長女・優子(新山千春さん)の彼氏・梶山悟役の内田滋(しげ)さんは、昭和30年代後半から40年頃にかけて、和泉雅子さんと日活青春映画の名コンビだった故・山内賢さんによく似ておられますな。斜め横顔が特にね。スッと直線的に角度のついた鼻筋、若武者風にととのったお顔立ち。そう言えば優子役の新山さんも、くりりんとくっきりした容貌で、当時の和泉雅子さんを、スレンダーモデル系にしたような感じでなくもない。
「うちはもうあきません~」の軍国小芝居少女・優子ちゃんも東京の洋裁学校を卒業して、御成婚ミッチーブームに沸く昭和34年にドラマは進んだわけですが、アイビールックの悟と、サンローラン風ストレートラインワンピの優子の2ショットはさりげなく高度経済成長時代の銀座四丁目辺りが似合いそう。
内田さんをドラマで拝見するのは2008年の昼帯ドラマ『安宅家の人々』以来な気がするのですが、当時は内田さん、心やさしきピュアな知的障害青年を演じるために、「可愛く見えるように」とかなり増量して撮影に臨まれたと聞いています。その甲斐あって?撮影時29歳の内田さんが、場面によって10代の少年にも、育ちきらない30代にも見えたから大したもの。今般の『カーネーション』で普通のシュッとした体型で登場すると、これ以上ないってくらいの正統派“ハンサム”さんでしたな。
写真を一見した千代さん(麻生祐未さん)ほか、小原家集合ご近所おばちゃんズは「オトコマエや~」と感嘆ユニゾンでしたが、「男前」とか「イケメン」とかより、「ハンサム」がぴったし。そこはかとなーくオールドファッションド、よく言えばトラッドで、いまどきの二の線男優さんにしては高身長でない(公称172.5㌢)のも高“ハンサム”ポイントです。全身より、顔がバーンと来る感じがね。
登場の108話=10日(金)では、「婿に入ってもいいかナ、って」「大阪をよく知らないので仕事はお義母さんのツテで」と人生設計のスイートっぷり全開、糸子(尾野真千子さん)に事実上“顔を洗って出直して来い”と一蹴された悟さん、翌日の109話では一度も顔を見せませんでしたが、あっさり撤退したんじゃ優子が不憫すぎるし、ホテルで言われた通り顔洗って態勢立て直し中なのかな。
最近の『カーネーション』はエピソードとエピソードとが有機的につながらないので、ひとつの話題がドラマの中心にくると、前週~同週前半辺りでかなり中心だった話題でもあっさり“無かったこと”みたいになることが、残念ながら多いのです。奈津(栗山千明さん)の中年紳士・桜井(ラサール石井さん)との結婚後も、安岡美容室に飾られた花嫁衣装写真以外気配がないし、奈津への想いを秘めていたらしい安岡家長男・太郎はその後顔を出すこともなくいつの間にか子持ちになっていました。
まぁ、そこらへんは視聴しながら想像でつなげる余地ができるわけだから楽しみはあるのですけれど、ドラマとしてゆるくなった感は否めない。やはり、子供たち3人が“ヒロインの子”にとどまらず、独立人物として活動し出すと、それぞれ粒揃いにユニークなエピソードひとつずつを追って映像化していくのに忙しくなってしまうようです。
30分枠、全50~65話程度の容量の昼帯ドラマでも、ヒロインの子世代に話の重心が移った途端、目に見えて求心力が落ちる。やはり心情として、いたいけな幼子から少女期、青春期の葛藤~自立出世と恋愛模様、結婚して子をなすまでのすったもんだをつぶさに見せてもらってきたヒロインが「今度は自分の子供たちを輝かせるために脇役に引く」ムードになると、見るほうも幕引き態勢に入ってしまう。
我らが糸ちゃんは、サンローランのサックドレスやアイビーの流行をさっぱり魅力的と思えない自分に苛立ち、フランス渡来の上物生地にときめき、自信を持って売り出したデザインのコケを悔しがるなど、まだまだ現役洋裁師・服作り職人としての気概も闘争心も失っていないのはさすがで、頼もしいですけどね。大正2年生まれ、昭和34年ならまだ46歳。娘たち役の皆さんが揃っていいカラダをして大人っぽいので、そのお母ちゃん、ついついすごい年いってるように思いがちですが、どっこい糸子だって全然若いのでした。
まぁ、でも、まだ完走まで7週も残してはいるものの、月河にとってのこのドラマのピークは第10週の「嫌いたかったら嫌ろたらええ」「なんぼでも嫌ろてくれ」に尽きます。あぁ自分はこういうヒロイン、いや“女ヒーロー”に会いたくて、数々のドラマを見てきたんだな…と心から思え、糸ちゃんにとっても、応援モードで見守ってきたいち観客としてもつらいエピだったにもかかわらず、あの56話の放送日は一日中、そこはかとなく充実気分だったものです。前週から引き継いだ幼なじみ勘助(尾上寛之さん)への、友情でもあり親心ならぬ“姉貴分心”でもある、幼時から一貫する糸子の心情を“地”に織り詰めつつ、“勝者及び、勝者たらんとする者”の光と影を染め上げて見せた、素晴らしい場面、超絶の台詞でした。
あれだけの高純度、超鋭角で斬りつけて来るテンションをこの作品中でもう一度味わえるとしたら、あとは最終週ぐらいしか無いかもしれません。でもその頃は、糸子は尾野真千子さんではないんですよねぇ。
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