ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

『T』

2008年10月30日 | 訪問記
「あれ?帰るの」という、いつもと違うフレーズが気になって、2日後の夕刻、早仕舞いして『T』に向かった。
トンボ帰りは、失礼だったか。
彼はバックヤードの奥から姿を現して、笑っていた。
「佐久間サウンドを聴かせていただきましょう」
ウーン、そうだねぇと棚から抜き出した一枚を「録音はよくないけど..」と、ガラードのターンテーブルに載せると、チャーリー・パーカーのB面の3番が、静かな店内のアルテックのワンホーンから突然のように柔らかで張りのある音で流れてきた。
初めて聴くもので、このLPのジャケット・アートも見たことがない。
バラードのフレーズがいささかタンノイと違う音色であるが、よろしい。
Tのマスターは、あくまで静かに、ソウルフルなモノーラル・ジャズの世界を呼吸してそこに居た。

☆壁のアート・パネルは、ペッパーのジャケットを2メートルに引き伸ばしたもので、反対の壁の、エレガントなモデルと一対になった理想の構成。そのアートを見ながらコーヒーを淹れるのが、ちょっとうらやましい。






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和歌山の客

2008年10月26日 | 巡礼者の記帳
和歌山の客人が奥の細道を分け入った日は、雨である。
「昨日は、館山まで足をのばし、WE300Bのサウンドを聴いてきました」
ここ三日ほど時間がとれましたから、と申される御仁は、学者風の懐の深さをただよわせて、管球ラジオの時代から真空管と馴れ親しみ、アマチュア無線の心得もある。
このような人の造るアンプはいったいどのような音を鳴らすのか、しばらく想像して楽しかった。
いつの生まれか?ときかれ、また、中国の300BとWE300Bの音の違い、ウエスギアンプの感想、マランツ#7のことなど、いくつかの質問があった。
これら形而上の話について、迫町の大先生や周囲の先人の再生音と論評がおもしろく、まとまることがあれば、音響哲学資料集が完成するのではと思われるが。
一説によれば脳みその数だけ良い音がある、ともいわれ、やはり形のないものを追求するのは容易ではない。
かろうじて形を備えるタンノイによって『色即是空、空即是色』のサウンドをいくつか聴いていただくと、一枚のLPの名をひそかに書き留められた客人である。
音の聴こえかたは二つあって、その場で聴いた音と、自宅に戻られて思い出す記憶の音がある。
音は、聴いたそばから消えていくので、大部分が記憶によって、その「よすが」となっていた。
佐久間アンプの話題でふと思い出した駅前の『T』には、そういえばドンブリのウドンを分けた話し以来、訪問していない...が。
佐久間アンプの世界は、関ガ丘の哲人からご紹介があって著書を読んだが、駅前の『T』にいくと、佐久間システムによる管球アンプとアルテックが鎮座して、江戸時代でいうところの一関の入り口に関所の役目を兼ね備えているものの、「きょうはやっていない」という常套句をつぶやいて客払いをするというTの音を聴くのは、容易ではない。
雨の外を見ながら思いついた。ここは一肌脱いでみるか。
「はじめにどこに行きたいか、雨よけの車でお送りしましょう」和歌山の御仁の希望をたずねると。
「川向うもよいですが、まず先に館山のあるじに言われたジャズ喫茶『T』に行ってみたいと思います」
このあいだ電話があって「ペッパーのオリジナル盤を譲ってもよいから、来てみない?」などと、ペッパーいのち!の『T』にして奇特な電話の言葉に、当方もオリジナルモニター・ゴールドが余っているから、ペッパーをお大事にと言ったのは、あれはいつのことだったか。
雨上がりの道をあっというまに車は『T』に着いた。
階段を登ると、チューリップ・フードの灯りが客を迎えて、ドアが半分ひらいている。
あるじの機先を制する必要がある。
あるじは、カウンターの上の奇妙な物体を夢中にいじっていた。
「それ、なーに?」
彼は、耳の上まで伸ばした髪で貫禄をみせながら、最近手に入れたラジオであるといい、和歌山の客人のためにアルテックを鳴らすことを承諾してくれた。
「あれ、帰るの?」
某寺島氏のいう「無口が、客のさわりにならない人」の声が背中にきこえ、当方はタンノイのところに戻った。
写真が、Tの佐久間アンプである。



