元海幕長の講演と、それから感じたこと、考えたことを中心にお送りしています。
中国と言う国全体の覇権主義的な海洋進出の実態を、マクロな視点からお話しましたが、
今日はもう少し具体的に、どのような段階を踏んで中国が活動を深めているかから説明します。
クロノロジーとはこの場合、中国が海洋進出を近年になって急激に先鋭化させてきた様子を、
時系列で表わしたものです。
それにしても海監?漁政?なんのことやらさっぱり、と言う方のために解説しておきます。
海監も漁政も、中国の公船で、海監は「国家海洋局」の傘下にある海監総体の船をいいます。
つまり日本で言いますと海保の位置づけですね。
漁制は農業部に属し、本来は読んでその通り、漁船の監視を行うのが元々の仕事です。
日本で言うと水産庁のようなものでしょうか。
この海監の方はかなり早くから監視と言う形で周辺に現われていたのですが、遂に2008年、
領海内に侵入してきています。
クロノロジーにもあるように、海覧は測量船の妨害から始めました。
そのさい、「ここは中国の領海である」と宣言しています。
海艦も漁政も、取りあえずは軍ではありませんが、それはあくまでも建前で実質は武装していますし、
「水産庁の傘下のフネなら魚を取るのが仕事だろう」
とアマく見てしまいそうな漁政というのがまたクセモノで、実は海軍と非常に近い関係です。
海軍の軍艦を譲り受け改装して使っているという穏やかでないフネもあるのです。
このクロノロジーをご覧になればわかるかと思いますが、中国は進出にあたり
自国に正当性が無い場合、さすがに最初から軍を出すわけにいかないので、つまり
ことをいきなり荒立てずに粛々と実効支配に持ち込むためにこれらの公船を活動させているのです。
漁政はいわば「海軍の代行」と考えていただいてもいいかと思います。
尖閣付近はあの漁船衝突事件以来、なぜか日本の漁船が漁をできなくなり、かわって中国、
台湾の漁船が出没し漁をするようになった、と言われています。
このような場合、中国の漁船は勿論民間人ですが、その航行や漁の安全を確保するため、
というのが名目上の役目であるこの漁政、実質は「侵略の先兵」と称すべき役割を担っています。
つまり、この表には、尖閣を手に入れ実効支配するため、中国が海監の巡視から、
漁政によって実際に海保の活動を妨害するなどの段階へと着々とステージを上げてきているのが
はっきりと示されているというわけです。
そして公船に、このようないわば「実効支配のための露払い」をさせている間、
人民軍が何もしていないわけはありません。
これは潜水艦の活動ですから、「活動海域は全てイメージ」という文があるように、
あくまでも「状況推理」。
「であろうといわれている」活動で、分かったものだけでこれだけあります。
潜水艦の特性である隠密行動をフルに活用して、
見えない部分での活動を活発化させていることは間違いありません。
中国は、これからの軍隊は「情報化軍隊」であると位置づけ、
「三歩で歩む発展戦略」、つまり
2010年 基礎を築き
2020年 機械化を実現し、情報化建設を発展
21世紀中葉 軍隊の近代化の目標を達成
という段階を設定しています。
今はまだ基礎の段階である、というわけですが、これと同時に
2010年 経済水域を含む島嶼への進出と実効支配を進め
2020年 軍事力と情報戦と政治によって島嶼からまず合法支配にこぎつけ
21世紀中葉 日本を中国の省に組み込み国ごと支配
なんてことを実は企んでいるのではあるまいな、と考えずにはいられないのは
おそらくわたしだけではありますまい。
さて、そのような中国に対し、我が国、というか我が海上自衛隊は、
ただ手をこまねいて見ているわけではありません。
軍隊としての実力を常に維持するための訓練の実施。
有事の際の即応体制の維持。
そして、情報収集。
警戒監視。
この最後の警戒監視が最も重要で、海自は排他的経済水域を毎日巡回しています。
この「自衛隊に監視されている」ということは、それだけで中国側にとって非常に
「いやなこと」であるわけです。
