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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

今年始めての映画、しかも二本。『ポトフ』とそして・・・・

2024-01-27 02:20:53 | 映画評論

 1月ももう終盤。もちろんTVの画面で観た映画はある。しかし、私が映画を観るというのは劇場でのスクリーンでのことである。

 なぜ、二本観ることになったかというと理由は単純である。本命の映画の上映時刻を検索していたら、同じ映画館、同じスクリーンで、私がマークした映画の前に、ン?これもという映画を上映していたからである。
 ならば、どうせ交通費を使ってわざわざ出てゆくのだから二本まとめて観てしまおうということになった次第。

         

 バスで岐阜の中心街へ出る。車中で本を読んでいたら、降りるべきところを通り過ぎてしまった。ひとつ先のバス停から徒歩で引き返す。
 時間に余裕をもって出たからその点は大丈夫だが、その道が危ない。というのは、昨日、岐阜はかなりの雪に見舞われたから、それが溶け切らず歩道を覆っていて、しかも、朝から踏み固められたところではうまく歩かないとツルリンスッテンの危険がある。
 若い人がさっさと歩くのをみながら、一歩一歩慎重に踏みしめてゆく。こんなところでツルリンスッテンで足腰を痛め、寝たっきりではたまらない。

 映画料金のシステムはよく分からないが、二本分まとめて買ったら2,000円になった。いつもはシニア料金でも一本1,200円なのに。バス代の往復分が浮いた勘定になる。

     

 で、最初は本命ではない方の映画『ポトフ』(監督:トラン・アン・ユン)。画面はいきなりドキュメンタリータッチの調理の場面で始まる。この瞬間、この映画も観てよかったと思った。この迫力、臨場感、登場人物の張り詰めた動作・・・・これらは私んちのTVのさして大きくない画面では味わえないものだ。
 ちなみに私は、映画館ではいつも前方に陣取り、画面全体の迫力を浴びるようにしている。

 料理の演出家と思われる主人公の意志を理解し、ときに自分なりの流儀をも発揮してその演出を現実の料理に仕上げてゆく女性の機敏な動作と適切な判断が素晴らしい。
 脚本家や演出家がいて、それに呼応したアクターが一つのドラマを完成させるように、鮮やかに料理が完成する。いずれも、和食系の手抜き料理しか作らない私には縁遠いものだが、その手順は素晴らしい。

     

 この料理のレシピ考案家=脚本家とその造り手=主演女優はすでに中年に差し掛かったいるが、恋仲ではあるといえ結ばれてはいない。これが映画の中盤、結ばれ、結婚にまで至るのだが、その途上のセックスシーンに至る過程を思わせる描写が面白い。
 いずれも、シャワーを浴びたりベッドに横たわる女性の美しいヌードが後ろ姿で出てくるのだが、そこでシーンがカットされる。

 二人の結婚式で新郎が語る「人生の秋に結ばれる」くだりのセリフは詩的で美しい。しかし、映画の前半から示唆されていた彼女の体調の悪さが災いして、彼女の死に至り、秋は冬へと転調する。
 折しも彼は、ユーラシア皇太子歓待の晩餐の調理を任され、豪華絢爛なフランス料理ではなく、家庭料理ポトフでチャレンジしようと彼女と決めていて、その準備を進めていたのだが、哀しみの中で酒浸っている彼にはもうその気力はない。

     

そんな彼を再び立ち上がらせるのは、冒頭で出てきた初々しい少女である。彼女は、絶対音感に相当するような絶対舌感をもち、出来上がった料理を一口味わうのみで、もはや原型を留めぬその食材の数々や用いられた調味料などを言い当てることができるのだ。
 この彼女の再出現が、彼の最高のポトフへの挑戦を蘇えさせるところで映画は終わる。
 
 ここには、最後に青少年を登場させて未来への希望を託すという映画や小説でよく用いられる一般論もあるかもしれないが、老年の私はむしろ彼自身の再生の物語としてこれを解釈したい。

     

 私は普通、映画の紹介では古いものはともかく、最近のものではこれから観る人たち
のことも考え、その映画のストーリー展開まで語ることはない。
 しかしあえてここまで突っ込んで語ったのは、この映画はまさに劇場の画面で見聞するものでストーリーの解釈などは二の次だと思ったからだ。
 
 「見聞」と書いたのは、映像はもちろんだが、この映画ではいわゆる映画音楽や効果音などは一切使われず、現実音のみで表現されていることだ。だから、その調理の場面などの臨場感は半端ではない。
 厳密に言えば、ラストシーンとクレジットで音楽が流れるが、これはクラシックコンサートなどのアンコールでよく用いられるマスネー作曲の「タイスの瞑想曲」で、原曲がヴァイオリンなのに対しピアノ演奏となっている。

 三分余の予告編を以下に載せるので興味のある方はどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=o0_1wXxZo5k

 もう一本観たのは塚本晋也監督の『ほかげ』で、こちらの方が観たい本命だったのだが、もうじゅうぶん長くなってしまった。回を改めたい。


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