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映画「機動部隊」~ミッドウェー海戦

2015-05-07 | 映画

映画「機動部隊」三日目です。
パンフレットの内表紙の写真で、おそらくアメリカ公開時のものでしょう。
アメリカ映画お約束の「 抱き合う男女」が挿入されていますから(笑)

 さて、ジョナサン・スコット少佐はエンタープライズの航空隊を率いて戦争に参加。
そして、半年の間にウェーキ、マーシャル諸島、ニューギニアで戦闘が繰り広げられます。
戦闘機と共に優秀な飛行士を何人も失い、米軍はより優秀な航空隊の指揮官を必要としていました。

そこで旗艦の作戦責任者に任命され、昇進して中佐になったスコット。



旗艦への着任はシップトゥシップ、直接飛行機で移動です。
そしてそのままミッドウェイ海戦に参加。
ところで実名があまり出てこないこの映画ですが、このときスコットは
「ヨークタウン」に赴任したと映画では言っています。(相変わらず字幕なし)

「ヨークタウン」の作戦参謀という曖昧な設定にしたのは、スコットがこの後
「フランクリン」に勤務してあの壮絶な事故に遭遇するという話の都合上、
たとえば実在の人物、ジョン・サッチ少佐などをモデルにはできなかったためだと思われます。

スコットの同期に「マクラスキー」という士官がいいて、「エンタープライズ」に残りますが、
このマクラスキーだけが(クラレンス・マクラスキー少佐)実在の人物です。
勝利の立役者となったわりに出世しなかったらしいこの軍人をトリビュートしたのかもしれません。



本編での「ヨークタウン」に座乗している司令官はリーブス提督。
フレッチャー提督がモデルだと思われます。(似てませんが)


リーブス監督は悩んでいました。


「我々にもう3隻の空母があれば敵がミッドウェーに着く前に攻撃できる。
ミッドウェーを守るより前に、日本の空母を沈めるのが先決だ」

しかし未だに日本の空母は見つかりません。
この段階では南雲機動部隊の位置を特定できていなかったという設定です。


このシーケンスを見て思うのは、戦後明らかになったミッドウェーの米軍勝利に

大きく寄与していた情報戦と、それに基づいて米艦隊が準備していたというのが
当時まだ全くなかったことになっていたらしいということです。

ミッドウェー海戦についてまさかとは思いますがご存知ない方がいるかもしれないので

産業で説明しておくと、

まずダッチハーバーを攻撃し、ハワイ艦隊を北上させたところでミッドウェーを攻撃し、
米艦隊がミッドウェーに向かったところを挟み撃ちにして叩き、米国に精神的打撃を与える作戦だったが、
米側は暗号解読して作戦を知っていたので、
ミッドウェーで待ち伏せしていて日本がやられた


というものでした。(よね?)


史実通りとすれば、アメリカ側は待ち伏せしている側だったわけですから
そう悩まなくたって、と映画の提督には言ってあげたいくらいですが、
ここは映画なのでやはり苦悩して見せているというわけですね。

そこにミッドウェー基地から零戦の攻撃を受けたという知らせが入り、

「ミッドウェー付近に日本の機動部隊はいるらしい」

とリーブス提督は推察します。(またまた~良くご存知だったくせに~)


これもご存知のように、山本長官の案はミッドウェーを叩くことではなく

ミッドウェーに誘い出したハワイ機動部隊を叩く、というのが主目的だったはずですが、
現存する命令書とか協定書はことごとく

「ミッドウェイ島を攻略し」

となっており、結局山本長官の意図は南雲長官に伝わっていなかったのではないか、
というのが通説になっているようですね。


ともかくこの映画では、日本の作戦をアメリカ側が把握した上で

それに呼応する動きをしていたという史実はなかったことになっており、
ミッドウェー付近でアメリカ艦隊が待ち伏せしていたことなど全く描かれません。

戦後4年なので、まだ諜報戦については明らかにされていなかったのでしょうか。
海軍の全面協力で映像もアーカイブからふんだんに貸し出され、実機も提供されながら、
こういう肝心なところで海軍はまだ対戦中のいろんなことを秘匿していたようです。



ミッドウェーに敵艦隊がいることがわかったので、航空隊の出撃です。




エンタープライズからは航空隊が発進。
すでに日本軍とどこかで交戦したらしい搭乗機には撃墜マークが2機あります。

ところで日本の零戦はこのころまだ米軍機に対して無敵状態でした。
アクタン・ゼロといわれる零戦を米軍が鹵獲したのは、このダッチハーバーでのことです。

つまりこのときの航空戦において、米軍機は多数零戦に撃墜されているのです。
中にはほぼ全機撃墜された飛行部隊もあったくらいですが、彼らは勇敢にも
次々と飛来して
日本の機動部隊に襲いかかりました。