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沖ノ鳥島の客

2008年10月18日 | 巡礼者の記帳
タンノイを聴きたいと、高速道を飛ばして二人の客人が現れた。
顔にぐるりと髭をたくわえて御仁は言う。
「わたしの本籍地は『沖ノ鳥島』です」
それは遠路ようこそ、と言いたいが、しかしあそこは水没まじかのサンゴ礁でしょう?
「このとうり登録してあります、郵便番号も100-2100」と楽しそうに自動車免許証を見せてくださった。
東京都から南の海600キロにアホウドリで有名な鳥島があり、そこからさらに1100キロ南に行った絶海の砂洲が沖ノ鳥島で、以前、波間に浮かぶ四つの砂洲をグラビアで見たが、いま、ほとんど海に消えかかっているそうだ。
二メートルの翼をグライダーのように滑空するアホウドリが、鳥島を棲み家にして400万羽も乱舞していたのに、わずか400羽となるときが来て、沖ノ鳥島も波間に消えるのか。
ひとまず設置された無人灯台の光の浮かぶ海を想像しながら、タンノイでジャズを聴く。
外に停めた白い車が、そういえば飛んできたアホウドリの姿に似ている。

☆アホウドリはアルバトロスともいうが、和名の味わいは優雅で格別だ。




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MEMORISE OF BILL EVANS

2008年10月15日 | 徒然の記
水面を境に、両側の世界で人と魚が対峙している。
子供の時、近所の名人の自転車の荷台にゆられ、何処とも知れない遠くに行った。
曇り空の、林の中を蛇行してネズミ色の深い川が流れている。
落ちないように茂みに掴まって、無言で糸を垂らす男の真剣な眼と、アゴに少々残っているヒゲを見上げ、それから流れの白いうきを見る。
目が回りそうになり、あわてて林の遠くを見た。
魚がいっぱい棲んでいそうな川に見えるが、なかなか釣れなかった。
やがて、雨が降ってきた。
大きな木の葉で頭を覆いながら、雨脚をやり過ごす適当な場所を探していると、古びた小さな神社があった。
駆け込んでそこにあった背後の池に、釣り糸を垂らしてみるからと雨の中を男は行った。
大人の手のひらのような大きさで、白い鱗を光らせた魚が、次々と釣り上げられて、あっけなく釣りは終わった。
雨も上がって、木洩れ日の差し始めた帰り道を、男の眼は複雑にやわらかである。
いま、あの川はいったいどこを流れてるのか、わからないのが妙だ。
ジャズを聴く客で、釣りをする人を大勢知っているが、そのとき音楽と釣りは別である。
水面下の世界を考えに考えて糸を垂らし、二つの次元の一瞬の接点に気を集中させる、苦行のような緊張を楽しむあまり、音楽どころではないだろう。
茶道でも、静かな緊張の持続にBGMは流れない。
緊張の緩んだビレッジ・ヴァンガードの休憩コーナーで、オリン・キープニュース氏はエヴァンス・トリオに話しかけていた。
画面左のキープニュース氏は『リヴァーサイド・レーベル』のプロデューサーの立場で「どうかね、WALTZ FOR DEBBYを、あと3テイク入れておきたいのだが」と言っている、あの日曜日だろうか。
ラファロは「おい、マジかよ」という顔だ。
このLPには、ヴァンガードの未発表テイクが一曲収められている。





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特別機で

2008年10月12日 | 旅の話
秋の行楽に、ジャズを着る店『ブリック・メンズ』さんは、伊達藩の一番町にある。
裏庭の落葉掃きをしているとき。ハガキが届いた。
拾った落葉を画面にあしらいつつ思う。
笑顔で着ればベスト・ドレッサー、とはビサルノのフレーズだが、一番町かス○トに、ヘリコプターでいつか行くのが楽しみだ。
いくつか座席は余っているその所属はまさか?。
それにつけても、絵のズボンの折返しに注目して、いかにも伊達男


