イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

月ましては、また来年

2009-12-31 12:32:41 | 昼ドラマ

年の瀬、最終話まで見届けたドラマの“触れ残し”がまだありますね。Xmasの奇蹟』29日(火)に全41話を終了。

運命の交通事故から1年、最初で最後のコンサートを開いた健(窪田正孝さん)、予定外の『青の月』演奏後「ボクは林田健ですが、心は堤浩志です」「命を賭けて直(高橋かおりさん)を愛してる」と聴衆の前で宣言、意識を失います。奇跡的に息を吹き返したものの、浩志としての記憶は無く、直を見ても博人(大内厚雄さん)に話しかけられても反応なし。「浩志は自分の意志で、この世から去った」と孤独感に沈む直に、二度めの満月=ブルームーンの夜の奇蹟が訪れ…

ブルームーンに元の姿の浩志と直のひとときの再会がかなう、という“奇蹟”は予想できたし、“クリスマスの”奇蹟と言うより、“青の月の”奇蹟と言ったほうがいい結末の迎え方になりました。

結局このドラマ、素直に前のめりで嵌まれたのは序盤の博人ゼノなりすまし事件(←“偽者”“詐称”モチーフは月河の大好物です)と、それに続く浩志母・多恵(泉晶子さん)とのエピソードまでで、本筋となるべき直と、健の姿になった浩志との、名乗り名を呼んで結ばれることができない悲恋のパートはあらかたまわりくどくて退屈でした。

自分は浩志だと明かせば息絶えてしまう健の秘密を知って、遠ざけようと柏木(火野正平さん)と結婚しようとするなど、浩志の生存を願うのはわかるけどちょっとズレてない?やり過ぎ?と思える直の行動は白けることが多かったし、どうにか健の心をつなぎ戻そうと、努力しても努力しても健が直の方にそわそわ向いてしまい、苛立ったり悲しんだりヌカ喜んだりの仁美(水崎綾女さん)は痛すぎた。

ラスト、浩志の魂は「新しい人生を歩き出してくれ」と直を励まして今度こそ旅立って行きますが、自分が彼岸に去れば、本物の健の魂が健の身体に戻って、健に健の身体と人生を返せると、浩志はどこで、何を根拠に確信したのか。そんな理屈っぽいことは追求しないほうが愛のファンタジーを十全に味わえるのかもしれないけれど、“亡き最愛の恋人の魂が、見知らぬ男の姿で現われる”というお話にとにかくはめ込むために、健という人物を便利使いし過ぎだった気がします。

最終話の健は、一昨年のクリスマスのバイク事故時点の記憶に見事に帰り、浩志の魂を宿したことはもちろん、直とのことや音楽のこともまるっと覚えておらず、元のサッカー好き大学生の無邪気な笑顔を見せて、母親(中村久美さん)も仁美も、友人・光(千代將太さん)も大喜び…が最後の登場場面になったのですが、浩志の魂でにせよ、直は一度は健の“身体”に抱かれたということの意味はどこへ行ったのか。切なさの中でも“健がらみの切なさ”が終始扱いが軽かったように思います。

放送開始前の謳い文句は「とことん切なく、とことん儚く」でした。多少韓流もどきになろうと、皆が好きな“切なさ”に特化しようという、その意気やよし。ただ、どうも企画会議の机上でこね出された切なさ、儚さにとどまった感は終始ぬぐえませんでした。

この枠の昼帯、ヒロイン役3度めの高橋かおりさんも、前2作(脇レギュラーだった『愛の迷宮』も入れると3作)に比べて、高橋さんなればこそという場面が少なかった。直って、年中息せき切って、テンパってものを言ってるようなせからしい女性で、ちゃんとしたことを言おうとすると、武田鉄矢のモノマネをする人みたいにやたら顔サイドの髪をかき上げていたイメージしかない。まぁ、勇を鼓して恋人と勤務先を脱サラ、会社を立ち上げ→間もなくその恋人事故死→倒産の危機→恋人と自称するヘンな大学生出現→恋人の旧友がピアニスト宣言→売り出した途端ウソとわかり再び倒産の危機…(以下略)と、2年少々の間にこれだけ盛りだくさんな人生では、年中過呼吸みたいな喋り方になってしまうのも自然なことかもしれませんが。

高橋さん、直の何倍も長期にわたって数奇な運命をたどった『危険な関係』ではずっと落ち着いた演技を見せてくれていたのですから、今作は演出の責任が大きい。“年少組”の仁美や、妹キャラの実花(蒲生麻由さん)もいたことだし、いま少し大人のムードが欲しかった。

