最近、『劇場版Ⅱ』の宣伝がいささか賑やか過ぎて鼻白みますが、『相棒 season 9』第7話(実質6話)“9時から10時まで”は、サブタイトルから容易に読める通り、放送時間に合わせリアルタイム進行に設定した『24(トゥウェンティフォー』方式のエピソードでした。
脚本徳永富彦さん、season 8“怪しい隣人”以来の登板ですが、この人は今回の阿藤快さんの骨董道楽のような“安心して笑える、わかりやすい笑かしキャラ”を入れると、ゲーム感覚なお話に精彩が出る。同じseason 8“消えた乗客”などは、冒頭、メリー・セレスト号事件の再来か!はたまたオリエント急行殺人事件方式か!とゲーム、パズラー魂をバリバリ刺激しておきながら、こういう道化ないしトリックスターが配置されず、根暗で陰性な犯人たちのべちょべちょの怨恨の輻輳だけにとどまったため。好エピになり損ねました。今回はスイートスポットにミートした様子。
神戸くん(及川光博さん)がたまきさん(益戸育江さん)からの映画デートのお誘い(←右京さんには興味なさそうな血みどろホラー映画だったので、神戸くんに声かけたらしい。しかしたまきさんも意外な趣味てんこもりの人だ)で早い退庁、午後8:20(←放送開始=劇中時制スタートの40分前)に銃声通報で現場急行し米沢さん(六角精児さん)と合流したのは右京さん(水谷豊さん)ひとり。しかし右京さんの検証する現場と、神戸くんがたまきさんとともにアフター映画の熱冷まし(て言うか吐気覚まし)に寄ったコットンクラブの怪しい男客たち&怪しい骨董商談とは、分刻みでみるみるうちに接点を持って行き…
本家『24』の「あざとさ?何それ」と言わんばかりの確信犯的ジェットコースターには及びもつかないものの、接点(=景徳鎮の絵皿)ができてからの、真相がどっち方向にあるのか読めそうで読めない羅針盤のミスリード振らしっぷりは、全体の登場人物数の少なさもあってなかなか小洒落ていました。
阿藤さんの、惜しげもない陽気な土建屋チックおバカ全開(←「不動産業」と自己紹介してましたが)もさることながら、若々ツルツルお肌、端整すぎて怪しい美術商役・黄川田将司さんも、前々回“運命の女性”の京野ことみさんを思い出させる“一周回ってナイスキャスティング”だったと思います。骨董知識、歴史知識バリバリ武装して身なりも一分の隙もなく、金持ち顧客相手に余裕綽々と見せて、「結局は芯が気弱(=ドジな相方と腐れ縁)」が透けて見えるのがいい。
仮面ライダー経験俳優さん(劇場版『仮面ライダーTHE NEXT』本郷猛役)の起用法として、ちょっとseason 6“この胸の高鳴りを”における松田悟志さんを思い出したりもしました。良きにつけ悪しきにつけ、臆病系の“強くない”人物にするというね。
暴力団がらみの射殺事件とあって捜査一課トリオも珍しく颯爽と聞き込みに立ち回り、庁内で残業中の組対5課「暇か?」の角田課長&大小コンビにも軽く見せ場があったし、ラストは神戸くんの「おや?もしかして(たまきさんのデートを)妬いてます?」に右京さんの「キミもおかしなことを言いますねぇ(微硬直)」で締めて、9:52、めでたく事件解決。冒頭CM提供ベース→Bパート導入を映画『カサブランカ』の『As time goes by(時の過ぎゆくままに)』ピアノソロにしたり、“今日はリラックスして観てね”のお遊び心メッセージがそこかしこから流れてくる。
放送開始10周年の世界観・キャラ造形積み重ね分厚さを武器にした、いまの『相棒』でなければできない作りのエピソードでした。先週(1日)放送“暴発”のビター硬派さの直後週だけに好みは分かれるだろうけれど、番組としてのフトコロの深さが感じられて、月河は嫌いじゃないな、こういうの。
犯人の意外さや、事件、状況、動機などのせつなさといったメインディッシュのお味より、盛り付け=叙述法のユニークさで引き込み引っ張る、これはすでに築き上げられた世界観が磐石に分厚いからこそ可能。
あと、脚本徳永さんは、キャラの中で結構捜一ヤング芹沢くん(山中崇史さん)がお気になのかもしれない。season 7“髪を切られた女”同様、“まじめなコメディリリーフ”が冴えました。裏階段から雲隠れをはかる容疑者に立ちふさがり「どちらにお出かけですかァ?」まではいいとして「こんなこともあろうかと…」と誰もいない大向こう向いて見得切ろうとしてんじゃないっつうの。まだ伊丹先輩の似顔絵、ノートに描いてんのかな。
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