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グレートウォール 【感想】

2017-04-22 08:00:00 | 映画


『世界よ、これがチャイナマネーだ。』そんなキャッチコピーが似合う。製作費1.5憶ドル、北米興収は4500万ドルでコケたが、中国興収は1.7億ドルで製作費を見事に回収。今や供給側でも世界の映画市場を席巻する中国の「今」を象徴する映画だ。豪華な衣装と大規模なセット、目がくらむような膨大なCG処理。巨額が投下されたことは目に見えてわかる。但し、映画の仕上がりは案の上、酷い。よくこの内容で完成まで突っ切れたなーと、ある意味感心してしまう。マット・デイモンの黒歴史が誕生。

最強の武器を探し求めて中国の万里の長城に行きついた武器商人が、中国人たちと共にモンスターの襲来を迎え撃つという話。

最近テレビに良く出るようになったが、世界中の奇妙な場所や人を巡って撮影するカメラマン、佐藤健寿氏の著書「奇界遺産」を以前から愛読している。その中で佐藤氏は中国を「世界一の奇界遺産の宝庫」と称している。佐藤氏はあくまでリスペクトの意で(たぶん)そのように語っているが、常人では思いつかない確度で発想する中国人の気質が奇界遺産にもよく表れていると感じる。その遺産の多くが「ダサかっこいい」仕上がりだ。本作の場合、ダサいだけだが、どこか通じるものを感じる。

映画興行における中国の覚醒を見たのは、「パシフィック・リム」の大ヒットだ。同作は個人的に熱狂するほどの傑作だと思っているが、日本を含めた先進国の多くは、ニッチなB級映画として扱われ小ヒットに終わった。そんなか、海外勢のなかで中国だけが1億ドルを超える大ヒットをかました。以降も、ハリウッド映画が本格的に中国に進出するなり、ことごとく大作映画が大ヒットを収めている。他国とは明らかに異なる中国市場は、もはやドル箱であり、とにかく大きくて、ド派手な映画に観客が群がるようだ。こんな美味しい市場に国内企業が参入するのは当然であり、大きな資本力を武器にハリウッド映画の製作に関わることも珍しくなくなった。最近見た「キングコング~」や「ゴーストインザシェル」も中国のマークがしっかり入っていた。去年では、レジェンダリーが中国に買収されてしまったし。

この今の時代の中国の勢いを実体化させたのが本作だ。製作資金の拠出を超え、中国映画にハリウッドを取り込んだ形だ。それは事件的で、記念すべき映画といえるかもしれない。あのマッド・デイモンが(おそらく)チャイナマネーで中国に呼ばれ、「グレートウォール」というお祭りに参加するに至った。

序盤から、脚本(セリフ)の幼稚さに笑う。マット・デイモン演じる武器商人が命からがら難を逃れて一言、「俺たちゃ精鋭だから、頑張らなきゃね」って、何かのバラエティショーのパロディを見ているようだ。よく知る名優から発せられる安いセリフとのギャップに、最初は違和感があったが、次第に彼の三文芝居として馴染んでしまう。そんな調子が最後までずっと続くので、ドラマチック風なシーンも、呆れることがあっても、感情を動かされることはない。脚本にはトニー・ギルロイなどハリウッドの映画人も参画しているようだが、真面目に仕事をしているとは思えない。中国の接待に付き合ったのか。

お金をかけたであろうCG映像はなかなかの迫力。緑色のモンスターは「とうてつ」という中国名がついていて、オリエンタルなデザインだ。おびただしい数のモンスターたちが万里の長城を埋めつくす画は劇場鑑賞に相応しいもので、これまでの中国映画のイメージを覆すほどだ。ただし、モンスターのアクションシーンはつまらない。人間を襲う理由は明かされず、やみくもに破壊を続けるので、高い知性をもっているという設定は弱い。女王を中心とした行動形態も昆虫界にありがちな話をそのまま持ってきただけだ。人間側のアクションも同様で、バンジージャンプや風船飛行など、多くがバカバカしいものばかり。そこに「笑ってください」という余裕はなく、真剣にやるものだから見ていてシンドクなる。

マット・デイモンと並ぶ、主役級で登場する中国人の女優は、先月見た「キングコング~」に出ていた人と同じだ。本作で演じる女将軍にはハマっておらず、アイドルがその人気だけで主役に抜擢される一昔前の日本映画のようだ。中国では人気のある人なのかな?と調べるほどの興味も湧かない。本当はもっとちゃんとした演技ができる人なのかもしれないけど、製作側のゴリ押し感がこうもあからさまだと引いてしまう。これからも彼女は中国資本のハリウッド映画に出続けるのだろうか。

監督のチャン・イーモウは雇われ監督に徹する。彼の信念が本作に活きているとは思えない。鮮やかな衣装と舞台セットに彼のセンスがみてとれるが、どれもこれもカッコよくない。カラフル過ぎる武具は集団コスプレのようなチープさだ。熱量だけは多くて退屈なバトルアクションの連続に、アクション映画との相性も悪さを感じる。金はあるけどセンスがない、そんな映画だった。

今月中旬から世界中で封切られた「ワイルドスピード」の8作目となる新作は、世界各国で爆発的ヒットを飛ばしているが、そのなかでも目立つのはやはり中国市場の動向だ。初週の興行収入が、北米の1.2億ドルを裕に超える1.9億ドルとなった。凄い。膨らむ中国の映画市場を受け、ハリウッドへの影響力もますます強まるだろう。本作のように間違った方向に行かないことを願う。

【55点】







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