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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

奥美濃で出会った郡上一揆義民たちの墓所

2019-05-16 11:49:11 | ひとを弔う
 ちょうど先月の中頃、奥美濃へ観桜に出かけたとこのブログにも書いた。
 メインのお目当ては、郡上市は白鳥(シロトリ)町から牛道谷沿いに登った箇所にあるエドヒガン桜の古木、善勝寺桜だった。この名称は文字通り、善勝寺という寺院の境内にこの樹があるからだ。
 麓の町中のソメイヨシノはもう満開状態だったので、期待をもって山道を登ったのだが、ああ、何と途中から残雪がここかしこに見えるではないか。

           
        
        

 到着して、のぞみは消え失せた。路肩に雪が残り、わずかに蕗の薹が覗くのみ。お目当ての桜はというと、蕾の膨らみすら見せぬまま、つれなくそびえている。ただし、その樹の大きさからして、これが花をつけたらさぞかし見事だろうとは思わせる偉容ではあった。
 なお、その折の模様は以下のブログに書いた。

https://blog.goo.ne.jp/rokumonsendesu/d/20190417

 諦めて帰る前に、寺の墓所に立ち寄って、ん、ここにこれが、という息を呑む光景に出くわした。
 それは、江戸三大百姓一揆の一つといわれる郡上一揆の義民(犠牲者)35名を祀る墓所であった。
 もちろん、オリジナルではないし、もともと35名がまとめて葬られた場所もないのだが、これを建立したひとがその義民の末裔であり、これらの墓碑それぞれが史実に則ったものとあってはやはりないがしろには出来ない。

        
        

 なお、傍らにあった義民のうちの一人、細ケ谷村彦助の墓はオリジナルの模様である。

           
        

 ところでこの一揆、1750年代中頃(宝暦)に郡上八幡の金森家の年貢取り立ての増加に対し、奥美濃一円の農民たちが反対して立ち上がったもので、その過程で作られた首謀者を解らなくするための唐傘連判状がよく知られている。そのレプリカは郡上八幡城に展示されている。

        
        

 百姓たちの闘いは数年に及び、その経緯は一言では語れないほど錯綜している。
 事態は江戸表の政治的思惑をも巻き込んで混迷を極め、一時は百姓側の勝訴ともいえる結論がでたことがあったが、最終的には、百姓側がその責任を追及され、獄死や処刑など多くの犠牲者を見るに至った。

           

 ただし、この騒動で、金森家は所領を没収され、追放同然に身柄預かりになっているし、その後にやってきた藩主青山は、その教訓を汲んで藩政の改善に務めたといわれる。
 徹夜踊りで有名な郡上おどりは、この一揆で散った百姓たちへのレクイエムとして始まったといわれる。
 余談だが、東京の港区青山は、この青山藩の江戸屋敷があったところで、その関係で、いまもこの地区では郡上八幡の踊りと連携して、毎夏郡上おどりが開催される。

        

 郡上一揆は、理念から始まったものではなく、年貢の増強による生活破壊への抵抗として始まった広範な闘いであった。もちろん、百姓側にも利害の差異があったり、見通しへの違いなどがあって、いわば、裏切りのようなこともあったようだ。
 しかし、それも含めて、百姓たちが自分の生命を賭して権力にノンを突きつけた稀有な事態であった。

        

 ひるがえって、私たちは、これだけの緊張感をもって事態と対峙しているだろうか。あからさまな不正が横行し、所得配分の格差がじわじわと広がりつつあるいま、それらに対する不感症が私たちの習性になっているのではないか。怒り、立ち上がるという機能を奪われているのではあるまいか。
 なにをいっても、なにをしても、状況は変わらないというニヒリズムが私たちを支配しているのではなかろうか。

        

 電話もメールもない時代、いくつもの広範な山里に分散された郡上の百姓たちが、どのように連絡し合い、どう行動を一致させたのか、興味は尽きないが、きっと、このままでは自分たちは人間として暮らしてゆくことは出来ないという生の尊厳への思いが、技術上の困難や制約を超えて、彼らを団結させていったのではあるまいか。

 早春ともいえないほどの、奥美濃の古寺の奥まった個所で、そこに設えられた義民たちの墓碑は、「〇〇村の**」と記されていて、それがまさに彼らの生前の土着性を表現しているようだった。
 私たち現代人は、彼らのもっていた地理的なアウラを背負った生き様や、状況と真摯に対峙する生の在りようから遠く隔たってしまったのかもしれない。
 







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