イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

大雪

2009-10-16 23:12:51 | 夜ドラマ

5日(木)、2時間18分の拡大枠でスタートした『不毛地帯』、もちろん録画視聴になりましたがいいですね。派手さはないし、歴史認識のハテナもちょこちょこあるけど、とにかく見ごたえがある。画面に力があるんですね。

昭和33年、“もはや戦後ではない”と言われ、「これからは思想や軍事ではなく、経済と産業で世界に打って出て勝利するのだ」と日本中が沸き立っていた時代の、かつての戦争の担い手たちの第二の人生、第二の闘争。先月まで放送されていた、やはり戦争体験組の生き残り城山三郎さんの『官僚たちの夏』をレギュラー視聴していた人なら、時代の空気感の表現を対比しながら今後視聴するのも一興ではないでしょうか。

陸軍大学校首席卒業、大本営参謀として作戦立案にあたった超のつく切れ者エリート・壹岐正(いき・ただし)に唐沢寿明さんでは、さすがに荷が重いのではないかと思ったのですが、気がつけば実年齢も46歳(劇中の壹岐は1912年生まれで昭和33年には同じ46歳)、同じ山﨑豊子さん原作『白い巨塔』で上昇志向とプライドのカッタマリ・財前五郎を見事に演じ切っておられますから、何も心配することはなかったですね。

旧日本軍のエリート軍人らしい、背広ネクタイに着替えてもかっちりと隙のない礼のしかた、歩き方、会釈のしかたや立ち姿など、決して軍人体型ではない唐沢さん結構大健闘の演技ではありませんか。

終戦から昭和31年まで及んだ極寒の地シベリア抑留から命からがらの復員、栄養失調で半死半生の身体からどうにか社会復帰して、占領時代を経て風潮もすっかり変わってしまった母国日本で、浦島太郎のように失われた歳月を取り返そう、異国の地で犠牲になった同輩日本人たちの無念のためにも、今度こそ日本という国を没落させないために働こう…と“静かに必死”になる姿と心理がよく表現されていたと思う。

CMなどでは父っちゃん坊や的おとぼけキャラが浸透している唐沢さん、余裕こいた貴種のエリートより“必死に勉強して叩き上がって来た小モノ秀才”が似合う、そんな持ち味が活きる作品になりそうです。うまくいけば、『巨塔』財前以上の当たり役になるかも。

復員後誘い数多の防衛庁への就職を渋る壹岐を目論みありで引き入れる、大阪繊維問屋由来の近畿商事社長大門役・原田芳雄さんもいい。NHK『白洲次郎』が延びに延びての後だけに体調が心配ですが、“とことん魚心水心な、浪花の商人”という脂っこい挙措がお見事です。

アラ探しみたいになりますが、女優陣が軒並みミスキャスト気味なのが気になりますね。壹岐の、旧帝国軍人の妻らしい強気とプライドを秘めた伴侶・佳子役の和久井映見さん、「もう戦争にかかわるお仕事はしないで」と訴える愛嬢・直子役のつばさ多部未華子さんはかなりいい感じですが、ピアノバーのママ紅子役天海祐希さん、壹岐の上官たる中将の遺児千里役小雪さんは、ガラが堂々立派過ぎて、戦後を生きる女性らしい一所懸命さや、雑草のような可憐さがあまり感じられませんな。

紅子に天海さんの宝塚先輩黒木瞳さんを充てたら、もろに『巨塔』再現になっちゃいますから、せめて(せめてって)霞食ってる仙女系一路真輝さんとか、娘役OGのほうから驕慢系の紺野まひるさんか森ほさちさん、身奇麗世話女房系の大鳥れいさんはどうかな。一路さんを呼んだら、夫君の内野聖陽さんに声をかけないわけにいかなくなるであろうなと、それもそれで月河的には望ましい話なのだがな。

小雪さんに至っては、唐沢さんと“身長差的に妻・佳子を裏切らなさそう”という意図のキャスティングとしか思えません。

天皇陛下の国を売ることを潔しとせず自死した父(木枯し紋次郎中村敦夫さん)の愛した香炉をいとしむあまり、ほぼ修行僧のような陶芸家生活に入った千里役には、小雪さんと同年代ならいい意味で貧相な、もっと言えば栄養が行き渡ってない感じの井川遥さんや松たか子さん、菅野美穂さん田中美里さん辺りがよりふさわしかったような気も。

女性陣のちくはぐさは、“男たちのドラマ”にむしろ合っているのかも。次週からのレギュラー放送は夜1000~ですから100パーセント録画視聴になりますが、闇を背負った“元エリート”男の上昇物語、ピカレスク・ロマンとして見れば、歴史認識などお堅い部分を抜きにしても楽しめそうです。

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