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『職場のメンタルヘルス・マネジメント ――産業医が教える考え方と実践 (ちくま新書 )』

2023-10-23 18:21:00 | Books
長く会社という組織にいると、メンタルを病んでしまう同僚、部下に多数遭遇する。メンタル不調に至らないまでも、人間関係に悩んでストレスや不満を抱えたまま働いたり、エンゲージメントを損なったりしている人がどれだけ多いことか。

会社人のウェルビーイングの向上って、日本の社会や経済のパフォーマンスを上げるために最優先すべき課題だと常々感じていることから、産業医の目線で職場のメンタルヘルスマネジメントを論じたこの本を一読してみた次第。一般向けに書かれたこの手の本ってなかなか見当たらないので。

第一部は、会社人の合理的な働き方について。勤務とはあくまで契約である。会社の業務において個人の責任には限度があり、上司(管理者)であっても雇用されており有限責任である。労働契約法において会社には安全配慮義務があることが定められている。労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならない。一方で、労働者側にも労働安全衛生法上の自己保健義務がある。酩酊状態で出勤したり、感染症が流行しているときには感染しない・させないための行動が求められる。健康診断の受診義務もある。

第二部は、人の心理の特性および職場で見られる精神症状の解説。人の心理特性は、気質・性格・人柄に構造化され、一般にはあまり違いを理解せずに使用される、自閉症、発達障害(神経発達症)、パーソナリティ症、抑鬱、自律神経失調症、適応障害などの用語がそれぞれ示す状態や病理が解説される。主治医が書いて会社に提出される診断書の診断名も、実は明確ではなく、産業医としてそのバックグラウンドを含めた解釈が必要になるものだというのは知らなかった。また、健常者と自閉症者は二分されるものではなく、グラデーションのように濃淡があるだけとの話や、叱りつけるだけの厳しい親に育てられるとパーソナリティの歪みが生じ、自己を保全するために妄想、他罰(加害)、回避などの代償行動に出るという話は、職場のちょっと付き合うのが難しい人に対する見方を少し変えてくれる気づきになり得るように感じた。

第三部は、休職・復職、健康管理、産業医の役割などの制度に関するテクニカルな説明。

最後に、本書を通じての著者からのメッセージが6点挙げられている。その中の1つに、仕事は自分の本心でするものではなく、仮面を被り会社が指定した役割をうまく演じればよい、というのがある。そのように割り切る必要があることには同意はするのだが、せっかく人生の大半の時間を会社での仕事に捧げるのに、本心を隠して演じるだけというのも、真の精神的・心理的充足を得るものではないだろう。役割を演じながらも、部分的にでも自己実現していく強かさを多くの人が身につけられる世の中になればよいのに、と心から思う。

#ブクログ




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