 

右側の映像は本物です。
ミッドウェーを記録した映像をYouTubeで見るとこれが出てきます。
またこの旗振ってる人が男前なんだ(笑)

 

戦闘機に続き爆撃機も次々と発進していきます。



ジリジリと待つだけの時間。
落ち着かない風のスコット中佐、泰然自若とタバコを吸うリーブス提督。
このシーケンスはこの速展開の映画で、異常なくらい時間をとって描かれます。



日本艦隊を求めて索敵行を行う米航空隊。

ちなみに実際このころ、南雲艦隊は米機動部隊がいったんダッチハーバーに向かった後、
ミッドウェー攻撃を知って慌てて南下している途中だと信じきっていたため、
(つまり自分たちの立てた作戦通りに事が進んでいると疑わなかった)
敵空母に対する攻撃予定をミッドウェー島への攻撃に切り替え、地上爆撃のために
航空機の爆装を取り替えさせているところでした。


史実とはかなり違うとはいえ、日本艦隊に遭遇するまでの米艦隊上層部の不安は

やはりこの映画で描かれたような緊迫したものであったと思われます。

ここでナレーションが


「日本軍は予想外に速かった。
進路左寄りの位置ではなく、北寄りへと場所を変えてきていた」

と入ります。
実際にも南雲艦隊は、ハワイ艦隊がダッチハーバーに向かった後、
ミッドウェー攻撃の報を受けて南下してきていると信じていたため、
それを迎え撃つための態勢を取りかけていたことを言うのでしょう。



そしてついに日本の巡洋艦を発見・・・・・・
なのですが、このときのセリフがひどい。

" A Jap cruiser. After all the serch, one stinking cruiser."

stinkingというのは「悪臭を放つ」以外に「嫌な」「ひどい」という意味があり、
いずれにしてもろくな言い方ではありません。
もちろん字幕ではDVDとなってからも当時も翻訳されていませんが、
当時英語がわかる人はこういう細部を聞き取ってムカついていたのだろうなと。

日本人が英語を理解しない国民であるからこそ、戦後こういうものを見せられても
反発しないどころかアメリカ文化に憧れたりしていたんでしょうね・・・。


とにかく、このときマクラスキー少佐のドーントレス隊が実際に見つけたのは
巡洋艦でなく駆逐艦「嵐」であったということです。

「やっつけますか」

との部下の質問にマクラスキーは

「奴らの艦隊を遅いお昼(レイト・ランチ)に頂こう」

「彼らの目指す方向には空母が待機しているはずだ」

「嵐」の航行する先に行けば日本艦隊を発見できるはずだと判断します。

 


そして彼らの報告が提督とスコット中佐の元にとどきました。


「円形配置中の敵空母4隻を発見。
巡洋艦6隻とたくさんの駆逐艦」(many, many destroyers) 

 それにしてもなんでこんなに寄り添っているんだこの二人は(笑)



急降下する戦闘機隊。


 

ここから以下はすべて実写フィルムの連続です。

傲慢なアメリカの態度はともかく、戦後の日本人はこのときの様子に
息を飲んで画面を見つめたであろうことは予想に難くありません。

何しろ日本ではミッドウェー海戦の後、敗戦の結果を知らされず、
こちらの損害は軽微であるという「大本営発表」を信じていたのですから、
戦後になってミッドウェーがこんな惨憺たる有様だったことを
目の当たりにして、ショックは大きかったでしょう。

1952年当時まだ生存していた多くの軍関係者は、この映画を見たでしょうか。

そして何を思ったでしょうか。



アベンジャーの後部座席からの射撃の映像と、零戦が実際に火を吹く瞬間を

繋げて、まったく違和感のない戦闘シーンを作り上げていることも
この映画の大きな特色の一つです。

この魚雷投下シーンも、実際に命中し爆破を起こしたシーンとつないでいます。




こちら本物。

日本軍の空母が爆発炎上した瞬間です。

「加賀」に先陣を切って襲いかかったのはマクラスキー隊でした。

このとき「加賀」のみならず各空母は直掩機の発着艦を行っており、
攻撃隊は飛行甲板に並んですらいない状態だったと言われています。

「加賀」乗組員の証言によるとちょうど「第二次攻撃隊員整列」のアナウンスがあり、
搭乗員達が出撃前にお茶
を飲もうと一息ついた時だったということです。

(wikiでこの「お茶」がリンクに飛ぶのが面白かったので残しました(´・ω・`)