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アルテック・マルチシステム

2008年10月05日 | 巡礼者の記帳
秋の空に、飛行雲が航跡を引いている下を、金田アンプの御仁は現れた。
蝶ネクタイの似合いそうな紳士は、永年アルテック3チャンネル・マルチシステムを研究し、スーパー・ウーハーまで備え、理想のバッハの探求に余念のない人である。
席について、タンノイの音を褒めると、「この三曲目を、ちょっとお願いします」と取り出されたCDは、難解な選曲だ。
しばらく傾聴されていたが、ROYCEの建築構造に質問があって、こんな言葉を話している。
「先日の地震で自宅の壁にひびが走りまして、このさい予定外に余らせたコンクリートを、オーディオ・ルームの床に流しこんでもらいました」
大蔵省にポーカー・フェィスのまま、ぬかりなく、事は運ばれたらしい。
また、真空管の型番があれこれ話に出るので「アンプは最近真空管ですか?」とお尋ねした。
「ええ、まあ...」
パワーアンプ六台も真空管で?.....かすかに頷かれた。
踵を接した六台のアンプの灯火がもれる室内に、スピーカー群が壁面に並び、いまにも音の出る瞬間の緊迫した空気を、タンノイの向こうに想像した。
おそれ多くも真空管マルチ・チャンネルである。
「毎日、音が空中を飛び交っている最中ですが、それがはたして....指標になるバランスを参考に、こちらに車を走らせて来ました」
マルチ・システムを追求する人々は、寡黙にしていながら底引き網の成果を目指している。
何をか覚悟してスタートラインについた長距離ランナーのごとく、いつか到達する理想の音が心に鳴っているのか。







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リディアン・C・コンセプト

2008年10月01日 | 巡礼者の記帳
野鳥が道端の水溜まりで行水しているとき、モダンジャズの鳴っている店の、一筋コーヒーの立ち昇るテーブルに広げられた新聞には、中国の古代王家の墳墓から大量の竹簡が発掘された記事が載っていた。
解読が進み「論語」が含まれていることもわかったが、「子のたまわく...」も、これまでと違う解釈に書かれている幾つかの章が現れて、皆驚いた。
先日、柔道五段といった摺り足で登場された黒縁メガネの客が寛いで「最後にぜひ、マイルスのあのものをお願いします」と申されて、ぎゅっとロイヤルを見据えたが、官庁の個室のデスクにおさまっている岩のような感じの、公園や駅ですれ違ってもジャズを聴く御仁には見えないところが、ジャズである。
タンノイの解釈による『カインド・オブ・ブルー』が、はたして墳墓の竹簡となるか。レコードのミゾから音楽を掘り起こすとき、それは巷にいうJBLのスピーカーで鳴るジャズの『名盤』に、違った解釈があるだろうか。
これまでの名盤といわれるものを思い浮かべる。
全国各地のジャズ喫茶の親方による音ミゾの解読を募ったところ、名盤の上位はまず『あの5盤』である、とのR・kamata氏の書籍は、まえにも記した。
この五枚の“ありがたさ”に異論はなく、これらに共通する秘密は、勃興したリディアン・C・コンセプトの演奏理論がジャズの心をひそかにとらえたのかもしれない。
コードからモードに、わかりやすくジャズが変容していく美しさが、それほどのものであったのか、恐るべし。
くだんの御仁は、「聴いてよかったです」と申されて、いずこにか去っていかれた。

☆あの5盤とは、下記の盤。
1.カインド・オブ・ブルー (マイルスディビス)
2.ワルツ・フォー・デビー (ビルエバンス)
3.バラード       (ジョンコルトレーン)
4.クール・ストラッテン  (ソニークラーク)
5.サキソフォン・コロッサス(ソニーロリンズ)



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