おそらく記憶にない出来事。入ったシネコンのなかで一番の大箱のスクリーンに、ほぼ満席の状態で埋まった客席、エンドロール中、席を立つ人が誰もいなかった。感動の余韻に浸る空気が充満していた。
自分は「聲の形」と「リズと青い鳥」くらいしかみていない、京都アニメーションのにわかだ。他のアニメ映画は少女感丸出しの印象があって、なかなか触手が伸びない。が、本作については、SNS上でフォローしている映画ファンの絶賛ぶりにつられて見に行った。1日前に見たばかりの「TENET テネット」とはまるで客層が違う。若い男子が多い。
テレビで放送されていたアニメの劇場版らしい。。。というくらい、何の事前情報を持たずにみたが、こうした初心者にもわかるような脚本になっていて有難い。ただ、テレビアニメを知っていたほうが楽しめることは間違いなさそうだ。
かつて、一切の感情を持たずに兵士として育てられてきた少女が、手紙の代筆業という仕事につき、様々な人たちの「愛」の伝達人になるという話らしい。
中世のヨーロッパを彷彿とさせる世界観。戦後の世界が描かれていてファンタジーのようでリアル感もあり。そして、キャラクターがもれなく美男美女として描かれている。主人公は売れっ子の代筆家ということだが、このあたりはシリーズを追っていないと入ってこない。主人公の自己紹介シーン「ヴァイオレット、(少し溜めてからの)エヴァーガーデンです」と、観客にも向けた真正面の表情をみて、隙なく可愛く描かれている状態に少し引いてしまった。多くの観客はこの画を見て「萌える」のだろうかと。。。。
ちょうどネトフリで、湯浅監督の初期作「ケモノヅメ」を劇場に入る直前までタブレットで見ていたばかり。「ケモノヅメ」は、エロスとバイオレンスの噴火アニメ。キャラデザインは小学生が書いたように粗い。色彩も単色使いでグラデ―ションも少ない。主人公は戦闘中に決まって下痢をして、手足は血しぶきを浴びて切られ、恋人との接吻はもれなくベロベロのディープキスをかます。過剰なファンタジーの中に人間の本能がそのままに描き出される。
その対極にあるのが本作。何もかもが美しく汚物は排除される。初心者にとっても重要な背景情報となる、主人公の過去にあった戦争の記憶。どんなに汚れても、どんなにケガしても美しい形を崩さない。そもそも、あんなに可愛い少女が生き死にの戦場にいる画が馴染まない。「偽物」として自分は認識してしまった。ここで半ば気持ちが離れている。。。。
あらすじはざっくり、代筆家として活躍する主人公の周りで起きたこと、そして、彼女を育ててくれた(?)恩人との愛の行方。容姿のデザインと同様、悲しいことを悲しく描いて、尊いことを尊く描くスタイルは一貫している。「そのまま」を美しいと感じるか、「そのまま」を当たり前として興冷めするか、自分は後者だった。特に終盤のクライマックス、過剰にドラマチックに畳みかける愛のシーンにはついていけなかった。おそらく主人公と少佐の関係性は、この映画の中だけの情報では補えないのだろう。周りの人たちは号泣してるし、、、、居づらい。
とはいえ、京都アニメーションのレベルの高さを再実感するには十分だった。脚本や演出は別として、これだけ徹底的に描き込まれた美しいアニメーションを大スクリーンで見られることはシンプルに眼福である。また、キャラクターに魂を宿す声優陣のパフォーマンスにも感動した。本作は間違いなく劇場で見るべき映画だ。
「大切な人へ想いを言葉で伝えよう」という普遍的なメッセージをしっかり届くのだけれど、「一部のアニメファンのもの」というポスターで見たままのイメージは払拭されず、「食わず嫌い」を克服するには至らなかった。
【65点】