ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

8月15日

2008年08月15日 | レコードのお話
戦後生まれに、8月15日の記憶はない。
ところが、或る日の8月15日、たまたまアキバ索敵飛行のあと、石丸電気から購入した戦利品LPを小脇に、歩きくたびれて山手線の青いシートに腰を下ろしていた。
夜更けのその車両には、お盆のせいかほとんど人が居なかったから車窓の夜景も見ほうだいで、これまでの収穫を思い浮かべていると、次に停車したドアから、酔って足どりのあやしい男が乗り込んで来た。
スーツのまえを開け、ネクタイをゆるめた眉の太い男は、当方と真向かいに座り、二人だけの車両に気分が緩んだのか、「戦友たちに申しわけない!!」などと、青二才の当方に酔った赤い目をくれながら演説やりだした。
お国に命を捧げた戦友とひきかえ、いまの世の中は云々、と加熱した悲憤慨嘆が続くので、あちゃーという気分で、真向かいに座ったまま、黄色の袋に入れた石丸のレコードも、このさいあやしく思えてかしこまった。
だんだん声が大きくなったとき、突然「ヤメロー!ばかもの!」と、隣の車両から、たまりかねて辛く甲高い青年将校のような怒声がビューと飛んできて、あとは品川駅まで線路のゴトン、ゴトンという音だけである。
一声の記憶が耳に残って、当方の8月15日になった。
蓄音機に布団をかぶせて聴いたと噂の戦中の規範でいえば、ちょうどそのときの山手線の車両の空気では、当方は非国民であり、ベートーヴェンはかろうじて許されるが、モーツァルトや、グレン・ミラーは(素)敵である。
没収されずに済んだ『SUPER BASS』をたまにタンノイで聴くと、Ray Brown, John Clayton, Christian McBrideの三丁のベースが豪華にブリンブリン鳴るが、これはライブのほうが見ごたえがあって有難い気分になるのでは。
石丸電気には、選りすぐりのLPがキープされてあるうえ、高額な割引券がついて捨てがたかった。



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12畳のタンノイ・ヨーク

2008年08月07日 | タンノイのお話
昔、12畳の部屋で、ヨークにマッキントッシュとパイオニアM-4を繋いで鳴らしていた頃。
管球アンプを休んで、トランジスタ・アンプをしばらく使ってみたわけで、大変勉強になりました。
左右の音のバランスがどうにも揃わず、アンプの特性を疑ってメーカーに測定をお願いしたり、なんてこともあったが、右と左を取り替えても結果は変わらなかったから、どうやら部屋の響きが原因だ。
このころS氏が中野の部屋から運んでくださった『ダイナコMK-Ⅲ』もしばらく使ってみたが、音を良くしようと取り替えたKT-88が真っ赤になったのにはたまげた。
その球を、江戸川区のタイガービルにあったハーマンを見学がてら持っていったところ、技術者が無言で交換してくれたが、こちらに聴かせるように『ダイナコ25』というスピーカーをわざわざ突然鳴らして「どうだ!」と良い音を出した。
後日そのスピーカーを購入して調べてみたが、それほどのものでなく手品師の仕業か?いまだにそれを残してある。
この部屋から見える公園の水銀灯に集まる『蛾』を狙って、夜アオバズクが飛んでいたが、野生の其奴は動物園で見るものと動作がまったく違って見飽きなかった。




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ホックニーのプール

2008年08月03日 | 旅の話
金ヶ崎のプールが忽然と消えてしまった今、残されたプライベート・ビーチは『小○代海岸』である。
一関から東南にゆっくり二時間ほど車を走らせ、山道を越え林の細道を縦断して、ついに辿り着くところにあるこの海は、左右を岩磯に挟まれた一キロメートルほどの湾曲した美しい海だ。
芋を洗うように人が集まることもなく、かといって淋しく人がまばらにというわけでもない。
そういえば、後楽園のアルプススタンドにジャイアンツ観戦したとき、原がホームランを打った。いいぞ、原。
そのときちょうど弁当を食べて忙しい当方に、ドッと立ちあがった隣りの家族連れのオヤジが横目でわざと紙吹雪を上から散らしてくる。あー、なにをする。一緒に踊れってか。
黄色のメガホンをきちんと準備して斜め前に一人座っている原たいらに似た人物は、嬉しそうではあるけれど、周囲をよその家族連れに挟まれて、やりにくそうなライブ観戦である。
行楽は、やっぱり、数人で出掛けるのがよいかな。
波打ち際から青い海は、沖にある岩が大波を遮って穏やかに寄せてくる。
手ごろな砂地にタオルを広げて、もらったパラソルなどを立て、売店から調達したタコ焼きやビールを飲むころ、太陽もゆっくり真上にいる。
静かにカセット・ラジオのスイッチを入れたら、ジョージ・ベンソンが鳴った。
金ヶ崎のホックニーのプールがなつかしい。





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八月の写真

2008年08月01日 | タンノイのお話
八月に、管球アンプの赤熱するヒーターが暑い。
そこになお、熱いコーヒーでタンノイを聴く。
「わたしは、冷ましてから喫するのがすきなんですが」どうして熱い珈琲がいいんでしょうかねと言う、クールなジャズフアンにも。
「コーヒーは熱いうちに」と、楽しめる八月なのだが。
八月の或る日、車の窓を開けて風を呼びながら、花泉の奥の知らない道に踏み込んだことが有る。
どうなっているのか、どこまでも車を進めていくと、道は二手に分かれて山間の森の奥に消えていた。
この先を行けば、もう同じところに戻ってこれないような気さえする迷路を走ると、やがて風景の開けた先に中世のヨーロッパの塔のような建造物が突然現れて、近寄ってわかったことだが、よほど西洋の好きな人間が一生懸命木造で組んだと思われる、人の気配のしない古びた微妙な建物であった。
机の抽斗からまた一枚、写真が出てきた。
タンノイを聴こうと席に着いて、眼の前のスピーカーが鳴っていると思っていたが、鳴っているのは部屋であると、試してわかった写真である。
スピーカーの位置を変えると、まず低音の質量が変わり、全体の周波数特性と響きが別のスピーカーのように音楽の鳴るのが聴こえる。
まったく同じタンノイ・ロイヤルであるのに、誰もがはっきり「違う」と言う。
聴いた人は音の違いにびっくりして、「以前に戻しなさい」と言ったり「こちらのほうが良い」と楽しめるのがオーディオ装置である。
大仕事につき、移動はおいそれとはできないが、そのうちまたやってみようと、写真を眺める。
花泉に、まだ知らない道がある。



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