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” I HAVE THE CONN"(もらいます)~空母「ホーネット」艦橋ツァー

2015-05-27 | 軍艦

空母「ホーネット」艦橋ツァー、続きです。
前回空母「ホーネット」の指揮所について艦隊司令だったマケイン中将と
ハルゼー元帥のハートウォーミングな逸話()で終わりにしましたが、
このマケイン中将は第38任務隊の司令官であったミッチャー中将と
任務隊隷下の第一群司令を交代し合っていた関係で、「ホーネット」に坐乗したのは
そんなにしょっちゅうだったわけではなさそうです。

自衛隊の護衛艦などでもそうですが、海軍軍人の任期というのは艦長職でもだいたい1年。
我々の感覚からは驚くほど短いものです。

 

艦隊指揮所らしい部分から移動する途中にあった得体の知れないもの。

「PELORUS」(方位儀)と書いてあるので方位儀だと思うのですが、
舷側に置かれているせいか蓋が閉められた状態です。
このおかまの蓋みたいなのを外せば方位儀の盤面が現れる?

 

ツァー御一行は艦橋をほぼ一列になって移動します。
次に案内されたのがこの船室。



ツァーガイドは必ずこのような「手頃な」年齢のお子様に椅子に腰掛けさせ、

彼なり彼女なりにアメリカ人らしくまず名前を聞き、

「ジェイミー、それではこの椅子に座ってまず何が見える?」

みたいな質問をしてそれを説明の導入につなげるというようなことをします。
この時の”つかみ”が何だったのか日にちが経って忘れてしまいましたが、
彼が要するにこの椅子が誰のためのものなのか、きっかけになるような発言をしてくれれば
こっちのもの、というわけです。

子供が座ってもかなり高い位置にあるので窓から外が見渡せるこの席、
このことを、ガイドは
 
「ホーネットのコマンディングオフィサーの席」

であると言っていた覚えがあるので()艦長席のことだろうと思われます。

ところで艦橋に配置される構成員は三種類に分けられます。

1、OOD、The Officer of the Deck(当直士官)

2、JOOD、The Junior Officer of the Deck(副直士官)

3、JOOW、Junior Officer of the Watch(操舵員)
 

OODは海軍海自でいうところの「当直士官」。

ナビゲーションについての責任、たとえば衝突回避などの措置を取るのもこの役目。
メインエンジンの制御についても受け持ち、コマンディングオフィサー(艦長)の
判断に必要な報告書を作成する係でもあります。

 

 

往時の使用例をどぞー。

これを見てふと思ったのですが、海上自衛隊の慣習である
赤だったり赤と青だったり黄色があったり、という椅子カバーの色分けは米海軍にはないんですね。

このセイバーリッチという軍人は1969年から1年だけ「ホーネット」の艦長だったのですが、
現在はもちろんそのお仕事中の写真を見ても、カバーがそもそもかかっていません。
「ファイナルカウントダウン」でカーク・ダグラスが色付きの椅子に座ってた記憶もないな。

というわけで、改めてあれは自衛隊独特であるらしいことが分かったのですが、
ということは、双眼鏡のストラップの色を含め海軍時代に生まれた慣習なのでしょうか。



さて、このセイバーリッチ艦長の任期を見ても、日米ともに艦長職は短期であるようですが、

wikiにも書いていないほどたくさんいる「ホーネット」艦長経験者の中で
どうしてこのセイバーリッチ艦長が有名なのかと言いますと、彼の在任中、
「ホーネット」は第二次世界大戦の功労艦として最後の花道ともいうべき、

「アポロ11号ならびに12号の乗員とカプセルを回収」

というミッションに参加しており、セイバーリッチ艦長はそのどちらもの任務を完璧に
やり遂げたのち、最後の艦長として「ホーネット」の退役を見送ったからです。

「ファイナルカウントダウン」でも、カークダグラス扮するイエランド艦長は
ずいぶんお高いところにふんぞり返って座っていた記憶がありますが、
「艦長の椅子」は、360度回転し、窓の外が一望できる高さにあります。



近くで盤面の写真を撮ることができなかったのでわかりませんが、
羅針儀かテレグラフ(速力通信機)であろうかと思われます。



年代を感じさせるテレビ型のモニターと、左側は風力、風向計。
風速は単位がわかりませんが83を指しているので、多分作動していないんでしょう。



艦長の椅子と羅針儀の後方にはこのようなコーナーが。
ここも中に入って写真を撮りたかったのですがお子様が退かなかったので
色々と重要なものを撮りそこなってしまったようです。

今年の夏はちゃんと撮ってきます。(−_−;)



時計もいつの頃からか針の動きを止めてしまったようです。

窓カラスの張り巡らされた艦橋の天井角の丈夫そうな時計には蜘蛛の巣がかかっていました。



空母にもサイドミラーがあったとは・・・・。
この鏡にもさぞかしいろんなものが映し出されてきたのだろうとついしみじみ。
経年劣化で鏡の層が剥がれてしまっていますね。





これが羅針儀でしょうか。
だいぶ部品がなくなってしまっているように見えます。



ALIDADEとは平板測量用器具で、水平器と定規を備え,平板上に載せて
地上の目標の方向距離高低差を測定するものの意味だと思うのですが、
ここに書かれているのは転じて「平板」から、もしかしたら甲板のこと?




