2月の大杉漣さんで、何かパンドラの函的なもののフタがふっとんじゃったんじゃないかと思うくらい、「死ぬようなお年じゃないだろうに」と思う人の訃報が続きます。
星由里子さん七十四歳。民放BSでよく流れる機能性カフェインレスコーヒーのCMで、ほとんど毎日元気なお姿を拝見していた気がしますが、あれは何年前の収録だったのでしょう。TVの人の頭髪・整形にはことのほかセンシブルな、月河の高齢家族その一は「あのフワフワ感はイブファインかねー」なんて見るたび言ってましたが、確かに髪のヴォリューム感比で、お顔の輪郭がしぼんだような印象はありました。若さのピチピチ感でもってるアイドル系カワイコちゃんと違って、星さんの様に目鼻立ちのもともと整った正統派美人さんは、いいお年になられても劣化が少ないので、衰えが目立たなかったのでしょうかね。
東宝映画のシンデレラ・オーデションで抜擢されて、加山雄三さんの大ヒットシリーズ“若大将”でずっと共演したマドンナ役でしたから、美人さんながら加山さんの女性ファンにも反感を持たれないタイプだったのでしょう。月河はまだ小学生だったので劇場映画で拝見することはなく、せいぜい実家母がときどき買っていた婦人雑誌の表紙や、ファッションスタイルブックのモデルとして知っていた程度です。
そんな中でも、ウロな記憶で申し訳ないのですが、1967~8年(昭和42~3年)頃、たぶん雑誌『少女フレンド』の増刊号だったと思います。巻頭か扉口絵のおしゃれグラビアで“あこがれのウェディングドレス”とかなんとかいうテーマで星さんと、吉永小百合さん、そして当時の『少フレ』のイメガだった高見エミリーさん(のちの故・鳩山邦夫議員夫人ですね)とのスリーショットが載っていたことがあります。
当時の月河はチラシの裏にスタイル画のパロディーみたいのを描き散らすことに情熱を燃やす子供だったので、ここだけはわりと鮮明に覚えているのですが、お三方それぞれの持ち前のイメージに合わせたのでしょう、小百合さんは身頃に白いバラのように重なるフリルをたっぷりあしらい、スカート部分は純白無地の妖精さん風、エミリーちゃんはパフスリーブで袖口が細くなったおとぎ話絵本の王女さま風。星さんだけがデコルテをチュールレースで覆って露出感をおさえ、身頃にもスカートにもパールビーズを線状に散りばめた貴婦人風で、子供心にこの人がいちばんオトナなんだなと認識を新たにしたものです。
とは言え訃報で改めて確かめると、星さん1943年12月生まれ、小百合さん1945年2月生まれで、当時推定24歳と23歳ぐらい、学年にするとひとつしか差がないんですね。小百合さんの場合、子役~少女子役歴が長いので、見るほうがいつまでも女学生的に見ていたせいもあるかもしれない。
(ちなみに高見エミリーさんは1955年2月生まれで、このグラビア当時は十代前半だったはずですが、ハーフだからか近所の中学生のお姉さんたちよりずっと大人っぽく、というか成熟して見えていました)
当時の東宝の社風で、星さんも清楚で優等生なイメージの女優さんでしたが、『ゴジラ対モスラ』等特撮ヒロインとしても活躍されていたのでファン層が広く、月河よりひと回りほど上のお兄さんたちにも「嫁をもらうなら」とタイプに挙げる人が多かった。色合いが変わったのは、やはり、今更ですが1969年(昭和44年)の某・不動産王ジュニアとの、高度成長期当時の芸能界基準でも法外だったクソ豪華披露宴と、二カ月余りでの超スピード離婚報道でしょう。結構熱心なファンだった月河の従兄のひとりは「あの一件以来、“カネの好きな女”に見えるようになっちゃって」と述懐しています。結婚して一時的にせよ他の男のモノになったこと自体はそんなにイヤじゃなかったそうですが。
(男性が、マドンナ的にあこがれていたアイドルから“降りる”タイミングときっかけって女性におけるそれより微妙なような、あっけないようなですね。この星さんファンのヤツとは別の、親戚の団塊男子はフランス女優カトリーヌ・ドヌーヴさんにこよなく憧れていたのですが、彼女が70年代当時日本で出演していたCMのプロモーションで来日した際わざわざ会見場のホテルまで“生ドヌーブ”さんを拝みに行って帰ってきたら、「顔は綺麗だけれども手がグローヴみたいにでかくて、幻滅した」と部屋のポスター類も即日撤去していました。いまは“会える、握手できるアイドル”が人気ですが、当時のマドンナ的アイドルは“距離”がもっと必要、というか距離がすべてだったのです)
星さんに話を戻すと、劇場映画でご活躍の頃は前述の雑誌グラビアぐらいでしかお姿を見ることのなかった月河にとって、女優・星由里子さんをいまだに鮮烈に覚えているのは1976年(昭和51年)のNHK大河ドラマ『風と雲と虹と』の源詮子(せんこ)ですね。ヒーロー平将門(加藤剛さん)の伯父の後妻におさまり、内側から知略、注進、焚き付けとあの手この手で将門を罠に嵌めようとする悪女。最後はヴァンパイアみたいに落雷にうたれて命を落とすのですが、これだけあからさまに険のある、嫌味全開な星さんを見るのも初めてで、やっぱり悪女役は美人さんが演ってこそだなあと改めて思いました。星さん自身も結婚離婚とゴシップ、バッシングも経験して、東宝仕様のキレイめ路線と相反する役柄に新境地を見出そうとしていた時期だったのかもしれません。
昨今の高齢化社会で、どんなジャンルのドラマでも映画でも高齢者役は欠かせないし、“老けづくりにしても美しい”シルバー世代女優さんの需要はむしろ増えつつあるはずですが、お若かった頃の記憶の上にあまり“上書き”されないうちに去るのも、女優としての本懐なのかなとも思う。それにしても七十四歳は早いです。
そう言えば『相棒』の内村刑事部長(片桐竜次さん)の長年の心のマドンナ女優・島加代子(@Season5『殺人シネマ』)役が星さんでした。2007年3月の放送時点で“レジェンド的大御所”の設定でしたが、演じたご本人が逝去となると、劇中、代表作『海峡の虹』の追悼上映とかないかしら。大杉漣さんの衣笠藤治副総監問題だけでもえらいことだったので、それどころじゃないか。まさにこちらも高齢化社会、ドラマも長寿になると、作品世界の維持メンテナンスがたいへんです。
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