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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

自然の逆襲によって侵食される廃屋

2015-10-22 14:52:24 | 想い出を掘り起こす
 各地で廃屋が問題になっているという。人跡が絶えた家屋が全国に散在しているというのだ。なかには倒壊のおそれがあるものもあるという。
 どうやらその要因の一つは、固定資産税の問題と、併せてこの景気の後退にあるようだ。現在の税制では、家屋を取り壊して更地にした場合、課税額が数倍になるという。だとすると、高い解体料を払ってわざわざ税負担を招くことはないと考えるのは自然だろう。



        それぞれ2008年12月、同じ廃屋を別のアングルから

 それでも、かつては更地にするとそれなりに買い手や借り手が現れたものだが、現在の経済情勢や、商業施設が大型化し集中するなどという都市構造の変化の中では、よほどの立地条件でなければ、次の利用者を見出すことは困難だ。
 そんなこともあってますます廃屋は増える傾向にある。
 それは都市部においても、私が住まいする郊外においても、ほぼ同様である。


          
       2011年12月 上の写真撮ほぼ同じアングルから だいぶ崩れている
 
 廃屋はうら寂しい。
 諸行無常をはっきりと突きつけるようなものだからだが、同時に、そこにかつて息づいていた人びとを想像させるよすがが残っていたりして、いっそう寂しさを増す。
 都市部の廃屋はなんとなくモノクロの感じがするのだが、私の住むような郊外の片田舎においてはいささか様相が異なる。この辺で廃屋になり打ち捨てられた建造物に対して、たちまち襲いかかるものたちがあり、それによってかえってカラフルになるからだ。
 それは自然そのものである。かれ(ら)は、人跡が絶えたその瞬間から、かつて人為によって奪われた彼らの領土を取り戻すかのように猛烈は反撃に転じる。

 それは植物の繁殖であったり、小動物や鳥たちの営巣であったりするのだが、年月を重ねるに従い、彼らの貪欲な逆襲は、かつての人為の痕跡を根底から無にするかのように、徹底した侵食を進め、やがては、もはや廃屋とすらいえないまでにそれらを埋没させる。

   
         いずれも今年6月、草木にほとんど埋もれ、白い花が

 ここに掲載した写真は、いずれも同一の家屋で、最初のものは08年の12月だからまもなく7年を数える。しかし、廃屋になったのは7年前ではない。もっと前からで、私自身この近くを散歩コースにした折、たぶん05年前にその存在に気づいていたのだが、「あ、廃屋だ」と思ったのみで、写真に記録はしなかったのだ。
 その折には、10年経つか経たないかに、これほどの変動するとは思いもよらなかったからである。


                いづれも今年10月初め

 何年か前、オッ、これはと思いブログなどに載せたことがあるが、その折は、廃屋から連想される私の記憶として、70年以上前、硫黄島の玉砕で還らぬ人となった当時の少年兵を偲び、それとの関連としてであった。
 15歳前後のかれらは、米軍の激しい攻撃にさらされながらも、その攻撃の止んだ合間には、故郷の方角に向かって、当時の唱歌、「故郷の廃家」を合唱したというのだ。
 これは私のように、戦争をわずかながらも体験した少国民の経験がある者の涙腺を緩ませるにじゅうぶんのエピソードである。

 いま、ゆえあって「アッツ島玉砕」に関する書を読んでいる。ここには少年兵はいなかったが、半ば強要されたような突撃とその結果たる死屍累々の図は、藤田嗣治の戦争画を待つまでもなく、私をうち震わせる。
 こうした、今ならわかる極限ともいえる人為の虚しさは、廃屋のそれに通じるものがある。

          
     かつての柿の木は伐り倒されていて、その子孫とみられる柿の新芽が

 そんなこともあって、一年に何度かは、この廃屋をウオッチングするのだが、その都度、少年兵たちが歌う「故郷の廃家」が、人為の虚しさをそれと指摘するかのように、どこかから響いてくる気がするのだ。

 
 https://www.youtube.com/watch?v=iWKG3i2J_4c
 台湾の合唱団が歌っているものを見つけたので添付します。日本語がネイティヴではないので歌詞が聞き取りにくいと思われる方は以下をどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=QQznPBvNr4U

 

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