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ヒトラーの忘れもの 【感想】

2016-12-29 09:00:53 | 映画


戦争映画の新たな傑作。今年の劇場鑑賞の見納めに相応しい映画だった。

第二次世界大戦の終戦直後、ナチスによって埋められた地雷撤去に駆り出されたドイツの少年兵たちと、彼らを監督するデンマーク人軍曹の運命を描く。史実を元にしたドラマだ。

戦争中、ナチスはヨーロッパ中を侵略した。そして、侵略した現地に憎悪の種をバラ捲いた。ドイツ人に対する憎しみの芽は肥大化し、ナチスの敗北となった終戦後もなお人々の人格を浸食した。舞台となるのはデンマークの西海岸だ。どこまでも続く美しい白浜に、連合国の上陸を阻止するために、ナチスが200万以上の地雷を仕掛けていた。その莫大な死の遺産を回収するために動員されたのが、ドイツ軍の少年兵だ。もしかしたら、地雷撤去に子供が適しているという当時の根拠があったのかもしれないが、未来ある子供たちに死のリスクを背負わせる非道は、ナチスに対する「見せしめ」のようにも思えた。

デンマーク軍によって召集された少年兵たちは、抵抗するそぶりがない。抵抗することが無意味な状況であることを認識しているようだ。故郷のドイツに帰るための唯一に術が、与えられた地雷撤去を完遂させることと信じ、地雷撤去の訓練に始まり、途方もなく絶望的なミッションに挑む。デンマーク軍は彼らを屁とも思っていない。餓死しようが爆死しようが関係ない。相手が子供であってもナチスの罪を背負わせるのは当然の報いと考えている。

少年たちを監督するのがデンマーク人の鬼軍曹だ。退却するドイツ兵がデンマークの国旗を持っていれば、怒り狂いその相手を暴力で血祭りに上げるような狂犬だ。少年たちへの対応も容赦なく、ロクに食事を与えず、苛酷な労働を強要し、彼らが休む間、宿泊小屋には外から閂をかけ封鎖する。鬼軍曹はドイツ語が堪能であり、彼らと意思疎通が普通にできる。親子ほど年の離れた関係で、価値観が合う男同士である。彼らは上官と部下という関係でもあり、軍曹が少年たちに同情をかけることは早いと思われたが、そう簡単にはなびかない。それほど戦争の遺恨は根深い。

描かれるのは、少年兵たちと軍曹の関係性が変化を遂げていく過程だ。それは一本道ではない。憎しみの向こうにある軍曹の良心が見えたと思えば、地雷地獄という特殊な状況にあって、軍曹の理性が吹き飛び、彼らの間に育まれていた絆が崩れるのも容易だった。死と常に隣り合わせにある日常のなかで、少年らの絶望と希望がせめぎ合う。傷跡が染みついた悲劇の痛ましさと共に、ヒトラーが地雷に仕掛けた「執着」など、戦争の狂気が恐怖として伝わってくる。

憎しみが赦しに変わり、人間対人間のなかで希望を見出すことができるのか。本作が導いた答えに感動を覚えた。少し残念なのは、そのプロセスがかなり多めに省かれていたこと。もう少し描写してほしかった。

戦争の罪を、加減ないリアルで描いた筆致は「サウルの息子」に共通するところ。両作でナチスの立場が対照的に描かれていることにも注目した。ドイツの人たちは、現在も過去に犯した戦争の罪を国民全体で背負っているというが、その覚悟の大きさについて改めて触れることができた。

【75点】
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