から揚げが好きだ。

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最後の追跡 【感想】

2016-12-07 09:00:00 | 映画


今年の未公開映画のベストは本作。
原題は「Hell or High Water」。日本での劇場公開を待っていたが、Netflixからのサプライズプレゼントを見つけ、飛び上がる。「塀の中の王」に続く、デヴィッド・マッケンジーの秀作映画。Rottenで98%フレッシュは伊達じゃない。派手さのないクライムスリラーだが、血の通った人間ドラマに最後まで引き込まれた。とりわけアメリカ人にはいろんな意味で突き刺さる映画と感じる。

テキサスを舞台に、家族の土地を守るために銀行強盗を繰り返す兄弟を描く。

人がほとんどいない閑散とした田舎町で、兄弟による強盗シーンから物語は始まる。犯罪に不慣れな弟と前科者の兄だ。素人感まるだしのコンビによる粗い強盗シーンが生々しい。その様子は「世界笑劇映像」みたいなテレビ番組で、強盗に入ってドジを踏む人間たちによく似ている。そんな強盗でもセキュリティが担保されていない地方の銀行では、簡単に強奪が成功してしまう。強盗の方法は一見とても粗いが、兄弟には足のつかないプランがあった。そのプランは強盗を繰り返すことで実現する。強盗を繰り返すことで高まるリスクと、理性的な弟とは対照的である、衝動型の兄の性分が危うい事態をもたらしていく。彼らを追うのは、退職間際の老齢保安官と、彼と長年コンビを組むインディアンの血を引く中年保安官だ。銀行強盗を繰り返し逃げ続ける兄弟と、彼らを追いかける保安官という構図。本作にはそれ以上の展開は用意されておらず、シンプルで地味な映画といえるかもしれない。

本作の魅力はスリラーにはない。アメリカンドリームに湧いた過去の幻想を引きずる地方都市の「今」を浮き彫りにし、貧困層から金を絞り取る資本主義の歪み、テキサス(南部)という特異な風土にある歴史と、そこで生きてきた男たちの気質とプライドといった、様々な側面が登場するキャラクターの生き様を通して濃密に描かれていく。どれも日本人には不慣れな価値観ばかりだが、丁寧な人物描写によって各キャラクターの心情を想像することは容易だ。正義に寄り添った結末が深い余韻を残す。アメリカの雄大な景色を捉えたショットも素晴らしく、終着の見えないドラマに密着する。それにしてもアメリカってホントに大きいな。。。

兄弟を演じたクリス・パインとベン・フォスターがキャリアハイレベルのパフォーマンスにて、匂い立つような南部の男を体現する。とりわけクリス・パインについては、本作で一皮剥けた印象をもった。2人の子ども時代の写真だけで泣けてくる兄弟の絆の説得力よ。老齢保安官演じたジェフ・ブリッジスの名演が、古き良きアメリカの幻影を浮き上がらせる。

全然、本作に関係ないトピックスだが、次期大統領であるトランプを後押しした人たちは、本作に登場するような人たちだったんだろうなと思いを巡らせた。

【75点】
コメント
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