扇風機、照明器具、スピーカー、電話の線らしいのがもう一緒くたになってカオスです。



これなんだと思います?
機械の横の黒いプレートにはレーダーと書いてあるのでレーダーなんですが、
昔のモニターは陽の光のもとでは見にくいものだったせいか、
光が入らないようなカバーをして覗きこむようになっていますね。

レーダーの後ろのスイッチのいっぱいついたボックスは、マイクです。




ベトナム戦争にもちょっと参加した「ホーネット」。
甲板上から哨戒のために飛び立つグラマンのトラッカー。

「ホーネット」は1967年の夏、作戦行動でずっとベトナムの海にいたこともあるそうです。



ニクソン大統領が「ホーネット」に坐乗したこともありました。
フラッグブリッジ、すなわち「ホーネット」が旗艦だったときに、
マケイン中将とミッチェル中将が代わりばんこにここに乗り込んだ、というところですね(笑)

「ホーネット」は人類初の有人月面着陸を果たしたアポロ11号の乗組員と司令船、
そして12号の乗組員と司令船を回収したのですが、アポロ11号の回収時には、
ホーネットの格納庫甲板内において、ニクソン大統領が、移動式の隔離室に収容された
アームストロング船長以下計3名の乗組員と対面したからです。


さて、わたしが「いせ」の艦橋で出航作業に立ち会った時、海軍海自伝統の
「いただきます」を目撃(しゃべっていたので正確には目撃しそこないましたが)
したのですが、アメリカ海軍にもこのような形式がちゃんと存在します。

たとえば、
当直士官の交代の様子を見てみましょう。


スミス中尉(仮名)はOOD、デッキオフィサーで、(ジョン・)ドゥ中尉が彼の交代員です。
ドゥ中尉は戦闘情報センター(CIC)をチェックし見張り中に起こると予想される必要な処置、
ナビゲーションで航路をチェックし全ての命令に目を通し、周囲の船舶の位置を確認。

これらが済んだら、ドゥー中尉はスミス中尉の前に立ち、

"I am ready to relieve you, sir."

あなたを交代させるための用意ができました、つまり交代準備完了です、といったところでしょうか。
このようにいい、 スミス中尉も

 "I am ready to be relieved.”

交代される準備完了、と告げます。
その後二人は引き継ぎ事項として自分が任務に立っていた時の確認要項を申し送り、
それらが済んだ時点で

"I relieve you, sir."

と改めて言い、スミス中尉の方は

 "I stand relieved. Attention in the  bridge, Lieutenant Doe has the deck."
(ブリッジに交代に立ちます。ドゥー中尉は甲板へ)

しかるのち敬礼を交わし、甲板に移動したドゥー中尉はそこで

"This is Lieutenant Doe, I have the deck."

と任務を引き継いだことを表明するということです。
海軍から続く慣例で現在の海自でも操舵を「いただきます」と言うように、
アメリカ海軍の持ち場を「I have」という独特の言い回しが定型化されているのも
おそらく昔からの船の上の慣例というものだろうと思われます。

ちなみにどちらも中尉であるのにドゥー中尉がスミス中尉に「Sir.」を使用しているのは
実際の階級に関係なく「こういうことに決まっているから」だそうです。

2番のJOOD、副直士官は、自衛隊だとだいたい1尉か2尉が充てられ、
必ずOODは3尉あるいは1佐というように階級が決まっています。 

 3番のJOOW、ジュニアオフィサーは、"conn"という任務を通常負うことになっています。

 connとはそのまま「操舵」という意味を持っており、つまり操舵員のこと。
「いせ」では艦長に航海長が「いただきます」と言っていましたが、上からだと「もらいます」
と言い、米海軍ではこの「いただきます」「もらいます」のときに

"I have the conn,"

というのが一般的で、他の言い方は

"I have the deck and the conn," 

となります。

全体的に組織でもラフで、形式を合理的に省略することの多いアメリカ人ですが、
海の男たちのしきたりは、ほかの世界ではないくらい厳格にそのまま引き継がれているようですね。