イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

敢然なる結婚

2012-08-06 00:51:25 | 朝ドラマ

「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」というキャッチコピーが流行ったのは昭和40年代だったと思いますが、まだ設定昭和30年時制の『梅ちゃん先生』も、そんなに急いでどこへ行く。梅子(堀北真希さん)、一気に信郎(松坂桃李さん)と結婚宣言まで行っちゃいました(84日)。

思うにこのドラマ、第○週で医専合格、△週で卒業、▽週でインターン修了、□週で国家試験合格…と放送スケジュールに合わせて“梅子クロニクル”が敷かれ、それに則って梅子は粛々と人生イベントを消化して行くことになっているのでしょう。第18週じゅうに、梅子はノブに片づき、ロンドン五輪たけなわの19週アタマには堀北さんの清らかな花嫁衣装姿でお茶の間クギヅケ計画と、あらかじめ固定された点と点を結んで、折れ線でも曲がり線でもループ線でもとにかく万難を排してお話にしちまおうっちゅう目論みらしい。

『梅ちゃん』と同時スタートで4月から、BSプレミアムで『ゲゲゲの女房』が絶賛再放送中ですが、実在の人物伝を原案・原作にとった作品だと、採り上げさせていただいた人物へのリスペクトが必須ですから、みだりに実人生を蹂躙した改変はできず、結果、突飛なエピソードやあんまりな展開でも、どこか人の情のうねりと砕け散る波頭のごとき情熱が伝わってきて、それなりに納得性もあります。

それに比べると、『梅ちゃん』や『おひさま』のような完全オリジナルの作品の、まるごとフィクションの、作家のこしらえものの人物は、どうもいまひとつ心の動きや高まり、そこから発する言動に、温かみも切実さも欠けます。もっと引っかかっていいところで、さくさく、すたすた行き過ぎる。梅子はもともと、さくさく思考してちゃっちゃと実行するデキる女ではなく、ふんわかぽわんとしたキャラだったので、なおさら“人為的に巻き進行”感が強い。

ここだけ安岡製作所製のネジで巻かれたか。んなことはないか。

設定昭和30年、建造お父さん(高橋克実さん)倒れる→入院中に下村医院開業、松岡さん(高橋光臣さん)から在宅患者早野さん(津嘉山正種さん)を頼まれ、早野のひとり娘を探し出し親子和解にひと役、その松岡がアメリカ留学、続いて坂田医師(世良公則さん)交通事故死…とてんこ盛りで、いまだ同年夏の終わり頃の半袖の季節なのですよね。

周囲が仕込んだお見合いに不承不承乗ってみて、初めて梅子も信郎もお互いの思いに気がつくという展開は古典的な幼なじみ婚で、そう不自然でもないけれど、それより信郎には渡米前の松岡さん(高橋光臣さん)と一度は“どっちが梅子をより幸せにできるか”ガチタイマン張ってもらいたかった。梅子にしっかり「松岡さんを好きだし尊敬感謝しているけれど、やっぱり心の中にずっといて、これからもいてほしいのはノブのほう」と、忌憚なく比べて勝敗つけてほしかった。松岡には、梅子への思いも、相手の満足度度外視で“自分は誠実か、自分は役に立っているか、自分は自分は自分は”と自問自答して自己完結して終了、なきらいがあったので、信郎が「オレは難しいことはわかんねえけどとにかく梅子に笑っていてほしいんだ!そのためなら何でもするし何でも捨てるんだ!」と真正面攻撃で略奪愛するぐらいあってもよかった。

松岡のクソ誠実ゆえの微苦笑キャラがあれだけ輝いていたのだから、信郎ももっと、松岡と対照的な方向にはっちゃけた男に描いてほしかったですね。松坂桃李さんはいまだに“殿”なイメージが微量つきまとっていて、無学で無骨な下町ブルーカラー青年と言うより、どこか育ちがよさげで平成の私立校の不良気取りっぽい。松岡が“マジメに振る舞えば振る舞うほどなんだか可笑しい”のに対し、ノブは“ふざければふざけるほど侠気あふれて見える”ぐらいにね。ここらへん、あるべきキャラと俳優さんの持ち味マッチング具合に差がある以上に、作家さんの“筆体温”も信郎より松岡に圧倒的に熱かった。

あるべきキャラと俳優さんの持ち味ミスマッチの話をすれば、『だんだん』以来期待していた木村文乃さん演じる、坂田医院わけあり看護婦→フロンティア貿易事務員の静子という人物も残念そのものです。竹夫(小出恵介さん)との初対面時の指くるくるトンボ取りが異常に浮いていたのを思い出す。もっと“滑稽で憎めない、女のずうずうしさ”がないといけない人物なのに、ざっくり言ってしまえば木村さんが美人過ぎるため、“薄幸そうなのにツンケンして高飛車で可愛げがない”としか見えず、静子の手のうちで転がされている竹夫で、笑う箇所らしいのに笑うことができないのです。

俳優さん個々で見れば贅沢なくらいの顔触れなのに、誰も彼も少しずつ、あるいは目立って、ちぐはぐでこしらえもの臭い。9月いっぱいの作品の、もう8月ですから軌道修正が間に合う段階ではなくこのまま行くのでしょうが、ついて行けるかな。

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