって高度成長に沸いたころ日本中の夜を覆った『新日本紀行』のテーマ音楽だった。
ブルー・ノート・スケールも微塵にして富田勲は圧倒的郷愁をタンノイで聴かせ、ポッカリと開いた穴をつくる、おそるべき曲である。
それで、此の度はどちらに?
「前回は恐山でしたが、こんどは蔵王の温泉地を訪ねてみようかと.....。」
ロイヤルの鳴らしたエバンスが、戻ってからも耳に離れなかった、と申されて、対馬の客は迎えの車に乗った。

☆フルートを構えたエリック・ドルフィーの、コルトレーンとの間合いは凄い。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遠野へゆく客

2007年08月05日 | 巡礼者の記帳
☆向野の先にあるホテルから呼ばれたタクシーは、ゆっくりとファサードに横着けした。
そしてジャズ好きの運転手殿は、遠来のジャズメンをゆっくり輸送して記念サインをコレクションした。

横浜から「遠野に墓参りに」と申される客は、SMEアームの着いたトーレンス226を入手しましたが...「RF-297と、いったいどちらが音が良いのでしょう?」
嬉しい混迷の只中にあった。
SPUとハイコンプライアンスの針では、求める音像は同じではない。
並べて聴いても、全く違う音の、どちらが良いのかわからない。
千の耳から、一つを選ぶ。
お仕事が忙しいので、ぼちぼち、古今の銘器を蒐集しながら、誰も辿り着けなかった高みを目指す。
ゴールド入りヨークが200Vのクオードで鳴っているいま、各地の『歌枕』をめぐって千社札を貼り、いずれオートグラフの箱にモニターゴールドを装着し、打ち水をした苔むす露地の先のタンノイの庵にたどり着く。
どういう音になったか、それをぜひ聴いてみたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ローバーの客

2007年08月04日 | 巡礼者の記帳
ひと通り『ロイヤル』の音を楽しまれ、慌ただしく次の目的地に向かわれる様子の6人は、申し合わせたように、如何なる時も静かである。
そこでご婦人に「この車は、ジャギュアに似ていますが?」とボデイを低い姿勢から眺めやると、タマゴ型の微妙な流線型が8月の陽射しをきらきら跳ね返して眩しかった。
「これはローバーです」とご婦人はいいながら、
「主人は学生の時からタンノイが好きで、穴蔵のような部屋を造って楽しんでいますのよ。ほっほっ」上品にスラスラと話してくださった。
スピーカーのモデル名をたずねると「わからないのでどうぞ主人に聞いてください」といい「そういえばプレーヤーはEMTを使っています。あの、プレーヤーとスピーカーのところはコンクリで固めているんです、ふっほほ」ご亭主を観察して、にこにこ楽しそうな気配がある。
そこに戻ってきた紳士に、肝心のことを尋ねた。
「あなたはジャズを聴くのか?」
「ジャズを聴くために手に入れたスピーカーがタンノイであったので、クラシックもいくらか聴きますが....聴いているスピーカーは『ⅢLZ』です」
どこかジョンブルを思わせる風貌の亭主は、ローバーともう一台の車と並んで去っていった。
当方は、晩メシのとき、独り言のようにこの話をつぶやくと「EMTを使っている人が、ⅢLZのわけはないでしょ」
テーブルの反対側から言葉があった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD/BILL EVANS TRIO』

2007年08月01日 | 巡礼者の記帳
6月25日のROYCEは、薄雲に太陽が遮られ、涼しかった。
1961年のあの日、ニューヨークも摩天楼に遮られた太陽光線が、薄くヴィレッジ・ヴァンガードの路面に照りかえしていたのか。
たまに『SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD/BILL EVANS TRIO』を聴くと、6月の14日間終了の日曜日に「リヴァーサイド」スタッフによって録音されたこのLPの現存を、幸運に思うわけである。
なぜなら、指を平手にして弾いたベーシスト、ラファロを聴く最後の演奏となったから。
ところで、某氏が先日登場されたとき「どうぞ」と出された梱包を開いてみると、それは当方が中学の時に、生まれて初めて某薬局の応接室で味わった記憶のあるドイツ菓子バウムクーヘンだが、ジャズ喫茶は記帳の義務がある。バウムクーヘン1包み、非課税。
その某氏は、音楽を聴く間と間に、それまでの出来事や研究されてきたことを話す。
当方の言葉を遮って、あるいは待ってました、と、それはどちらがマスターかな?と、思うほどサエている。
ビル・エヴァンスの「SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD」を聴きながらポロッと「ヴィレッジヴァンガードとブルー・ノート」のステージのスペースを比較して氏は感想を言った。
何気なく聞き流したけれど、わざわざ東京?のライブを聴きに、どうも行ってきたらしい。
この七月の或る日、再び登場された某氏が手挟んでいだ『ジャズ批評』なるものを見た。
ぱらぱらページをめくっていると、あやしげな、というかニューヨーク・ツアー・レポートの写真に、な、なんと某氏は澄ました顔で、やや中央に納まっていた。
すると?ライブを聴きに行ったのは東京ではなく、太平洋のむこうの、あのニューヨークであったのか。
某氏は、にっこり笑うと「側に写っている若い女性は、これから売れる歌手です」と、尋ねていないことまで申されたうえ「スタンリー・クラークはまずまずの出来でしたが、案内役の、えーっと、藤岡氏なる人物の解説でジャズクラブを5.6ケ所楽しみました」
こうして当方は「ヴィレッジ・ヴァンガード詣」の先を越されていたのであった。
某氏とは、ひごろジャス○ックの偵察院と疑って止まない「謎のA氏」であるが、これ以上のことは、ひとまずおいて。
ラファロの加わったLPは、両面で6曲を、謹んで拝聴できる。
同じCDは、なんと別テイクも含み11曲聴ける余禄があって、タンノイ持ち前の英国風の渋い響きは、エヴァンス、モチアン、ラファロのコラボレーションに、いつのまにか調和や霊感といった叙情さえ思わせて、あるときは激しく、また静かに奏われる。
この14日間のいずれの日にか、ヴァンガードの客として楽しみたかった。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする