イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ほがらか~に

2010-05-22 18:51:58 | 朝ドラマ

いいですねぇ。毎日、笑って暮らせたら、それを幸せと感じられたなら、最高だろうなあ(@『ゲゲゲの女房』)。

「おカネはないけど、毎日、笑って暮らしとるよ。」…布美枝(松下奈緒さん)が源兵衛お父さん(大杉漣さん)の見送り際に言ったこの言葉こそ、ドラマを通じてのいちばんの観客へのメッセージになるのではないでしょうか。振り返ると、おカネが細ると途端に笑いが消え失せる当節、生活より先に人間が貧乏臭くなっておるなあ。

安来に帰った源兵衛さんに、家は?買い物は?着物は?里帰りの汽車賃は?と質問攻めのミヤコお母さん(古手川祐子さん)が、「あいつ、笑って暮らしておったぞ」のひと言で「あぁ、そげですか、笑っとりましたか」と自分も笑顔になるのもよかった。幸せですよね。いまの時代なら、新婚所帯「それより何よりフトコロだろ!」ですが、笑って暮らせさえすれば物質的な事どもはさて置ける時代も、この国には確かにあったのです。

世の中全体が若く、将来は現在より必ず良くなると信じることができた時代なのも大きかったのでしょう。リアル水木しげるさんも奥様も、貧乏につきまとわれても病苦とは縁が薄かったのも“おカネはなくても笑っていられた”重要な要素だと思う。一旦病気になってしまうと、周りの人情だの心の豊かさより(それも無いよりあったほうがいいけど)まず、いの一番におカネあるのみですからね。貧窮→無理な重労働、劣悪な住環境、粗末な食生活→病苦、は不動の方程式みたいなもの。

現代日本の笑顔の少なさは、老いと衰えを控えた世代が大半を占める人口ピラミッドの然らしむるところでもある。若さや将来向上の見通しが無く、目の前が下り坂っきりだと、“おカネが無い、イコール笑ってられない”に、どうしたってなってしまうのです。

水木さんは、もともと少年期に「メシ食ってるか、喧嘩してるか、さもなければ寝坊してるか」とみずから振り返っておられる生来の頑健さに加えて、南方戦線で味わった地獄絵巻で、身体健康に関することは概ね一生分厄を落とされたのかもしれませんね。

やさぐれ太一くん(鈴木裕樹さん)については最初からそんなに心配してませんでした。農家の三男坊で、両親は畑仕事に忙しく構ってもらえなくて、お祖母ちゃんの昔話が楽しみだったと言っていたから、要するに“甘え下手”“甘え方知らず”なのね。「親の真似ごとさせてもらえて」と本心を吐露した美智子さん(松坂慶子さん)も、終戦直後の混乱期に疎開先で腸チフスに罹って幼くして亡くなった息子のことを初めて打ち明け、たぶんその後10数年封印していた涙を解禁させて、かえってカタルシスで癒されたのではないでしょうかね。ちょっと過剰なくらい明るく朗らかで、偶然出くわした置き引き男(中本賢さん)にも店の仕事と食事を与えて帰省のための給料まで出してやる“お世話焼きマニア”ぶりにも、ちゃんと理由があったのです。

太一くん、敬愛する水木先生に特製の遠野の河童の絵入り色紙をプレゼントされ、美智子さんとも和解して、再びご飯をご馳走になり、「こんなにキレイで色白ふっくら豊満なおばさんによくしてもらえて、もう真弓ちゃんはどうでもいいや、年増最高、人妻最高」てな方向に行かなければいいがな。

今週は向井理さんのしげるに、布美枝さん源兵衛さんとともに惚れ直した週でもありました。“漫画のことしか眼中になく、世間の野暮用には無頓着”という基本線は押さえつつ、リアル水木しげるさんほど、フォローの難しいカッ飛び方ではない。布美枝から又聞きする世間の雑事にも、関心薄いようでいてちゃんと耳をかし、クールなようで結構ツボを押さえたコメントや対応をする。

美智子さんに思いがけず号泣されて立ち往生の太一に「あのー、読者の集いを続けましょう」「あんたが最後のお客さんです」と手招き、太一が色紙を見て「こっち(=東京)の生活になじめなくて、田舎帰っても仕事ないし、水木先生の漫画読んだとき、祖母ちゃんに聞いた昔話思い出したんです、うまぐ言えないげど、生ぎる支えみだいのがもらえだ気がしました(←徐々に訛り解放していく鈴木さんグッジョブ)」と封印していた愚痴を全開させると、「お互い、苦戦が続きますな」「漫画も厳しいですよ、なかなか売れんのですけん」と助け舟。“ラブレター拒否されて、恥ずかしいとこを見られて、同情されて構われた、カッコ悪い顔向けなんない”と思春期のプライドが傷ついて意地を張っていた若い太一に、敢えてか自然にか、傷口を撫でさするようなことは言わず、“アンタが私淑するオレも、そんなに偉くはないんだよ”をさらけ出して救済。店奥から見守る源兵衛さんも、みるみる“やっぱり見込んだだけのことはある婿だ”と見直しの表情。

水木しげるさんというおっきな存在を、“飄々”“自然体”のタームで翻訳、表現し抜く向井さんは、演出の妙もあるにしても俳優キャリア以上の相当なタマですよ。1982年生まれ、たぶん『ゲゲゲの鬼太郎』の3度めのアニメ化ぐらいからしか水木さんの画業を知らないであろう、その強みもあるかもしれない。よく時代劇化される織田信長や武田信玄、徳川吉宗など、“伝聞や資料でしか知らない”からこそ大胆に、役者さんごと個性的に演じることができるわけだし。

今週、さり気ないけどいいなーと思ったのは戦争帰り病気持ちの美智子さん夫・政志さん(光石研さん)の挙動描写。ある意味、太一くんの改心イベントよりずっと濃かった。「これで花輪がありゃーパチンコ屋の新装開店だな」「私ゃ漫画なんかに興味ないけどね、アンタの戦記もの読んだよ、アンタも戦争で酷い目に遭ったクチ?」としげるに話しかけたところへキヨばあちゃん(佐々木すみ江さん)に「アンタも手伝ったらどうなんだい」と睨まれて、耳に赤鉛筆はさみ競馬新聞片手に「やかましいなー、うるさくて昼寝もできねぇや、ハイごめんよ~」と退散したものの、遠からぬ府中競馬場には行かず、商店街内の喫茶店にトグロ巻いてましたからね。顔見知りの商店街仲間質屋大将(徳井優さん)からの、読者の集い行列報告をやんわり待ってたような気配もあり、機会があればあの、戦争で片腕失くした漫画家先生と、女性軍の茶々抜きにもうちょっと話でもしてみたい…ぐらいの体温は感じられるんですよね。

2年前の大河ドラマ『風林火山』では内野聖陽さん(1968年生まれ、当時39歳)扮する勘助の兄役だった光石研さん、しげる役向井理さんと向き合うとどう見ても“戦友世代”じゃなく“年の離れた兄弟”なのですが、そこはこのドラマのよき虚構性ということで。貸本漫画界が衰退に向かう中、政志さんも美智子さんキヨさんと亡き息子の思い出とともに、立ち直るきっかけをつかんでくれる流れになるといいですね。

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