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そして父になる 【感想】

2013-10-06 08:11:18 | 映画


時代、人種、世代を問わず、これほどまで近い距離で感じとれる映画は希だと思う。
皆、かつては親を持つ「子ども」だったからだ。

好きな日本人監督である是枝裕和の新作「そして父になる」は、
親と子の絆を見つめ直すことのできるヒューマンドラマの秀作。

一昨日に観たが、余韻をもう少し噛み締めたい。
突きつけられた問題は深刻だが、その情景はあくまで温かい。
「この映画に出会えて良かったな」と素直に思える映画。勝手に涙が出る。

本作は、産まれたばかりの赤ちゃんの取り違え事件をきっかけに、
父親として未熟だった男が、成長していく過程を描いた話だ。

事件が起きてから6年後、実の子どもを選ぶのか、育ててきた子どもを選ぶのか。。。
「血縁」と「結縁」を選択することは、親にとって、子どもにとって、あまりにも酷いことだ。

幼児である子どもたちは、まだ十分に自己表現ができない。
近所に住む5歳の甥っ子もそうだ。
ボケっとして何を考えているのか、よくわからない時がある。

だけども、是枝監督は子どもたちが持つ感情のゆらぎをちゃんとすくい取ってくれる。
純粋無垢な子どもの眼差しの向こう側に、親への想いが浮上しているのだ。

本作が素晴らしいのは、物事を的確に捉え語ることのできる親の視点からだけでなく、
子どもたちの視点からもちゃんと語られている点だ。

「そして父になる」話であり、「そして子どもになる」話だった。

是枝映画を観ていつも思うのだが、
登場人物同士の距離、カメラと登場人物の距離の置き方がとても巧い。
登場人物たちの確かな息遣いを感じ、観る側に感じ取らせる余白を与えさせてくれる。
是枝映画の中で特に好きな「幻の光」によく似ていると思った。

そして、演者が演じる人物描写への演出がまた巧い。
キャストに役を嵌めこむのではなく、キャストの個性と役柄の個性を馴染ませている印象。
(好みの問題だが、正反対の李相日や石井裕也はこの辺り見習ってほしい。。。)

主演の福山雅治は、最初に観て「福山雅治はやっぱ福山雅治なんだな」と思ったが、
その違和感が、父親になりきれない父親という違和感とうまく同化していった。

尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子もその実力に違わず素晴らしかった。
演技力もそうだが、子どもたちの動きにリアクションする対応力が凄い。

「凶悪」を見たばかりだったので、「リリー・フランキーの悪役とのギャップ凄いなー」とか、
余計なイメージを引きづると思っていたが、冒頭から最後まで全く感じなかった。

登場する2つの家族が絵に書いたように対照的だったり、
福山雅治演じる父親がステレオタイプだったりと、
登場人物の構図、個性を単純化したことも正解だったと思う。
おかげで、物語の本質が容易に自分の深いところまで入ってきた。

映画を観終わって
「自分の親は、自分が子どもの頃、どんなことを想って自分を育てたのだろう」
「自分が子どもだった頃、親のことをどう想っていたのだろう」と思いを巡らせる。。。

近年の邦画の中でも屈指の良作。
本作が海外で評価されたことは実に嬉しい。

洋画の不況をみて、邦画のヒットを疎んじている昨今だが、
本作は多くの人の目に触れ、ちゃんとヒットしてほしいと思う。

【90点】


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