ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

N氏のアルテック

2009年01月18日 | 巡礼者の記帳
前項の牙城のあるじN氏は、これまで何度かお見えになったのでおおよその想像はあったが、写真は全容を正確に伝えるので、心得のある人は具体的な音像について思い描くことができるであろう。
「むかし仙台のお座敷で、何十万かする三味線の演奏を聴いたことがありますが、このタンノイ・ロイヤルの『竹山』は、あのときの音です」
N氏は、御自分のJBLの高域に多少の違和感を感じ、しばらく写真のアルテックのほうを鳴らしておられたそうで、余韻のある音も嫌いではないという。
オーディオの世界では、ピテカントロプス以来の系図をたどるようにして、タンノイかJBLかアルテックか、枝分かれにさしかかるが、厳密に楽しもうと部屋を3つ造って廊下を枝分かれにしている人もいる。
ところで水沢の『パラゴン』を聴かれましたか?
「聴いてきました」
八方に感度を広げ、たいていの音は耳におさめているN氏であった。
むずかしいことを言わずに音楽を楽しみましようと、バッハ・ホールの遠征の話をきこうとしながら、当方はオーディオ雑誌を手に持った。



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N氏の牙城

2009年01月17日 | 巡礼者の記帳
昔、或る年のオーディオ・フェアも迫った時、その女性は、コンパニオン・ユニホームに変身した姿を見せたいと思ったかわからないが「晴海のブースにいます」と言った。
当方の趣味のオーディオを先回りしているとは手強いが、行ったのは油断か教養か。
その群雄割拠する会場をぶらぶらしていると、オーディオ器機の置かれていない奇妙なブースがあって、はてなと思った。
猛烈な音が鳴っているのに姿形が見えず、スピーカーは壁に埋め込まれているのかがらんどうの奇妙な空間が、ともかく音響だけは凄まじい。
そのときはじめて、耳で聴くオーディオに、もしや、姿形こそが根本的に重要なのかなと思った。
これまでさまざまの『歌枕』を訪ね、吟味蒐集に多くの時間をついやされて完成した音像を聴かせていただいて、まず思い出すのはアンプの形状やスピーカーの雄姿である。
松の内も過ぎて再び雪の溶けかかった日、静かに登場したのは、ハイポテンシャルなJBLでタイルも剥がれるほど壁を揺さぶっていると噂の御仁であった。
子供の時からラジオの組立てに熱中し、長じてメーカーのオーディオ設計に籍を置かれた方である。
「私の装置は、仕事にどうしても究めておきたい水準というものがあるから、と妻の許しを得て蒐めたものです」
当方の好奇心を察して車から数枚の写真を持ってきてくださった。
そこに、想像を越えて魅力的な造形をもった勇壮なオーディオ・システムが並んでいた。
「しばらく使って音に少々ためらいを感じる『375ドライバー』を、思い立って分解して振動板を修正したところ、低いほうから高い帯域まで音像がスムーズに立つようになりました」
それなら、川向うで、そのことをつぶやいてみてはいかがでしょう。
「いえいえ、灰皿が飛んできては、いけません...」
一関から南に小一時間のところに造った新宅に住まわれているN氏の装置を、ぜひ訪ねて聴きたいものである。




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ローサーの客

2009年01月10日 | 巡礼者の記帳
当方から見るお客の姿は、ときに窓の逆光によってレンブラント・ライトのハレーションがバックロード・ホーン効果を思わせる。
読書に余念のない奥方と静かに並んでタンノイに耳を傾ける人は、銀幕で探せば中井某ということになるが、いつも言葉を選んで数少なく話す。
「いま、鳴らしているスピーカーはローサーです」
記憶によれば、まえはアルテックときいたが、英国のそのヴィンテージを当方はいろいろと想像する。
そして以前には、SPUのモノーラルになぜリード線が4本あるのか?と言っていたような気もする。
「いま面白い真空管を手に入れて、組み立てています」
8417管かなにか、その時鳴ったリチャード・デイビスのベースに消されて聴き取れなかったが、中井貴一が静かにはんだごてを握って新しいアンプを配線している姿をふたたび想像した。
この御仁の部屋には、わびさびを纏った音の宇宙が結界のなかにあるのではないか。
黙して語らぬ婦人が、その音を知っているのか。



