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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

今年初、そして久々の映画『エヴォリューション』

2017-01-15 01:06:25 | 映画評論
 今年はじめて映画を観た。しかも2ヶ月ぶりだ。映画館の暗闇が懐かしい。
 その映画にどれを選ぶか迷った結果の選択だった。
 
 評論家のものは参考にはするが必ずしも選択の基準にはしない。ヨイショもあるし、その評論家自身の好みを知っていないと外れることもあるからだ。
 ユーザーレビューはよく観る。それも複数の人のものを観る。
 みんながいい点をつけているのは概していい映画だともいえる。
 その逆にみんなが悪い点をつけているのは概して良くない。
 もちろんそれらの逆もある。

          

 食指をそそられるのは、ひとつ星☆から5つ星☆☆☆☆☆まで評価が割れているものだ。
 これにも二種類あって、映画をよく観ていそうな人が☆☆☆☆☆でそうでもない人が☆という場合とその逆のケース、すなわち、みんなが☆☆☆☆☆なのに玄人風の人が辛いというケースだ。
 だがこれも、映画をよく観ている人の判断が必ずしも当たっているとは限らない。なまじっかよく知っているだけに、思い込みや深読みで映画をはみ出たところで評価してしまうケースもあるからだ。逆に、一般的に良くできているものに、ないものねだり的な注文をつけたりすることもある。

          

 それはさておき、私が☆☆☆☆☆と☆が入り乱れる評価のものに惹かれるのは、「どれどれ、俺が決着をつけてやろう」という思い上がりも多少はあるが、それのみではなく、それだけ評価が乱高下するということはそれだけの多様な要素をもっていて、そこには私が観たことのないものや展開が含まれているのではないかと思うからだ。

 まあ、前置きはさておき、そんな形で評価が激しく割れる映画がたまたまあったのでそれを観た。
 『エヴォリューション』がそれである。監督はルシール・アザリロビック(女性)。2015年、フランスの作品である。女性監督ならでの発想による映画かもしれない。
 一口で言えば、SFっぽい要素を孕んだホラーなのだが、ギェ-ッと驚くシーンは実際にいろいろあるものの、それらが実に静謐のうちに提示されるので、その驚きは外部に発散されるというより、私たちの内面での疑問や違和感、そして得体のしれぬ恐怖として堆積されてゆく。

            

 舞台はなぜか男の子たちと成人した女たちのみが住む離れ小島。それだけを聴くと何かメルヘンチックな感もあるが、その構成が織りなしている秘密が次第に露呈してくるに従い、そうとはいっていられなくなる。
 それらが、おそらくこれまで映像化されたことのない奇怪さを孕むものとして提示される。 
 当然それらが意味するものへの解釈への欲望が芽ばえるのだが、それに思いを巡らす暇もなく美しかったり妖しかったりする映像が次々に、しかもそれぞれがごく丁重にゆったりと映し出されてゆく。

           

 男の子たちをを映し出す以外のシーンや映像は、おそらく意識して無機的に撮られている。ラストシーンへとつながる強い心情的なつながりを示唆する展開はあるものの、それらもまた極めて静謐なタッチで淡々と描かれる。
 ただし、主人公の少年ニコラと怪しげな女性集団の一人でもありながらニコラに心動かされたステラとの海中での交歓シーンは実に美しくかつ妖しく、そしてぞくぞくするほど素晴らしい。
 
 なお、そうした愛の交歓を思わせるシーンがあるにもかかわらず、ステラを演じる女性は無機的にして無表情である。むろんそうした演出なのだが、それを演じるロクサーヌ・デュランという女優の表情はどこか、ルネサンス以前の宗教画に見るマリアを思わせる。いって見れば、慈母らしくない慈母ともいえる。

           

 ラストシーン、ニコラ少年が一人、小舟でたどり着く場所が唯一私たちがよく見知っている風景ともいえる。
 それはこの辺りでいったら四日市など、日本のあちこちにある石油コンビナートの海側からの夜景で、その含意するところも謎といえば謎だ。
 私たちがこの映画で見てきた奇っ怪な過程そのものが、この高度に工業化された社会の未来に横たわるまさにエヴォリューション(進化)の内容なのか、それとも、この現実の日常を遮断し、切り裂いた突然変異として、次のエヴォリューションを引き起こす予兆の啓示なのか、その判断は私たちに委ねられている。
 そして、この映画にいくつの☆を付けるかの判断も・・・。

 加えていうならば、成人の男性が一人も出てこないというだけで何処かバランスを欠いた危うい感じを持つのは私が男だからだろうか。
 あ、それに特筆すべきは、海辺そのものの風景、打ち寄せる波、海中のシーン、揺らめく海藻に珊瑚たちが、そして行き交う魚類の群れなどのそれぞれが、素晴らしくクリアーに美しく撮られていることである。

 今年最初の映画がこれでよかったと今は思っている。







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