35歳のピアニスト兼作曲家の魂が宿るサッカー大学生という難役を、フレッシュな解釈でこなした窪田正孝さんの魅力と努力でもっていたようなドラマでしたが、だからこそあえて書きます。岡田浩暉さんの魂が入るのが、窪田さんでよかったのかなと

もっと岡田さんのヴィジュアルやイメージから距離のある若手俳優さんのほうが、物語の切なさが際立ったのではないでしょうか。スレンダーで知的、やや気が弱くデリケートそうな岡田さんと並べると、窪田さんも結構シュッとしていて、童顔ではあるけれど色白で繊細そうで、学校の成績はともかく思慮深く賢そうにも見えるし、「到底ピアノなんか弾きそうに見えない」感じではなく、地で結構重なるのです。

たとえばがっしりして短髪の汗くさ&脳味噌筋肉体育会学生とか、逆に茶髪の遊び人風、教養のカケラもなさそな「まじかよー」「うぜーし」しか言わないみたいなチャラ男くんタイプだったらどうだったでしょう。「こんなバカそうな小汚い、粗野な若者が浩志なわけはない」「でもこのピアノタッチ、この音、あの口癖、どうしてこんなに心惹かれるの?浩志を思い出させるの?」という落差が、切なさのベクトルを強化しないでしょうか。

窪田さん程度に演技力のある俳優さんなら、体育会orチャラ男ヘアメイク、ヴィジュアルのまま浩志の魂でセリフを発し、視聴者も直とともに「目を閉じると浩志が話してるように聞こえる!」と“奇蹟”を体感できたかも。正反対の外見で、正反対のパーソナリティを演じるという、それこそ若手俳優さんのチャレンジの見せどころです。大枠は変えずに、毛先や眉のニュアンスで浩志人格らしさを出す、ヘアメイクさんにも絶好のチャレンジ舞台。

窪田さんの演技力に文句はないのですが、高橋さんの直と向き合ったときに、結構、普通にお似合いで、禁断感とか“えらいことになっちゃった感”が薄かったのも残念。窪田さん、童顔ですが落ち着いているんですよね。リアル世界でも、女性35歳ベテラン社会人、男性20歳大学生、ってカップル普通にそこらに……ってことはないにしても、目の色変えて戒め、避けなければならないことではないようにも思う。「とことん切なく」をぶち上げたにしては、切なさの補強が緻密さを欠き、中途半端でしたね。

全体的には“俗っぽさ担当”の柏木社長役・火野正平さんの底力を見直した作品でもありました。直や実花、博人といったところが年中テンパっている分、火野さんの柏木が終始ぶっきらぼうな平坦な口調と表情を押し通し、結果的に非常にドラマ世界の錘として機能した。感情や打算をおもてに表さない、読ませない、表しても最小限な人がひとりはいないと、本当に学芸会になってしまう。

最終話、ミツコママ(白石まるみさん)より先に婚姻届を用意し「どっちか先にくたばったほうが、あの世で俊和(=ピアニストだった、ミツコの死んだ恋人)に話そう」と、遅いにもほどがあるプロポーズをする場面は、不思議なことにこの回でいちばんグッときました。直&浩志のブルームーン抱擁キスよりずっとグッときた。ピアニストだったミツコの恋人・榊俊和の挫折・早世と、共通の友人でレコード会社の担当だった柏木とのいきさつは、劇中ほんの少ししか触れられず、詳細はわからないことも多いのですが、多少わからなくてもグッとこさせる、これはもう100%火野さんの力量ですね。脚本家さんたちも、書きながらだんだん火野さんの柏木に惚れてきて、行き着いたのがこのプロポーズのセリフだったのではないかな。脚本家さんクレジットでは2名(吉澤智子さん國澤真理子さん)、ともに女性です。さすが火野さん。腕は衰えていないと申し上げておきましょう(?)。

………まぁ、不満は多々あるものの、今年から始まったこの枠の“2ヶ月クール作”、3本放送された中ではこの『Xmasの奇蹟』がいちばん破綻が少なく、短話数だからと舐めずに、まじめに作られた作品だったと思います。欲を言えば切りはないけれど、どうしてこの役にこの人?と首をかしげる、あるいは失笑モノのミスキャストも無かったし、音楽家のお話らしく成立するために、コーニッシュさんの音楽の力も貢献しました。「とことん切なく」という目標は、年越しの宿題ということにしましょう。

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