から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ドント・ブリーズ 【感想】

2016-12-24 09:00:00 | 映画


がっつり怖い。怖すぎて笑えてくる。スリラーの域を瞬殺で突破し、極上のホラーへと昇天。身体障害というデリケートなハンデを、ホラーとして料理してしまったハリウッド映画の強さよ。こんな映画を作られてはハリウッドに勝てない。善人なき物語は、予測不能の展開で観る者を翻弄する。あの結末が最良だったかどうかは怪しいところだが、結果よりもプロセスを魅せることに旨みがある映画だ。限られた空間の中で繰り広げられるワンシチュエーション劇としても非常に良く出来ている。スティーヴン・ラング演じる盲目マッチョ爺さんは、ホラー映画史に残る新たなアイコンだ。

盲目の退役軍人が1人で暮らす家に、泥棒に入った若者たち3人が、とんでもないオシオキを喰らうという話。

北米での評価がすこぶる高く、日本公開を待ち望んでいた映画。その期待とは裏腹に、日本での上映館が少な過ぎて驚いた。配給会社側がプレミア感を出すために上映館を限定させる、みたいな話を聞いたことがあるが、映画ファンとしてはとても迷惑な話。観た日が水曜日のレディースデーに被ったこともあり、劇場はなかなかの盛況ぶりだった。

物語の舞台はデトロイト。自動車製造で湧いた時代は過ぎ去り、仕事がなくなった町から人は消え、町並みはゴーストタウン化している。そんな実際の地域情勢を本作は舞台設定に活かしている。主人公ら3人組は地元で生まれ育った若者のようで、デトロイトのなかでも金持ちの家を探し出しては、住人の留守を狙って泥棒を繰り返している。そのやり口がスマートかつ乱暴で醜い。万一、警察に捕まったことを想定し、減刑を見越したルールのなかで盗みを働いている。メンバー構成は二男一女で、ワケありな三角関係にあるのがミソ。盗みの「安全」を確保するブレーンは、そのメンバーの1人の男子で、セキュリティ会社を経営する親の情報を盗んで活用している。おそらく彼が泥棒に関わる動機は他の2名とは異なる。メンバーの1人である女子に想いを寄せており、彼女に付き合って悪さに加わっている印象だ。

その女子が本作の主人公的な立場だ。「牢獄」と表現する家庭から、幼い妹とともに脱出することが目的にあり、逃走資金を稼ぐために泥棒を働いている。その家庭環境は悲惨なもので、一瞬、彼女の犯罪行為に正当性を感じるものの、犯罪は犯罪であり、彼女の言動からは同情の余地はさらさらない。なかなか逃走資金が集まらない彼女は一攫千金を狙い、最後の仕事として一件の家をターゲットにする。初めて「現金」を狙う計画は「絶対に捕まらない」という、あらゆるリスクを排除しなければならない。そこに住む住人は1人暮らしで、目が見えない孤独な老人だった。場所は町外れにあり、近隣の家はもぬけの殻で、外部から危険が及ぶ可能性も低い。彼らにとって成功の条件は整っていた。。。はずだったが、その条件がすべて暗転し、彼らの脅威に変わり、想像を絶する惨劇のお膳立てをすることになる。この設定が巧い!

その後に描かれるのは、ターゲットの家に侵入した3人組が、盲人から想定外の逆襲を受けるというもの。これが本作の主菜だ。事前に聞いていた本作のあらすじからは、盲人がもっとサイコな奴だと思っていたが、結構、人間的なキャラからアプローチされていた。彼が最初に発した「そこにいるのは誰だ?(フーズザット?)」の声色からは普通に恐怖が滲んでいる。銃による攻撃も、アメリカ社会の価値観においてはごく自然の防衛行動といえるだろう。泥棒が1人ではなく、複数いることがわかった瞬間にも盲人から恐怖の表情が見てとれた。盲人が生きる世界にしか存在しない、目が見えないことの恐怖が丁寧にすくい取られている。若者たちが狙うのは、盲人の悲しい過去に紐づいた財産であり、何とも卑劣だ。盲人は完全に被害者であり、侵入者である主人公らが悪モノである。

が、中盤のあるシーンをきっかけに、その構図が崩れ出す。「ベイビー!!」の絶叫から、盲人がサイコキラーに変わるスイッチが入る。夜の闇を味方につけ、鋭い聴覚を武器に盲人による常軌を逸した猛追が始まる。まるでターミネーターのよう。そこからは主人公らのサバイバルに変わっていく。彼らの希望の芽をことごとく摘んでいく流れが堪らない。募る絶望感。主人公らの生還劇に話が集約されると思いきや、主人公の女子はそれでも財産を盗むのを諦めない。ここも本作の魅力の1つ。彼らの悲劇は自業自得として描かれ、安易に善悪の立場が整理されない。どっちにも肩入れできず、何がハッピーエンドかもわからなくなる。とてもユニークだ。

「どうしたらそんな発想になるの?」と、「ベイビー」の謎が明らかになるシーンで全身に悪寒が走る。ブラック過ぎるユーモアともとれるが、ひたすらに悪趣味(笑)。「冒涜」と目くじらを立てずに、笑い飛ばすくらいがちょうど良いかもしれない。完全に男子向きだ。その馬鹿らしさが自分はツボだったけど、劇場で見ていた多くの女性たちは嫌悪したと思えた。主人公による盲人への、気持ち悪すぎる「お見舞い」でスカッとできたら良かったのだけれど。

「アバター」の大佐のイメージの強い、スティーヴン・ラングが盲人を怪演する。白のタンクトップから見える凄まじい筋肉によって、まったく弱そうに見えないのが良い(笑)。座頭市バリの超能力を駆使して、主人公らを追い詰める怖さったらない。目が見えない状況と、その可能性を活かした演出も素晴らしく、前評判とおりの秀作ホラーだった。監督はフェデ・アルバレス。彼の前作にあたるリブート版の「死霊のはらわた」も自分は好きだったので、ジェームズ・ワンと並ぶホラー映画の旗手になってくれることを期待する。

これは好き嫌いの問題だが。映画が提示した結末は、自分は好きになれなかった。ホラー映画として突っ切ってほしかったところ。そのあたりはパッケージ化されたのち、もう1つの結末みたいな映像特典がついていたら嬉しいと思う。

【70点】

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