ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

須川岳の不思議な湖

2008年09月27日 | 旅の話
国道342を登って須川岳を越えるとき、本州を馬の背のように通る一本の分水嶺と交差する。
その分水嶺に立つと、太平洋側の領地を一関藩、日本海側が佐竹藩であると、皆いまも心得ているのがおもしろい。
富士はどこから見ても富士であるが、この地の須川岳はそうではない。分水嶺を越えた佐竹藩では『大日岳』と呼ばねばならず、伊達藩から見るとき、この山を『栗駒山』と称して、それが歴史というものか。
長老写真家が或る時訪ねてきて、大事そうに鞄から取り出した須川岳をめぐる数葉のスチール写真のなかに、気になる風景が写っていた。
山頂から、僅かに佐竹藩に入って横たわっているみずうみを撮影したものであったが、火山湖のためか魚も棲まない透明な水面をひろげて、春夏秋冬をただ日の光にひっそりとうたた寝ているという。
これはぜひ一度、登攀してみなければ。
さいわい、クルマで行けるときいて、或る時当方はハンドルを刀の柄のように握りしめ、分水嶺を越えて佐竹藩に入った。
舗装された道を進むと、検問も番所もなく、秋田おばこの姿もなく、隠れるように湖はあった。
駐車場から森の小径をたどって歩くと、清潔に管理されたキャンプの設備があって、山小屋が幾つも並んでいるが、塵一つ無い。
カセット・ラジオからスタンリー・タレンタインとそのメンバーが聞こえてきたが、タンノイでもJBLでもない、不思議な音がここでは鳴っていた。神秘の静けさを湛えた湖は、何を演奏してもただ吸いこまれていくかのような雰囲気があって、笙や篳篥で奏でる底なしのジャズである。
夕刻、仙台の帰りと申される人物が登場し、アート・ペッパーの『Meets The Rhythm Section』(R・ガーランドp、P・チェンバースb、H・J・ジョーンズds1957年LA録音)と77年の『VILLAGE VANGUARD LIVE』(G・ケイブルスp、G・ムラーツb、E・ジョーンズd)を鳴らしたが、お客の希望はその間にあった時間を聴こうという試みである。
演奏と演奏の間に横たわったA・ペッパーの20年を推量するのもまたジャズである。



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須川岳への342街道

2008年09月20日 | 徒然の記
話題の342号線は、標高1627mの須川岳(栗駒山)を登攀するめずらしい国道である。
九十九折りの難所を持ち、紅葉の景観は言語道断?の絶景であると、たいていのことに驚かない人々も、口をそろえて賞賛する。
この須川岳を撮り続けた某写真家の作品を、ジャズを聴きながら眺めるとき、耳と目からすばらしい。
その長老写真家の脳裡には、年期の入った須川岳秘図が完成されて、草花の群棲地を熟知し、季節と光のタイミングを心得ていること、余人の及ぶところではない。
大自然への憧れが、技巧を越えてそこにある。
しかし、時代は高山植物保護の監視が厳しくなって、カメラのリュックを背負って藪を分け入っていると、なにかと不都合な視線があって、撮影を止めてしまったのであろうか「ハッセルブラッドが欲しい」と話さなくなったのがマズいというか、惜しまれる。
オーディオも、『マランツ#7』や『是枝アンプ』と、欲しい呪文を言わなくなったらどうか。
この342号線は、道程のすべてがはじめから舗装されていたわけではなく、祭畤の手前の一か所だけ、ブナやシラカバの森林を300Mほどぶち抜いて直線の滑走路に造られたらしい。
どこに飛ぶのか滑走路の両側に、頭上高く森林の枝の延びた静かな森のトンネルが、342号線のなかで一番スポットといわれている。
天気の良い日、ここまで車を飛ばしてラジオのジャズを聴きながら、弁当を賞味するのが秋の行楽だ。

☆ちなみにモーツァルトのK342はオッフェルトリウム「声を張り上げて賛美せよ」であるのは偶然?。



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ジャッキー・マクリーン

2008年09月17日 | 徒然の記
みちのくは早くも秋を聴く路である。
国道342号線は、むかし義経が遠駈けした街道のひとつであるが、いま鹿が道を跨いでいる、貸し切り状態だときいて、車を走らせに行った。
れいの恐るべき地震ナマズが須川岳の麓で寝返りを打って陥没した路は、秋田の横手まで延びる途中、依然として通行止めになっていた。
「こいつはなかなかいけるね」
コンビニで買った弁当を、古代の荘園跡で食べながら、青く伸び始めた稲のうえを風が渡っていくのをながめる。
「相撲取りはいちにち2食ときいて、自分も2食にしたら缶コーヒーがあんなにうまかったとは。びっくりした」
隣の席の話に、おもわずむせて顔を見ると、バイクでころんで折れかかった前歯の唇がまだ痣になっている。
往時の平泉に、中国から輸入された珍宝の荷がゆっくり馬の背にゆられ、須川岳の崖路をやっと越えて342街道を進んでくる。
ひと休みしたのは、この骨寺荘園に造られた別当の館ではなかったか。
そこに義経も駈けつけて、頼んでいたブルー・ノート4106番巻を受け取った。つまり、現代なら...。
『ジャッキー・マクリーン』が、B・ノートに録った「レッド・フリーダム・リング」は、ビバップやスイングの約束はそれとして、あたらしいジャズの境地を楽しんでいる。
アルフレッド・ライオンも調整卓のまえでニッコリだ。


