まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかナシーム・ニコラス・タレブダイヤモンド社このアイテムの詳細を見る |
なべてこの世は不確実性に支配されている。
生まれてこの方、白い白鳥を何羽見ようとも、そのことですべての白鳥が白いと断言することはできない。
黒い白鳥は現れ得る。
ちょうど今現在世界を席巻している未曾有の金融危機も、およそ一年半前にはこんなことになろうと予測する人はおらず、まさに「黒い白鳥」なわけです。
この世が不確実であるなら、現在「結果として」成功をおさめている人も、特別に優れた能力があったのではなく、ただ偶然そうなっただけに過ぎない。
まったく実力がなく運だけでその地位を得たと言っているわけではなく、偶然により何か一つ条件が違っていたら、今「成功者」となっているその人が凡庸な人生を送り、別の誰かが代わりにその地位に就いていたかもしれない。
副題が意味しているのはそういうことです。
ところが、我々人間の脳は、そのような不確実性、ランダム性を直感的に理解できるように作られていません。
偶然の要素を捨象して、成功しているとの結果だけをもって、その人の能力の高さを信じてしまう。
そういった、合理的になりきれない人間の性質は、様々な経済行動を通じて現れることが、この本にも興味深いたくさんの例によって示されます。
話は「行動経済学」につながってゆくのです。
著者の語り口に皮肉っぽいところがあるのと、翻訳のぎこちなさから、ストレートに頭に入ってこない部分もありますが、面白い本ですし、学ぶところも多い。
不確実性を深く理解して人生をうまく乗り切っていくことはなかなか難しそうですが、少なくともすべては不確実なのだと考えれば生きていくにあたって気持は楽になります。
個人的にもっとも得るところが大きかったのは、「期間を短く取るとノイズが大きくなり、リスクばかり観察することになってしまう」ということ。
長期的(たとえば1年)にはよいパフォーマンスが出ている場合でも、短期的(たとえば日単位)に観察すると浮き沈みは発生する。
人間は悲しいことに、短いスパンで成果が気になってしまい、しかも成果がプラスな場合よりもマイナスな場合のほうにより大きく感情が動かされてしまうので、短期での成果をチェックすればするほど気分は常に晴れないことになってしまうのです。
著者は、ノイズに惑わされないようにするために、一切新聞は読まないとのこと。
サッカー日本代表が10年スパンでみると確実に強くなり成果も挙げているのに、目先の一試合一試合をみるとついついイライラしてしまう、というのと同じことですね。