イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

Zzz

2007-04-10 20:52:17 | テレビ番組

日本経済新聞の毎日曜朝刊は、7面からラテ欄前までが日曜版『Sunday Nikkei α(サンデーニッケイ・アルファ)』。1面から5面までの政治経済・国際・企業ニュースと社会面以外はほとんどぜんぶ休日のお父さんを意識した“中高年向け、TVのないTVBros(ブロス)”のような、1面を3分割、4分割したコラム満載の紙面になっています。

日経新聞を読むようになって20年以上になりますが、連載小説が津本陽『下天は夢か』以降深刻な不作に陥っている(プラス、ときたまエロ路線に走る)以外、ここ数年の同紙は月河が読み始めたプレ・バブルの頃に比べて本当に洗練され、こなれて来ました。もう会社人間、サラリーマン、株や相場やってる人でなくても普通に読める紙面になったのではないでしょうか。

月河もサラリーマンでなくなって以降、日経やめようかと何度か思ったのですが、その頃から面白くなり出したので、いまも読み続けています。

日曜版のすべてのコラムを毎回読んでいるわけではありません。コラムごとの見出しやカットがその週によって“呼んでいる”ときと、そうでもないときがあり、呼ばれるままに読んだり読まなかったりします。

8面ぐらいにある“健康・医療”面に、日本大学医学部精神医学講座教授内山真さんによる『睡眠を知る』というコラムがあります。

睡眠の仕組みの研究と、臨床的な睡眠障害、不眠症、過眠症、ナルコレプシーなど眠りにかかわるさまざまな不調、疾患に関するあれこれを書いたコラムですが、“眠り”を切り口にした人間論、文明論してとも読める内容です。

気がつくとかなり連載が進んでいた段階だった上、何月何日付と正確に記録していたわけではないのですが、今年に入って間もなく、こんな内容の話題がありました。

この内山先生、だいぶ前に講義でこんな質問を受けたことが忘れられないそうです。

「不眠症というのは、昔からあったのですか?」

実は、不眠症の主要な3大自覚症状①「寝つきが悪い(=眠りに入るまでに時間がかかる)」、②「眠りが浅く短時間で目が覚める」、③「その後目が冴えてしまい再び眠りに入ることができない」は、生産力が低く住環境も貧しく、人間が飢饉・天災・戦乱などに絶えずさらされて命の危険と背中合わせに暮らしていた古代~中世においては、病気どころか生きて行くために是非とも必要な性質であり、体質であり、習慣でもありました。

強風や寒気、雨音、狼の遠吠え、砲声とも聞こえる遠くの物音など、さほどでもない原因で寝付かれなくなり、さほどでもない原因で目が覚めてしまうぐらいでなければ、自分や家族の生命を守ることができなかったのです。

「眠れない」ことを不調として訴えるケースが増えたのは、平和が続いて経済が繁栄し“有閑階級”、産業革命後の“ブルジョア層”が誕生してから。天災や外敵に怯えることなく食い足りて、安定した生活を享受できるようになって初めて、人間は“不眠”の苦しみを知ったのです。

近代になっても、大土地所有制下の農奴、重税を課された小作農、鉱山や工場労働者など長時間の肉体労働と食うや食わずの生活を強いられた下層階級の人々は、起きている間は働き通し、帰ったらバタンキューで、眠れないことを悩んでいる暇はなかったことでしょう。

こう考えると、不眠は典型的な“文明病”のようです。

でもこのコラムの内山先生のいいところは、「文明病=ゼイタク病」という決めつけはせず「眠りにくいことは人間の身体に自然にそなわった防御本能の表れ」という文脈に持っていってあることです。

不眠に悩んでいる人だけでなく、現代人全般、食い足りた平和な文明生活に飼い慣らされ過ぎた結果“床についた途端に高いびき”“叩かれても目覚めないくらい深い眠り”を理想のように考えがちですが、生き物としての人間は本来そうはできていないんですね。むしろ、眠りにくいことこそ人間の自然の姿。

月河は重症の不眠に悩んだことはありませんが、諸般の事情で眠りが十分でない状態が何日か続くと、たとえば日中の頭痛・集中力欠如・目のかすみ、あるいは便秘・胃痛・肌荒れなど、睡眠不足によって起きる諸症状そのものよりは“そういう症状が起きたら仕事に差し支えて困るな、イヤだな、起きそうだなという不安や怖れ”のほうが心身にこたえていることに気がつきます。

やがて、これが就床する時の“絶対に眠らなきゃ”“一睡もできなかったらどうしよう”という重圧に転じ、ますます就眠しにくくなるという悪循環。

こういうとき内山先生の「眠りにくいことが人間の自然体」という考え方を思い出すと劇的に気が楽になります。睡眠不足と一口に言っても、気の合う飲み友達と旨いお酒を朝まで飲んで歌い踊ったり、興が乗った原稿を一気に書き飛ばしたりした結果の不眠は、「あー昨夜完徹で頭痛ぇ」なんてクチでは言っても(連日連夜やろうとはさすがに思いませんが)、それで深刻な体調不良をきたすことが不思議に無いもの。

格別何のイベントも宿題もないのに頑として眠りが訪れないときは「あぁ自分の身体が自然体しているんだな」と思えばいいんですね。

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