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紙芝居

2009年01月06日 | 歴史の革袋
戦後4.5才のころ、国道沿いの三っ馬印の看板のかかった麻屋さんの脇道に「進駐軍の白人女性三人が現れ、紙芝居をやっている」と電撃的に情報が飛び交った。
スワ、ガイジンである。
子供同士すべてを放りだして駈けつけると、たどたどしい日本語でへんてこな紙芝居を物語る蒼い眼のオバサン達が、当時のそまつな服装でわっと集まった子供集団の放射視線にややたじろいだ。
フェー、これがアメリカ人かいと、檻こそないが、動物園でお互いが新種の類人猿を見るような、なにぶん初めて見るガイジンが紙芝居よりよほど衝撃で憶えている。
蘭梅山に不時着した宇宙人です、と紹介されても信じたに違いない異人の出現に、日本人とは違う人間を穴の貫くほど間近に見て考えさせられたが、いまの世では、ほとんどテレビによって意識に織り込みが済むのだろう。
紙芝居はそのあと、なりわいにするプロの演じ手の登場によって楽しんだ。
自転車の荷台に鎮座したおどろおどろしい絵を、太鼓とダミ声で十枚ほどめくりながら、勧善懲悪の物語を割箸にからめた水飴を舐めつつ観賞する。
紙芝居は、ドラミングとダミ声を駆使してアドリブを効かせ、非常にジャジーであるが、あるとき、いつもの空き地の夢空間は異常な緊張に包まれた。
少し離れたところで、通りかかった青年が無銭で眺めているのがどうも紙芝居のオヤジさんは気に入らない。
注意すると、よけいふてぶてしい態度で、青年はテコでも動かず「早くやんなさい」などと子供たちの手前もあり、積まれた竹竿の上に腰を下ろしてせいいっぱい余裕を見せようとしている。
我々子供は、どちらの味方も出来ずおろおろし互いを見比べていると、しまいには石つぶてが飛びだしたが、飛び入りの若いエンターテナーと場外演奏になった田舎のハイテンションな紙芝居をいまも憶えている。
ピアノ演奏の『巨星』と言われているアート・テイタムとエロール・ガーナーは、50年代初めのこのころの空気を、遠くアメリカで個性的に自己を保持してLPに残しているが、A面のテイタムはドラムスのかわりギターのトリオでサウンドがときに宙返りした。
B面のE・ガーナートリオのビハインド・ザ・ビート奏法を聴いていると、なにかこの時代の紙芝居のよう、と褒めては心得がたりない。
演奏後、ときに音楽論争もあったらしい彼等の、すばらしい演奏を正月タンノイで楽しんだ。
迫町のSA氏が、かの中国から凱旋し「モシモシィ」と電話をくださって、海の向こうで当方のブログをたのしんでいたと言われるが、「845アンプの新しい回路を考えついたのです」と申されて、現在そうとう画期的なサウンドでアルテックが咆哮しているらしい。
これは大変なことになったものである。




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関西なまりのブラック・ジャック

2009年01月04日 | 巡礼者の記帳
正月、松島町の客から、思いがけない話を聞いた。
仙台の一番町にあった古い役場のような建造物に喫茶店を開いた髭男爵の話はまえに触れたが、昔、そこに案内してくださったのがST氏である。
ST氏は言う。
「わたしは、珈琲の味に執着してスマトラ・マンデリン深炒りなどこれまで楽しんできましたが、あそこの珈琲の味にはカブトをぬぎました」
一関にも有名な焙煎の店がいくつか存在しているが、そうまでいわれては、知らぬではすまないこの世界であった。
ではわたしもというK氏と3人で遠征したところが、そこで心に残ったのは、鄙びた木造の空間に管球アンプで鳴るさりげない音量のフラメンゴの音。
珈琲茶寮の2階に置かれた『アルテック・フラメンゴ』の忌憚のない音が、都会のビルの谷間で何をか思考する良い道具になっていた。
その茶寮は或る時、かの浮世の名物、地上げとやらに遭遇したのか建物ごと行方不明になったことが不条理である。すでにいまでは、謎の空間となってしまったあの茶寮が、再びこの世に姿を現すことはないのか。
ST氏は言った。
「先日、新しい場所に店をかまえ営業を再開しているところに行ってきましたが、そういえばどうやら川向こうらしい人物が偶然立ち寄って、珈琲を喫していったらしいのです。」
おやおや、ふーん....。それで?なにか一言あったはずでしょう。
満を持していたようにST氏は、言った。
「立ち去るとき、ピアノの音がいいね、と言ったそうです」
そこまで話したときのROYCEに、手塚マンガ『ブラック・ジャック』でみかける男に似た人物が入ってきた。
窓際に席をとって、ジャズのことはあんまり?などというスタンスで居たが、友人がカーステレオの設計をしているなどと関西なまりで漏らし始め、ついにニューヨークのヴィレッジ・バンガードに詣でた感想を申されている。
集合住宅に住み、周囲をはばかる音量ですからなどといいながら、オーケストラのことに話が触れたので、当方はここで気を回して、ウイーン・フィルとベルリン・フイルのシンフォニーをそれぞれ大音量で提供すると、ブラック・ジャック氏は中央に移動して頭を抱え、「ホンモノさながらです」と言った。
どうやらこの人物も二本差しである。
タンノイ・ロイヤルが新しい年を迎えたこの正月、一関に雪は少なかった。





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ピラミッド

2009年01月01日 | 巡礼者の記帳
MJQの『ピラミッド』を聴いたあのころ、目黒通りに『フォード』のショールームがあって、ムスタングが星形のタイヤキャップをキラキラさせて走り回っていた。
当時、悠長で叙情的なテレビ映像に、はてな?と見ると、それは近所のトーヨーボールのコマーシャルで、ボーリングが大流行していた。寮近くの見ず知らずの八百屋さんにサイフを忘れて行ったが「あとでいい」と言われた、いまとなってはやや不思議な時代でもある。
ピラミッドは、ギリシャ時代にフィロンによって『世界の七不思議』建造物に選ばれ、四千年過ぎたこの正月も番組になるほどの存在であるが、モダンジャズ・クァルテットはクールにスイングして、タンノイのまえで落ち着き払って聴くことのできるサウンド。
夕刻、電話があって、天才モーツァルト・エジソン氏がご友人と登場した。タンノイに初詣である。
最近の開発成果をうかがえば、いかにコストを押さえてものすごい音の出る製品を作るか!と、メデアはメッセージであるところのオーディオ開発に、ジャクソン、ルイス、ヒースのピラミッドも腰を抜かすような迫真の演奏で、MJQがCount Basieのように聴こえるのであろうか。スピーカーの前の観葉植物がフワッと揺れる?今年も気が抜けない。



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