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クレオパトラの夢

2008年09月12日 | レコードのお話
バド・パウエル氏のピアノは、ビバップが日本の七五調に聴こえないでもないと匂わせている。
たとえば、「クレオパトラの夢」はこのように。

『タンノイもJBLも、スピーカーなんだって
壁に並べて、たのしく聴けていいじゃん
オレサマが、鍵盤をつむいだ音なら
真空管でも、トランジスタでも
だいじょうぶ。
ほーら
むかし、二股の人に泣かされたキズが
いまもズキンとくる?
ハッハッハ、、、と秋の暮れ』

もしこれクレオパトラを、C・ベーシー楽団がなされたらどうか。
まずJ・デュークの剛弦ベースが、ブンブンブンブン床の埃を躍らせて一周して、おもむろにピアノが二小節イントロをはじめ、あとをTPもTBもSAXもみんなでブワッとくるのがいいなあ。
ビバップ調にF・グリーンが間を受けて、B・マイルズがドシッ、バシヌ!とアップテンポにその気になったところを思い浮かべていたら、国道4号線はついスピードが上がる。
仙台からの帰り道、前後左右の車集団がインディ500のような一群となって、一糸乱れぬこの超スピード、うれしいけど大丈夫?と感心していたら、前方にどうも走っていたらしい電飾車が「ちょっとオ、みなさん」という感じで赤色灯を回したので、全車ただちにスピードを押さえてしまったのは、やむをえない。
ほんとうにあそこは、4号線もスイングがすばらしい。



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CANDY

2008年09月07日 | レコードのお話
杉並のS氏の電話は、オーディオ尽くしである。
「さきほど、某先生がお見えになって、新しくできた千葉のジャズ喫茶『キャンディ』のお話をされていました」
某先生とは、FM東海で、(日曜の肝心の困った時間に)オーディオについて歯切れ良く熱弁し、マニアを湧かせた一世風靡の人であるが、当方もその録音LPを何枚か所持している。
オーディオのかたわら、歯の薬師である。どちらがメインか、いろいろなお客の健康を司っている人徳のS氏であるが、そのうえ、ご先祖は伊達藩の御殿医をしたことがあるのですよ、と申されて、伊達藩と一関藩のえにしをちらっともらすユーモラスな人である。
JBLでメイン・ストリームのジャズを、新しい店と思えない音で鳴らしているキャンディの女性オーナーについて、ご本人もさきごろ遠征聴取された印象を熱く解説してくださった。
『キャンディ』という名は、リー・モーガンのあのLPですか?と尋ねた。
「そうです、とても雰囲気も、音も良い店ですね」
話は、アンプジラの修理のことから、本渡市の高名な調整師のお宅を訪問された話に移った。
そこに修理のアンプが全国から集まって、列をなして待機している話は有名である。
本渡市は海の色の綺麗なところで、熊本の空港から離れているのだが、車で移動したのであろうか。
「送っていただいたのは白いジャガーで、2時間ほど、快適に走りました」
カー・マニアでもあるS氏は、満足そうにフロントガラスの過ぎた夏の景色を振り返った。







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秋のタンノイ

2008年09月05日 | 巡礼者の記帳
秋のはじめに「喫茶で、伝票整理してもいいか?」と、客が戸口で言っている。
これをヨシとするとズルズルになるのか、と惹起して断ったのが6年前である。
その御仁が、めずらしくふたたび登場して「おとなしく2時間ほど休みたい」と。
やわらかに、ぐっとボリュームを下げておいて珈琲を届けると、ソフアにスヤスヤお休み中である。
目を覚ますと、もう一杯お願いしますと恰幅のよい人物は、東北を廻って何事か商って、6年前と変わりないご様子であった。
そういえば先日『月灯りジャズライブ』と銘打って、9/21にM・モーガン嬢が、花巻の旅籠のステージで繰り広げるライブを一泊して楽しめるのですヨ、と支配人がチラシをもって登場した。
「地震のこともあり、当支配人としてもジャズを企画してみたのですが、社長が、なんでもやってみなさい、と」
川向うに、そのチラシの捌けそうな所があるね、と当方は言った。
支配人はニッコリうなずいて、マスターは「どれ、そんならこうすれば」と言って電話を握り、花巻の新聞社の何者かを呼び出して、記事にする手配師に変身したらしい。
そのときバックのJBLで、どんな曲が鳴っていたのか支配人にたずねた。
曲名を聞けば、鏡の音を想像できる人々が、全国に大勢居る。
「それが、ジャズは、からきしです」と、支配人は相当の猛者であった。
CEDAR WALTONは、笑いながら弾いている。





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