これだけで両国間のパワーバランスは維持され、野心的な行動や意図に対する抑止力となります。
これらの対応を「硬の対応」とすれば、
人道支援、災害救援での協調
海賊対処活動における協力
などは「軟の対応」です。
くしくも「世界の国々が連合を組んで共通の敵と戦うことによって国家間の争いは無くなる」
とわたくしエリス中尉が海賊退治のあの構図を評したことがあります。
つまり、海賊には悪いけど、ここはちょっと悪者になってもらって(悪者だけど)
中国には「正義の側にいるって、いいことだろ?え?」とばかりに
国際社会での法の順守の重要性を自覚させ、こちらの世界へ取りこんでしまう、という作戦です。
「いじめっ子が町の不良と戦って他の子供を救う」図ですね。
童話「きつねのおきゃくさま」におけるきつねの立場だとも言えます。(マイナーなネタすみません)
そして冒頭の写真をご覧いただきたいのですが、これはこの日お話を伺った海幕長と、
中国海軍の呉勝利上将。
なぜか両手をクロスして握手をしておられます。
この呉上将は、もう70歳にはなる海軍切っての俊秀だそうです。
このように海自と中国海軍は決して「にらみ合っている」わけではなく、防衛交流を、
例えば艦艇訪問や、人的交流などを通じて推し進めているのです。
・・・・ちょっと、ほっとしますね。
ただ、海軍同士が共感を持つのは、これ全世界基準、ワールドスタンダード。
その共感を持った海軍同士もお互いを敵として戦わなければならないのが戦争であるわけで。
現在、国会で紛糾している魚釣島への上陸問題。
相変わらずビデオ映像を見せろ見せないをやっています。
結局以前の中国船衝突のビデオも全部公開されていないまま、今回のことが起こったわけですが、
みなさん、この席で、元海幕長はびっくりすることをおっしゃっていましたよ。
本日タイトルの「漁船衝突事件の真実」です。
映像が全部公開されないことで、当時いろんな噂が乱れ飛びました。
「海保の職員が海に突き落とされた」
「実は怪我をして死亡したが、隠匿されている」
「あれは漁船だが、乗っていたのは人民軍の兵士だ」
隠されれば隠されるほど、人々が最悪の事態を想像するのは当然です。
講演会の後、食事のテーブルで、その話が出ました。
「あれはですね」
元海幕長がこの話を始めたとき、テーブルの全員が(エリス中尉の息子除く)
息を飲むようにして注目しました。
「ただの漁民だったんです」
いやだから、ただの漁民が中国政府の意を受けて領海侵犯したんでしょ?
漁政がそういった漁民に領海内で漁をさせて、実効支配化につなげるため、保護している、
そういった船のひとつってことじゃなかったんですか?
ところが、次の元海幕長の言葉は、衝撃的でした。
「わたしは海保の人間から直接聞きましたが、あの船長は、
酔っぱらっていたんです」
酔っぱらってね。はいはい・・・・・って、そ、そうだったんですか?
「船に乗り込んだとき、船長は酔っぱらって立てない状態だったそうです」
酔っ払い運転ですか。そりゃ一発で免許停止ですね。って話じゃないのか。
しかし、だとすると、中国が日本と密約まで結んでビデオを公開させなかった理由は、
我々が思っていたのとまったく逆の意味になってはしまいませんかね?
政治的、戦略的な意を受けた、いわば特攻作戦であったからそれが知られたらまずい、ではなく、
単に酔っぱらって領海に入りこみ、漁をしているうちに海保に見つかり、
テンパって操舵しているうちにぶつかっていってしまった、と。
これは、かっこ悪い。
面子というのが中国語であることからもわかるように、中国人は面子を重んじます。
「中国側としても真相を知られたくなかったのでしょう」
それなら、Vサインで帰国したものの、現在船長は軟禁状態で、人との接触を禁じられている
その理由もよくわかります。
「いろいろしゃべられると、中国は困ってしまうからでしょう・・・・体面的に」
なんだかひざの裏を後ろからカックンされたような気分になるオチですが、
ともあれ、海保の職員が海に落とされたり怪我をしたり、これは全くのデマであったということで、
よかったよかった(棒)
続きます。