サイドパイプが鳴り響き、総員戦闘配置の合図。




戦闘中銃撃され瀕死の雷撃機パイロットはなんとか着艦を果たすも重傷。
しかしこの着艦事故で甲板が損傷します。




そのとき日本機の一群が「ヨークタウン」に襲いかかりました。
これは飛龍から発信した22機の第一波攻撃隊で、零戦と艦爆から成っていました。




これは本物。九九艦爆ですね。
3機で急降下爆撃をしています。
このときF4F直掩隊12機の迎撃により零戦3機、九九艦爆10機が撃墜され、
九九艦爆8機のみが「ヨークタウン」を攻撃することになりました。

 


これも本物。
それにしても戦闘中ずっとカメラを回していた人がいるわけで、
それもすごい話だなあと思います。
アメリカ側の記録は全てこういう命知らずのカメラマン達によって撮影され、
後世に残されることになりました。

右側の機銃手は、アメリカ人らしくガムを噛みながら撃っております。



誰もいない上甲板。
この一階下の銃座からは猛烈に迎撃が続いています。



アメリカ軍の飛行機だよね?と思ったのですが、このあと指揮所のスコットが
喜んでいたところを見ると、どうやら日本機である模様。
艦上攻撃機であろうと思われます。



指揮をするスコット。
飛行甲板が損傷して「ヨークタウン」には降りられなくなったので
他の空母に着艦するようにと飛行隊に伝えています。



炎上する「ヨークタウン」飛行甲板。
日本側は艦爆3機が撃墜され、5機が投下に成功し、爆弾3発が命中しました。

 

これも実写映像で、よくこんな低空を、と思われるくらいギリギリの高度で
「ヨークタウン」にまっすぐに向かってくる日本機をカメラは捉えています。

雨あられのように降り注ぐ銃弾をかいくぐって近づいてきた零戦は、
悠々ととでも見える熟練さで投弾してのけました。



航空指揮所でそれを見るや、フェンスを掴んで衝動に備えるスコット中佐。
この一発がボイラー室に火災を発生させたため、
「ヨークタウン」は動力を失って一時航行不能となります。



機関室浸水、発電機が故障して出力が停止、という報告を受け、

「Prepare to abandon ship.」(総員退艦用意)

の決断を下すリーブス司令官。
実際にはフレッチャー司令官はこのあと「アストリア」に移乗しました。



飛行甲板を損傷して帰ってきたパイロットを手当てするメディック。

「時間はある 止血剤を取ってくれ」

とこちらは悠々としています。



飛龍攻撃隊は「エンタープライズ」型空母を大破或いは大火災、撃沈と報告しました。
しかし「ヨークタウン」はその後爆撃による火災を鎮火し、航行可能となっています。



さてこちら、ハワイのスコット中佐宅。
スコットの同僚であるバーバラが(ちなみに歌手のジュリー・ロンドン)
心配で眠れない、ここにいさせてくれと訪ねてきます。

「エンタープライズとヨークタウンが沈んだって・・・」

 

二人で慰め合っていると、物音がして誰か来た様子。
明かりを消して(灯火管制?)ドアを開けると、見慣れたシルエットが・・・。

「男が一人寝る場所はあるかい?」
「あらいでか。・・・っていうかスコッティ?」



「ハイ、ハニー。二日間寝てないんだ」



でもこちらの奥さんはかえって不安を募らせている様子。
スコット夫妻の感激の再会に水を差す形で、

「マックのこと何か知らない?生還した雷撃機は?」

スコットも気を遣って、

「生還したのは3機で8機撃墜された・・・
でもマッキニーならきっと無事だ」

せっかく生きて帰ってきて奥さんとそれを喜び合うシーンだったのに、
この奥さんが矢継ぎ早に質問をするので、まいったなみたいな様子のスコット。
さらになにか言いかけるのを、妻のメアリは

「彼なら大丈夫よ(あっさりと)。あなた、こちらに」



とバーバラを無視して()寝室に連れて行きます。
そりゃまああんたの気持ちもわかるけど戦争だし仕方ないわねえってことで。

取り残されたバーバラは暗い顔で部屋を出ていくのでした。

ベッドに横たわったスコットは、自分が爆撃隊長としてこれまで飛行機に乗ってきたのに
今回の戦いで自分は船に乗ったままで、かつ多くの部下を死なせたことを心に病んでいました。

「僕は、一体、何をやっていたんだ・・・・・」



続く。