イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

如麦

2010-10-28 16:02:09 | 夜ドラマ

さてと、ぼやぼやしていたらどんどこ月日は流れ季節は移って行くのでありまして、毎年“コレが始まったら深まり行く秋”という歳時記のような番組、そうです『相棒』が先週、1020日から始まりました。

数えてseason 9。クールごとの話数でいちがいに比較はできませんが、US製で言えば『24(トゥウェンティフォー』『CSI 科学捜査班』と肩を並べる長寿シリーズです。途中、人物の出たり引っ込んだり入れ替わったりを挟みまじえつつも、10年以上、世界観がほぼ一定したまま新鮮さを保っているのがすごい。

…まあ、BS朝日などで不定期に再放送されるプレシーズン土ワイ版や、シリーズ化初期のエピソードを視聴する機会があると、杉下右京(水谷豊さん)のキャラも、元妻たまきさん(高樹沙耶=現・益戸育江さん)や庁内お隣さんの角田課長(山西惇さん)など重要脇役さんたちとの関係性、体温も、場面やセリフによってはほとんど別番組のように見えることもありますから、“新鮮さを長く保っている”というより、“シーズン・話数を積み重ねる中で洗練され焦点が合ってきた”と言うのが適切かもしれません。

にしてもとっぱじめのエピ『顔のない男』(20日)・『顔のない男 ~贖罪』(27日)、前後編の2週がかりにした分、なんだか1話と2話とで別の話みたいになり、辛うじて徳重聡さんが水路になってつながったという感じです。1話で自殺に見せかけて殺された女流作家の代表作『堕栗花(ついり)』のタイトル、愛読者だった鑑識米沢さん(六角精児さん)曰く「(彼女の作品は)自殺や心中が重要なテーマで、“死体で発見”の一報でてっきり自殺だと思ったほどです」などは、結局1話の中だけでちょっぴり影響力があった(実行犯・上遠野による自殺偽装を真にうけた第一発見者=夫が、自分と秘書との不倫を恨んだ当てつけ自殺と思い込み、大手ゼネコン社長である岳父に知られては資金援助が断たれるので、こちらは自殺に結びつく証拠を隠滅、ストーカーによる殺人を偽装)だけで、航空燃料の不純物による環境汚染問題も、2話で明らかになる自衛隊燃料横流し汚職へのとっかかりに過ぎませんでした。

“人気作家変死の三面記事的事件が、実は政官財巨悪事件の氷山の一角だった”という構図を、それも“一角からいきなり(ある程度)派手”になるように築きたいために、ちょっと無理して作りすぎたかなという印象。特殊訓練の極限状況で錯乱した部下を現場で射殺したことを苦に、あえて上層部が要求する“事実秘匿した上での依願退職”をのみ、政界大御所の殺し屋へと転身していく元SAT小隊長上遠野(かどの)を演じた徳重さんの、“不器用な哀愁”が予想外にはまっていたし光った程度。

部下の篠原(阿部進之介さん)の、上官の事情聴取への答え「小隊長の射撃技術をもってすれば、急所を外し右肩を狙って、殺さずに事態を鎮圧できた筈、それをあえて眉間を撃ったということは、殺意があった証拠」は、ある意味正鵠を射ている。錯乱し始める前から、木村という隊員は隊列から遅れ気味で、SATの激務に耐えそうもない落ち着きのない行動を垣間見せていました。訓練の爆音に怯え奇声をあげて機銃を乱射する彼を見たとき、上遠野には“総隊の安全並びに任務遂行のため犠牲にせねばならない麦の一粒”ではなく、“こうなってはお終いな落伍者の末路に堕ちた、もうひとりの弱い自分”に見えたのではないでしょうか。この隊に、この任務に、選ばれたるエリートの崇高なる自負に、ふさわしくない抹殺すべき汚点。退職を決めて庁舎を去る上遠野が、篠原とふたり「俺を撃ちたいか」「ええ」と正面切って向き合う回想場面で、背格好や顔立ちが鏡像の様に驚くほど似ていたことを記憶にとどめておかねばなりません。篠原にとっても“木村が自分であったかもしれないし、自分が上遠野であったかもしれない”。木村射殺の時点では篠原がまだ知らなかった“人を殺め得る者の心の深淵”を、上遠野は極限訓練の果てに覗いたのです。コイツをこの世から消し去りたい、自分ならそれができると思った相手の中に、人は“何としても否定したい、もうひとりの自分”を見ることがあるのです。

なかったか、あったかを突き詰めて問えば、上遠野には確かに殺意はあったのです。

問われることなく“組織を危うくしないため”に緘口退場を強いられたところから、彼の“生きている人間であることをやめた”空っぽの部屋のような時間が始まった。

終盤、自分を雇い、使い、手を汚させて結局消そうとした大御所(津嘉山正種さん)に銃を向ける上遠野に、狙撃隊の一員として照準を合わせる篠原は、ここで初めて上遠野があのとき直面した暗黒を一瞬知ったはずです。篠原にとっての“こうだったかもしれないが、こうならなかったもうひとりの自分”は、次の瞬間銃口を………

警官であれ軍人であれ、闇のスナイパーであれ“命令や任務にもとづき人の命を奪える、奪うことが正当とされる”職業は、日々が昼夜兼行の、不眠と飢餓の行軍のようです。どこへ行っても、何をしても、板子一枚下に“奪われる側に回るかもしれないもうひとりの自分”がいる。

横流し燃料汚職の一翼を担うと思われる航空会社役員に出社の玄関前で聴取しようとして追い払われた特命コンビを、隧道の下、遠く背後から見つめるシルエット、退庁する廊下での篠原との対峙後背を向けるときの肩の角度など、あの『二十一世紀の裕次郎を探せ』のカラ騒ぎから10年、徳重さんが初めて“選ばれただけのことはある男”に見えました。肩書きとプロセスが大袈裟だったため、かえって俳優としては“色モノ”みたいに思われて損をしていたような徳重さんですが、シルエットや後ろ姿など顔が映らないカットで、キャラなりそのおかれた状況・心理なりの表現ができる、と言うか“できてるように見える”のは、普通に役者として「能力がある」と評価してあげていいのではないでしょうか。

ところで今般の阿部進之介さんで、←左柱←←←にサウンドトラックを愛聴の一枚に載せてある2007年の昼帯ドラマ『愛の迷宮』の主役6人が、全員『相棒』ゲストイン済みになったことになりますね(高橋かおりさんseason 4『閣下の城』、保阪尚希さん3『潜入捜査』、宮本真希さん7『特命』、河合龍之介さん5『名探偵登場』、黒川芽以さん7『天才たちの最期』)。

だからどうだってこともありませんが、あのドラマは、いまいちとりとめなく一本芯を欠いた代わり、キャストはかなり濃かった。親世代の横内正さん、新藤恵美さん、ナレーションの池上季実子さん、このドラマで初めて知った咲輝さん、吉田羊さんなど、いい(重い)役で『相棒』に来てもいいなと思う俳優さんがいっぱいいます。

魅力があるな、印象的だなと思った俳優さんを「出してみたい」「どんな役なら光るかしら」「それにはこれこれこんな劇中設定やシチュを作れば」…と思う、これも長寿シリーズならでは世界観の厚み、貫禄かもしれません。

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