イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

テレビ朝日5夜連続『白い巨塔』 ~モン-ブラン(白き高峰)の星~

2019-06-07 19:06:49 | 夜ドラマ

 6月に入ったのにいきなり5月に遡る話ですが、テレビ朝日開局60年5夜連続スペシャルドラマ『白い巨塔』1。

 文庫で全5巻、1960年代当時の週刊誌連載で正編1年9か月、続編10か月余りにわたる長尺をたったの5夜(5月22日~26日)。5“夜”だから当然、朝、昼はやらないわけです。夜だけで5日。当たり前だ。

 こりゃもう刈り込みまくって原型ギリギリの、作者山崎豊子氏がご存命だったらぶちゃむくれて叩き出されて塩まかれるレベルの失礼千万なお粗末脚色になるだろうな・・・・と怖いもの見たさで視聴始めてみたら、これが意外と締まった、外科医モノだけにそれこそ“刺さる”、良作だったものですからいやもうまったく世の中わからない。恐れ入りました。

 まず、連続ドラマ各局軒並み苦戦中のこのご時世に、5夜連続、週一ペースの5話連続で5週間ではなく、水曜日から日曜日に毎晩5日続けるという放送のフォーマットが(何週間もにわたるゴールデン枠取りのほうが編成上難儀だからなるべくしてこうなった側面もあるでしょうが)“技あり”でした。

 連ドラに大ヒット作が出なくなっている理由の一つに、“今日見た話の続きを、一週間待つことができない客が増えた”ことがあると思う。

 長期にわたって好調なNHK朝ドラは、今日の続きが明日か、遅くとも明後日には見られる。週一放送で安定した数字をとっているタイトルはたいてい一話完結で、今日の事件は今日解決し、一週間後には別の事件、別のゲスト人物で新しい話になる体裁です。

 自分がユーザーでないので身をもって断定はできませんが、やはりスマホ動画の影響が大きいのではないでしょうか。数分間だけ画面に集中していればいい、冒頭の数秒か十秒間でガッと引き付けてワーッといってパッと終わる投稿動画を渡り歩く日々の視聴者には、一週間なんて空いてしまうと、如何に引きの強いストーリーだったとしても、他の話題コンテンツで興味関心のスペースが埋まって、忘れられたり諦められたりしてしまうのです。

 もちろん高齢者にとってはさらに、一週間後の同曜日まで絶対生きていないと次どうなるかわからない、5週間ボケずにいないと結末が見られないよりは、5夜だけ頑張れば見届けられる作りのほうが圧倒的にありがたいに決まっている。

 ・・・・冗談はさておき(冗談かよ)、今版の財前五郎役は岡田准一さん。親友にして好敵手の里見脩二役は松山ケンイチさん。ともにNHK大河主演俳優で5夜連続スペシャルの主役としちゃ位負けしない豪華さですが、待て待て、今回は時代劇メイクも、鬘も甲冑も衣冠装束もなし、ベビーフェイスの素顔じゃいかにも若すぎない?巨塔=因習と権勢争いに満ちた国立大学医学部の教授の座を窺う役には、演技力以前に見た目のカンロクがコレどうなのよ?と危惧した向きも多かったでしょうが、こちらもまったく心配ご無用だった。さすがに選ばれてオファーされるだけのことはあり、求心的に整った顔立ちなうえにガラが小さくいや増しに若く見える岡田さんは“気障(キザ)でスカして万事に様子ぶっている”、ときどき微妙にイッちゃってる目をするのでいまいち正義のイメージがない松山さんは“医学生然として青くさく空気が読めない”という、それぞれ演じるキャラの解釈切り口一点突破で見事に5夜を成立させ切りました。

 とりわけ、原作では「長身の偉丈夫(いじょうふ)」とはっきり描写されている財前役を公称身長169㌢岡田さんが演じるについて、“身長問題”への演出上の対処が堂にいっていた。

