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アンビリーバブル たった1つの真実 【感想】

2019-09-25 07:00:00 | 海外ドラマ


1シーズンのみのリミテッドシリーズに傑作多し。
本作「アンビリーバブル」も然りだった。

しばらくお目当ての海外ドラマがないため、「繋ぎ」程度に見始めたが、まさかの今年ベスト級の海外ドラマだった。鑑賞後「たった1つの真実」という邦題が突き刺さる。

全8話。
性的被害にあった女性と、事件を追う2人の女性刑事を描く。

このドラマがもたらす社会的意義ってかなり大きいと思われる。実際、自分も認識を大きく改めさせられた。ハードな社会派ドラマであると同時に、未解決事件を追う刑事ドラマとしても見ごたえがある。



1人の少女が自宅で就寝中、マスク姿の男に性的暴行を受ける。事件発生後、通報を受けた警察によって捜査がなされるが、あらゆる痕跡が消されており、証拠が全く出てこない。一方、事情聴取から得られる少女の発言は情報が食い違い、警察を困惑させる。次第に、守られるべき被害者に圧力がかけられ、結果、事件は「なかった」こととして片付けられてしまう。あり得ない話と激しい憤りを感じるも、劇中の未熟な少女はなすすべなく最悪な選択を迫られる。



その後、場面は変わって3年後の2011年。別の場所で同様の手口による暴行事件が発生する。捜査にあたるのは女性刑事だ。捜査を続けていくなか、偶然、同時期に別の場所でも同様の事件があったことを突き止める。その捜査にあたるのも女性刑事だ。捜査線上に上がった犯人像が同一人物である可能性が高くなり、2人の女性刑事による共同捜査が始まる。



普段知ることのない性的暴行事件における、被害者、警察捜査の動きが、コト細かに描かれる。そのディテールに、脚本段階での徹底したリサーチがうかがえた。同時に、本作にかける製作陣の強い想いが滲む。被害女性の意外に冷静な反応、恐怖に支配された状況下で記憶を辿ることの難しさ、無駄に繰り返される事情聴取、警察の正しい対応と正しくない対応、現場、犯人、そして被害者の体内に及ぶ捜査、セカンドレイプの怖さ、DNA捜査の種類と精度、「虚偽申告」という凶器。

レイプは疑いようのない犯罪行為だ。心と体に大きな傷跡を残す。加害者がどう弁解しようが、被害者の心情が真実になるべきである。しかし、多くの傷害事件と違って、その真実を曇らすことがある。人が持つ偏見だ。本作で登場する被害者たちは、年齢、人種、体形、容姿、全てが異なる。レイプは弱者への最たる暴行の1つであり、それは女性だけではなく、男性が被害者になる場合だってある。「この人が襲われるはずはない」「合意のもとで行われたはず」は恥ずべき偏見であり、傷ついた被害者を痛めつける思考だ。



3年前に少女に起きた事件と、2人の刑事によって捜査が続けられた事件。その道を分けたのも、1つの偏見である。物的証拠が出てこないなか、被害者を貶める証言が出てくる。「問題児」のフィルターを通して少女を見ることになった刑事たちは、彼女の発言を「虚偽申告」として確信する。担当した刑事たちは悪徳刑事ではない。無自覚に正義を見失った。

性的暴行事件は、男性よりも弱い女性が圧倒的に被害者になりやすい。男性が全く活躍しない本作において、フェミニズムに振り過ぎているという見方もあるけれど、間違いなく男性と女性では被害者に相対する感情が異なると思う。このような傷害事件には、必ず女性が被害者をケアすべきであり、本作でもこの差は大きかったと思う。3年後の事件を捜査した女性刑事は、事件を解決するプロに徹しながらも、被害女性に最大限に配慮し傷ついた心情に寄り添うことを忘れない。

女性刑事のモチベーションは2つ。被害女性に一生残る傷跡をつけた犯人に然るべき償いを受けさせること、そして、二度と同じ被害者を出さないことだ。性犯罪のリアルを突きつける内容でありつつ、2人の女性刑事の執念の捜査を描いたドラマでもある。手がかりがなくなり捜査が行き詰まれば、別の角度から突破口を見出し、再び前進する。と思えば、再び振り出しに戻り、また新たな突破口を見出していく。一切の妥協を許さず、時に強行的な手段も辞さず、捜査を続ける2人の女性刑事がめちゃくちゃカッコいい。馴れ合いとは無縁の2人の刑事のクールなバディー感が素敵だ。



本作にかける想いは、当然キャストにも浸透している。被害にあった少女、2人の女性刑事を演じた3人が素晴らしい熱演を見せる。本作を見るきっかけがトニ・コレットだったが、まだまだこんな逸材にいたなんて。少女を演じたケイトリン・ディーヴァーと、捜査を牽引する女性刑事を演じたメリット・ウェヴァーだ。今年のエミー賞では間に合わなかったものの、ゴールデン・グローブ賞あたりではしっかり評価されてほしい。



2人の刑事の捜査は、3年前の少女の事件に影響をもたらす。警察が犯した誤りの大きさに愕然とし、少女にもたらした希望の大きさに胸を打たれる。最終話、時を超えて初めて会話する少女と女性刑事の電話シーンに熱いものがこみ上げる。刑事のあるべき姿がそこにあった。

【80点】
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