イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

極めたもん勝ち

2012-03-09 01:03:54 | 朝ドラマ

「うちは、なあんも失くさへん。相手が死んだだけで、なあんも失くさへん」「ヘタレはへたれて泣いとれ、うちは宝を抱えて生きていくよって」……昭和489月だんじり祭りの夜さり、小原糸子(尾野真千子さん)60歳。人生の前半~中盤を締めくくる、これも名台詞のひとつになりました(@『カーネーション』33日(土))。

“年をとったら、大切な物を失くす一方”“人も死んでいく、独り身で耐えて行くのはしんどいぞ”と、日頃の豪放さに似合わず加齢の捉え方がネガティヴ一方の北村(ほっしゃん。さん)を「ヘタレが」と一喝した糸子も、この年の年始には組合長(近藤正臣さん)から、妻を亡くしたかつての恋人・周防(綾野剛さん)がテーラーをたたみ郷里に帰ると聞いて「独りで淋しいないですやろか」と涙ぐんだことがあるのです。齢を重ねれば重ねるほど、重ねた時間をともにし日々の苦楽を分け合った人たちとの離別は身にしみます。

旅立った人が永遠に連れて行ってしまった“宝”を惜しみ懐かしむ気持ちも、糸子にだってちゃんとあるのですが、糸子自身のクチからは「ヘタレが」「失くす失くすて、何を失くすんや」とポジティヴでアグレッシヴな、“ザ・小原糸子”な言葉だけを言わせ、胸の奥にしまってある思いは、階下の茶の間で来客たちの酒宴を見守りながら、亡き夫・善作(小林薫さん)の姿を見つけてそっと近寄りエアお酌する千代さん(麻生祐未さん)が代わって視聴者に伝えてくれました。

推定90歳近い千代さんが、祭りの日の喧騒で認知があやしくなったからではなく、「こんな日にはきっとお父さんが、いつもにまして機嫌よく飲んでいるはず」「あの姿をもう一度見たい、会いたい」と誰よりも強く願ったから、千代さんにだけ善作さんは現われ、お酌を許したのです。

人間は多面体。外から見た通り、自分で言った通りのこと「だけ」考えているわけじゃないのです。ヒロインの、あるいは場面場面の主語となっている人物の、表向きのセリフや行動の下に隠れた“本当はこう言いたかった”“こういうことをするかもしれなかった”を、別の人物にやって見せさせる。こういう奥行き作り、厚み作りが、『カーネーション』は実にうまい。“男といえば、まずお父ちゃん”だった糸子が2階の指定席の窓べりで遠い祭囃子を聞きながら、自分の中の強さ弱さと対話している間に、お母ちゃんはちゃんとお父ちゃんに糸子の分まで気持ちをかよわせてくれていた。豪気な“ムスコムスメ”ではある糸子の、本当は娘らしい、やわらかく繊細な心の一部分を見逃さず、全肯定し、抱き寄せる係は、昔から、終生、お母ちゃんの専任特命でした。

尾野さん糸子のラストシーンとなったあの時間、やんわりきっぱりプロポーズを断わられた北村のおっちゃんがどこで何をし何を思っていたか、下の賑わいに「おーおーもりあがっとるやないけ」と加わったのか、外で風に当たりつつ「おばはん強がっとるのもいまのうちだけやど、そのうち淋しなって泣きついてきたって知らんでケッ」と負け惜しみつぶやいていたのか。階下のまぼろし善作と、2階のもの思う糸子、その間に北村。実に風趣溢れる区切りの場面でした。

出窓に凭れ何ともなく外の世界を眺め→→→朝の起床で年月経過、キャスト交代という流れも、11歳糸子(二宮星さん)→尾野さんの14歳糸子のときを踏襲していて、今回は劇中時制12年間のロングジャンプでしたがきれいに着地した。週明け35日(月)の128話で、いきなり北村が写真になっていたのには苦笑しましたが。“ファッションセンター○○ムラ”みたいのを創業したのかな。おっちゃんのことだから、長患いで寝ついたりはせず、勇躍仕入れに行った先で出物見つけて、でっかい商談まとめてダハハと豪遊、飲んで騒いで料亭の座敷に床とってもらって泊まり込んで、朝、女将さんが起こしに来たら冷たくなってた、みたいな感じでしょうかね。

んで、買いつけた出物をあとから糸子が見たら、火つけてみるまでもない偽物だったと。誰も聞かなかった寝言、じゃなく最期の言葉が「…行ったれや…長崎…ボケが」だったら笑うね。いや泣くね。ありがとうおっちゃん。回想でたくさん出てください。

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