 第1夜冒頭、滝沢名誉教授(小林稔侍さん)喜寿祝賀パーティーの客入れシーンを持ってきました。会場入口で愛想笑いお迎えは鵜飼医学部長(松重豊さん)と第一外科東教授(寺尾聰さん)。通用口から厳しい顔で現れた岡田財前(←この略称お武家様みたい)、東教授に「(主賓の名誉教授が)“来られない”と・・」と耳打ち。滝沢名誉教授という人物はかねてむらっ気で内輪では有名らしく、聞いた東「またか」。即、傍らの鵜飼に「出席しないと仰ってるようです」と伝言ゲーム。聞いた鵜飼「財前くん!ご機嫌を損ねるような事でも言ったのかね!」

 ・・医学部大御所コンビの、上に弱くてビビりで世間体上等な体質がこの1シーンでも伝わるわけですが、注目すべきはこのオヤジふたりが囁きかわしている間、一歩後ろで財前が、左手を頭上に上げて、続いて右手を肩の高さに上げて、手のひらを顔に向けてヒラヒラ交通整理の様な動きをしている。そのあと「そうそう、君と君だ」というように小さく頷くので、あぁ、東と鵜飼と話をするから客迎え係を代わってくれと呼び寄せたんだなとわかる。

 そして、次のカットで鵜飼が「半年前から準備をしてきたのに・・キミの責任だよ!」と財前を詰るその前列に、飛んで来て代わった迎え係が並んで立っているのですが、これが、若輩財前が手信号で呼びつけられるとは思えないような頭髪具合のご年配二人。

 これだけで、岡田財前がどれだけこの若さで要責を担いブイブイ言わせているか目で見てわかる。

 後ろでは東「鵜飼先生、説得しましょう」と通路を控室に急ぐ二巨頭。先導するのが財前です。何が堂に入ってるって、東教授役寺尾聰さんは1947年生まれ176㌢、約四十年前に自作詞作曲『ルビーの指環』で音楽賞を総なめにしたグラサン姿をご記憶の向きもあると思いますが、この人団塊世代には珍しい長身。鵜飼役松重豊さんに至っては1963年生まれ188㌢とアスリート並みの規格外ノッポ。

 輪をかけて、控室で白スーツに旭日章磨いて準備万端なくせに「会場を案内されたとき誰も私に気づかなかった」と蒲田行進曲の銀ちゃんみたいなダダをこねて顔にペインティングなんかしてる名誉教授役小林稔侍さんも、1941年生まれ御年78歳でありながらこれまた世代的には規格外の180㌢。

 我らが(誰らがだ)岡田財前、ヒストリック・カーのロールスロイスやメルセデスベンツに囲まれたダイハツミライースみたいなヴィジュアル状況でありながら、機転が利き弁が立ち、先を読んでの立ち回りのクレバーさで切り抜ける切り抜ける。ダダこね名誉教授には演歌歌手ばりの、顔サイドでコブシ握るアクションつきで大説得する。

 切り抜けが巧過ぎて逆に敵を増やし心底からの味方を減らしていることまでは気がついていない、愛人ケイ子(沢尻エリカ様)の評価「・・腕がよくて、男らしくて、自信家だけど、ちょっとおめでたいところがある」通りの財前。この形容、現代の沢尻さん世代の女性は関西人でも使わないのではないかと思いますが、“自覚がない”“勘違い”、或いはいま風に“オレ様”を、ネガティヴなニュアンスを込めつつ皮肉に言い表した“おめでたい” という表現は言い得て妙。とにかくこの冒頭で、ノッポ白髪オヤジ3人を両翼につけてセンターフォワードをやり切って見せたせいで、以降の回診シーンであろうと手術室シーンであろうと、“若見え”“低身長”“貫禄不足”は何の問題にもならなくなりました。

 月河と高齢家族一味が、5年前の大河ドラマを完走したので岡田准一さんの演技力にあらかじめ一目おいていたせいもあるかな。今版の監督も大河見ていたのか?と思う場面もありましたね。第2夜、長時間の手術で(財前の計算通り)ダウンした東を教授室に見舞う場面で、東が差し出した右手を握手かと思って財前が握るとグイッと掴み寄せられた所では『官兵衛』ウォッチャーなら全員「オマエの左手は何をしているのだ!」とツッコんだでしょう。寺尾さんは『官兵衛』では徳川家康役でした。

