今週からようやく始まった新しい朝の連続テレビ小説『おひさま』はどうでしょうね。前のクールの朝ドラの、最終週とラス前の週、2週にわたって本編終了後に次クール作のスポットが入るのがつねらしいのですが、「わたしは太陽の陽子です。」という、シンプルイズベストな、世が世ならもっと好感度大だったはずのスポットが、震災と原発で“日本中生きた心地がしない”中でのオンエアとなって、いきなりアンラッキーっちゃアンラッキーでした。
しかしこの時期の新朝ドラが、太陽の陽子の『おひさま』でよかった。昨年秋口の「れんぞくてれびしょうせつ、てっぱんっ!」が来てたら、ネガキャン以外の何ものでもなくなってたでしょうから。当時も「(終盤放送中の『ゲゲゲの女房』が)しっとりしたドラマなのに余韻が台なし」とさんざんな不評だったものです。いざ『てっぱん』本編の放送が始まると結構好意的に受け入れられていましたが。
さてと、斉藤由貴さん扮する現代の主婦による、回想世界への導入がちょっとステロタイプにドタバタ気味でしたが、陽子“完成形”=若尾文子さんが語る昭和7年の陽子役、八木優希さんがとりあえず可愛いじゃないですか。絵に描いたような美少女というより、ややファニーフェイス寄りなんだけど、昭和おかっぱの嵌まり具合といい、ほわほわモサモサ生えっぱなし眉毛といい、NHK朝ドラに実に似つかわしい、古き良きナチュラル感がある。なんとなく岸田劉生描く『麗子像』の美人ちゃん版みたいな(麗子像がブッサイクという意味ではないですけど)。
設定の、“東京から越してきたインテリ技師さん(寺脇康文さん)と、女優のような別嬪お母さん(原田知世さん)との娘”“村の学校で、ひとりだけ洋服に靴履いてる近代的な女の子”という、“たぶんそう見えていたのであろう”イメージが、類型的美少女とは少し違う優希さんの顔立ちにしっくり合うのです。昨年の『ゲゲゲ』の幼少布美枝&小学生藍子役菊池和澄さんの、児童劇団に在籍するような子には珍しい、透明感あるおっとり加減といい、NHK朝ドラは子役さんの選定キャスティングに独特の感度がある。
陽子“女学生~成人”を担当する井上真央さんも、10数年前は宮尾登美子さん原作の『藏』で主役・烈(松たか子さん)の幼少時代を演じておられました。幼くして、いまで言う網膜変性を発症し徐々に視力を失って行きながらも、持ち前の根性とプライドはむしろどんどん強靭に、開花していくという難しい役どころでしたが、父親役鹿賀丈史さん、叔母で育ての母役の檀ふみさん、祖母役香川京子さんといったベテランどころにまったく位負けしない、「愛くるしい」なんて形容がむしろ失礼に思えるくらいの底力ある子役さんだった記憶があります。その後演技キャリアを積みしっかり進学・卒業もされて、成人朝ドラヒロインにオファーキャスティングされるまでになって、『藏』時代のNHKスタッフさんが、もし朝ドラチームにいまおられたら、さぞや感慨深いものがあるのではないでしょうか。
ヒロイン一代記ものの王道朝ドラは、序盤の子役さんによるツカみで半分以上決まるようなところがあるし、49歳にしていまだ青年青年していて、亀山薫ちゃんのイメージも根強い寺脇康文さんが厳父に見えないとか、真央さん→若尾文子さんのリレーに「年とって生え際が後退するんならわかるけど、デコが狭くなるってアリか」とか、細けぇことにはいまからあんまり引っかからないほうが得策というものかも。
安曇野の野山を連想させる押し花をメインにしたOPタイトルも、短め控えめで、ドラマ本編に集中しよう、集中して観てもらおうという配慮が感じられます。春のお彼岸が過ぎて、北国の当地も陽光だけはおひさまに満ちてきたことだし、ポジティヴに見守るとしましょう