ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
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バッハ 「プレリュード、フーガとアレグロ」BWV998 (その2)

2005-08-08 | CDの試聴記
昨日に引き続きバッハの「プレリュード、フーガとアレグロ」を。
今日は、ギター編です。

この曲は、かつて巨匠セゴヴィアによってアレグロ除きのプレリュードとフーガが編曲されショット社から出版されていたこともあり、昔からバッハを愛する数多くの名ギタリストにとって好個のレパートリーになっていました。
アレグロつきの全曲が広く弾かれるようになったのは、イギリスの名手ジュリアン・ブリームとジョン・ウィリアムスの演奏がLPで紹介されるようになってからだと思います。
なお、ギターではオリジナルの変ホ長調という調性が技術的にも響きの点でも問題が多いので、通常は半音低いニ長調で演奏されます。(少し詳しく書きますと、変ホ長調というのはフラットが3つあり、ギターの開放弦6本のうち4本が使えなくなるため、技術的な制約が非常に多いのです!)
では早速お勧め盤を。

まず、リュートの幽玄さとギターという楽器の高い性能の両方を兼ね備えた名演奏として、スウェーデンの名手セルシェル(G)の演奏があげられます。
セルシェルは、通常の6弦ギターとは異なる11弦のアルトギターを使用することで、素晴らしい効果をあげています。
この響きの奥深さと音色の美しさは、今なお格別の魅力を持っています。
ところでこのバッハの美しい曲は、セルシェルにとって、最も権威のあったパリ国際ギターコンクールで優勝した時の、思い出の曲でもあります。私も、当時彼のコンクールにおける演奏を初めてFMで聴き、あまりの美しさに愕然としたことを今なお鮮烈に覚えています。
さて、次にお勧めできるのは、バルエコ盤(EMI)です。
バルエコは一旦最も低い第6弦をD(レ)に下げた後、カポタスト(フラメンコでおなじみですよね。指板にがちっとはめこむことで調性をコントロールすることができます)を1フレットにセットすることで、何とオリジナルと同じ変ホ長調として演奏しています。音のバランス、音色の統一感ではこの演奏が一番です。
その他、装飾音符が見事な効果をあげているデビット・ラッセル、テクニックの素晴らしさで群を抜く山下和仁、ゆっくりしたテンポで銘器ハウザー1世を鳴らしきった田部井辰夫等素晴らしい演奏が目白押しです。

しかし、ギターによるベストの演奏というよりも、私がリュートや鍵盤楽器を含めた中でも最も好きな演奏は、ジョン・ウィリアムスの旧盤です。
美しく起伏にとんだプレリュード、ため息が出るような気品と緻密な構成力をみせるフーガ、圧倒的な技術の冴えをみせるアレグロ、全てに申し分ない演奏です。とくにフーガの中間部で最初のテーマに戻る直前のカンパネラの美しいこと!
やや冷ややかな感触をもちつつ妖しいまでに美しい音、この難曲をいとも簡単に弾ききってしまう圧倒的な技術は、いまなおまったく他の追従を許しません。
ところで、私が高校生の頃、セゴヴィアをきいてもイエペスをきいても凄い演奏だとは思いましたが、自分でこんな風に弾きたいとは思いませんでした。ところが、このジョン・ウィリアムスのバッハを初めてきいたとき、電流に打たれたような激しいショックを受けました。私が弾きたいと思っていたのはこんなバッハだ。また、私の理想の音色はこんな音だったんだと、心底感じさせてくれた演奏だったのです。以来、この演奏が、今日まで色々な面で私に大きな影響を与えてきました。
今日、改めて聴いてみて、想い出は確信に変わりました。
なお、ウィリアムスは、その後バッハのリュートのための作品集と題して新たにレコーディングしており、そのなかのこの「プレリュード、フーガとアレグロ」も文句なしの名演ですが、その瑞々しさと気品の高さという点で旧盤には及びません。

機会があれば、クラシックギターの最高の名演奏のひとつとして、是非この演奏を多くの人に聴いていただきたいと思います。




コメント (21)
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