 岳父・財前又一(小林薫さん)が招集したお座敷、医師会長(岩松了さん)と市議(山田純大さん)が障子を開けて入って来る前に、サッと脇に控える立ち居の素早さも見事で、高齢家族2は「財前だけ黒田家だね」と感心していました。第1夜で東に「(鵜飼学部長が診断ミスした患者を)手術させてほしい」と懇願する場面で、欧風の喫茶ラウンジの椅子をスイッと脇によけて土下座する動きもびっくりするほどスムーズ。やはり時代劇で鍛えられるとこういう所に違いが出るものなんですね。

 今版の財前は、原作の昭和40年代前半とは様変わって同じ消化器外科でも食道~胃ではなく肝・膵・胆のスペシャリストと設定され、ここは原作同様自分の専門畑である部位の癌に侵されて倒れるのですが、時代も令和に変わったことだし、そろそろ“死なない”終わり方の財前にならないかなと思って見守ったのですけれど、おいたわしや岡田財前。

 財前が死の床で医師としての思いを記した絶筆、ドイツ出張土産と言って里見に渡したのとお揃いのMONT BLANCのペンだったのが切ない。二本並べて、ホラお揃いですよと見せる様な場面はいっさい無いのですが、第4夜、裁判で財前に敵対する原告側の証言をした里見が覚悟を決めて退職届を書くときにケースを開けるとMONT BLANCのロゴが見える。MONT BLANCと言えばフランス語で白い巨塔ならぬ“白き高峰”、そして白い☆マークがシンボルです。

 引き出しの中に他の筆記具もあったのに、わざわざ財前からの土産で退職届を書くところに里見なりの決別の意思が見て取れる。

 そして時移り財前の死後、“神の回想”のように財前が絶筆を書いている姿が映ります。すでに利き手の右手にペンを持っても握力はなく、左手を重ねて一字一字絞り出すように運んでいるのですが、指と指の間からキャップトップの白い☆が見えて、あぁ里見にプレゼントしたのと同じ・・とわかる。

 書き終えたところに里見が入ってきて、心ならずも一時対立した二人は元の親友として、微笑んで穏やかなアイコンタクトを交わすのですが、カットの見かたひとつで“財前を送ったあとの里見が見た幻影”なのか、もう一日前の時制で“絶筆を書いた後、意識を失う前の財前が見た幻影”だったのか微妙になっている。

 視聴者としては里見先生!ペン見てペン!気づいてあげて――!と思ったところで提供ベースの巨塔ロングショットになって終了。

 ・・・腱鞘炎持ち月河の経験上、ペンが握れないときは万年筆じゃなく2Bか3Bの丸軸の鉛筆がラクなのになー・・とかそういう小姑の様な余計なお世話は無しにしときましょう

 細々食い足りないところを挙げるとキリがないものの、最初に触れたように“5夜連続”はドラマとしては当節ギリギリの容積で、6夜だったらもっと踏み込めた、描き込めたのにと思わないではないけれど、日曜に完結させる前提での6夜となると水曜スタートではなく火曜スタートになり、これはもうやる前から「木曜でダレて客が離れるな」「離れた大方は金曜に戻って来ないな」と予想がつく。

 月河の非高齢家族も、「エリカ様と(財前の政略妻・杏子役)夏帆ちゃんの活躍が少なかったな」と惜しみつつ「金・土・日を二週続けたらよかったんじゃないか」と言っていましたが、そうなるとやはり“一週間待たせる”ことになり、苦戦する週一連ドラ界と同じ轍を踏む可能性が高い。

 満点は付けられないがフォーマットも内容も、演者の演技も、よく練ったし攻めたと思います。「怖いもの見たさ」なんて大変ご無礼を申しあげました。でも岡田財前の活躍暗躍はもっと見ていたかった。スピンオフ来ないかしら。本編のキャストが豪華すぎて作れないか。


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