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ミサイル搭載巡洋艦「リトルロック」最終回

2025-07-12 | 軍艦

前回終わるかと思ったら、「ホーリーストーニング」で引っ掛かり?
またしても終わり損ねた「リトルロック」シリーズですが、
さすがに今日は最終回にしなければいけないと思います。



さて、この廊下を歩いてきたところに、こんな写真がありました。


ウィリアム・マーティン海軍中将

アメリカ第6艦隊司令官マーティン中将は、1968年、
この場所でスペインのバレンシア地方軍総督を接遇した。

この期間の軍総督が誰だったかは不明だが、その地位は、
統治下にある領土における国家元首または政府を代表する人物が務めていた。


「この場所」というのは廊下を曲がったところのこと。
これらのことを調べてみました。


マーティン、ウィリアム I.、海軍中将(退役)(1910–1996)

まず、写真で「正体不明の」イタリア海軍提督と握手をしているのは、
第6艦隊第16代司令官だったウィリアム・マーティン中将です。

アメリカ海軍第6艦隊(Sixth Fleet)

は、主に地中海・大西洋の東半部を担当範囲とし、
地中海地域および大西洋の東半分の警備、
ヨーロッパ及びアフリカ地域への戦力の提供などを任務としており、
北大西洋条約機構 (NATO) 部隊としての任務を請け負っています。

マーティン中将の任期は1967年から1968年までで、
「リトルロック」は同時期第六艦隊の旗艦として地中海に展開していました。

1967年、イタリアのガエタを航行する「リトルロック」

第6艦隊観閲式におけるUSS「リトルロック」

1968年6月25日、この日は第6艦隊が地中海に展開して20周年にあたり、
それを記念してフリートレビュー(観閲式)が行われました。

この写真は観閲式において、艦隊旗艦であった誘導ミサイル巡洋艦、
USS「リトルロック」CLG 4が、航空母艦USS「インディペンデンス」
(CVA-62)USS「シャングリラ」(CVA-38)の前を通過するところ。

これだけでは少しわかりにくいのですが、観艦式は、
観閲を行う者が停泊または移動する艦隊を観閲するので、
観閲部隊の先頭艦を旗艦「リトルロック」が務め、そこに
観閲官(マーティン中将)が乗っていた可能性が高いと思います。

ちなみに「シャングリラ」の前方を航行しているのは、
ミサイル巡洋艦USS「コロンバス」(CG-12)です。

で、最初の写真ですが、わたしは、この写真のヴァレンシア総督は、
観艦式の際、現地からのゲストとして「リトルロック」に座乗し、
マーティン司令とともに観閲を行ったのではないかと思うわけです。

■ 「リトルロック」のアンカーキャプスタン



ところで、この写真ですが、「リトルロック」の甲板の
アンカーチェーンが色分けされて見易く展示されていますね。



艦上でのキャンプで、艦の仕組みを説明するときのために、
左舷側と右舷側装備を緑と赤に色分けしてあります。
これはもちろんあくまで展示艦としての効果です。

緑のSTBDはスターボード=右舷、
赤のPORT=ポート=左舷です。

ちなみに、右舷と左舷は、進行方向に向かって右左となります。

まず、ここに見えている装備を説明しますと、
アンカーチェーンが巻き付いている山笠型屋根は

キャプスタン(Capstan)

と言います。
これを「ヴァーティカル・ウィンドラス」と呼ぶ説もありますが、
「リトルロック」中の人の説明によると、これらは互換性のある言葉であり、
「リトルロック」にあるのはキャプスタンと呼ぶそうです。

海軍では、錨鎖を巻き上げるために2種類のウィンチが採用されており、
それは「リトルロック」の垂直軸(ヴァーティカルシャフト)型と、
水平軸(ホリゾンタルシャフト)型です。

ほとんどの戦闘艦で採用されているのがヴァーティカルタイプで、
中の人の話によると、垂直軸の上にあるから、これを
「キャプスタン」と呼ぶのだということでした。

キャプスタン=上下垂直軸
ウィンドラス=水平軸

で動くと考えるそうです。

そして「stbd」「PORT」と書かれたパイプのようなものは、
下の階にチェーンを下すor下の階から引き揚げるホースパイプです。



赤で囲んだ部分を「デビルクロー」(俗称)と言い、
(正式には”ダブルクロー”)ウィンドラスのように
チェーンを固定して動かないようにするための部品です。

デビルクローのこちら側に白に両側が挟まれた赤い鎖が見えますが、これを

ファゾム・リング Fathom Ring

といいます。
ファソムは「尋」といい、推進の測定単位で1ファソムは6フィート、
1.8288メートルに相当します。

錨からこのリングまでの深さは15ファソム、つまり、
大体90フィート(27メートル)なので、ここにそれがあるというのは
それだけの長さのチェーンが降ろされたことを表します。


鎖は黄色い網で覆われたホースパイプ(Hawspipes)につながっています。
現役時代にはもちろんこのような覆いはありません。

この錨孔はアンカーにつながっていて、上げ下げが行われます。
アンカーが引き揚げられると、チェーンはチェーンロッカーに収納されます。


甲板の一階下のセカンドデッキに降りて、
チェーンを巻き取る機構を見せてくれる公式のビデオがありました。
これがキャプスタンの下部です。



そしてこれがウィンドラスと言ってます。

How Does That Work?: USS Little Rock, The Anchor Windlass and Capstan


さらにその一階下の「チェーンハウス」。
ハッチを開けるとそこにあり、今はもちろん何もありません。

ビデオでも言っていますが、チェーン関係の仕事は作動のたびに
鉄粉が舞い散り、それを吸い込むことになるので、マスク必須。
とにかく「ダーティージョブ」だったそうです。


「リトルロック」は現在も固定されていないので、
舫で係留された状態で展示されています。

手前にあるハッチはなんでしょうか。
索具を収納する場所繋がっているところかな?


この舫の結び方もあまり他では見られないような気が・・。

■ スエズ運河復興任務


これは、スエズ運河航行中の「リトルロック」CG-4。
当時のキャプスタンと現在の違いをご覧ください。

現役時代はホースパイプに現在のような「パイプ」はなく、
もちろん塗装なども全くなかったことがよくわかります。

キャプスタンの向こうに乗組員たちが座っていたり、
艦橋の上にも任務モードではない士官たちが見えますが、
これは、スエズ運河航行という特別な状態のため、
甲板で外を見ることを許されていたのかなと。

このとき、なぜ「リトルロック」がスエズ運河を航行したかというと、
以下の理由があります。

1967年のアラブ・イスラエル戦争によって閉鎖されたスエズ運河に対し、
1974年4月、アメリカは、運河の爆発物と沈没船の除去支援を
エジプト政府と合意しました。

正確には

Nimbus Star・・・機雷および爆発物の除去
Nimbus Moon・・・陸上および海面下の海軍爆発物の除去


アメリカはNimbus StarとNimbus Moonを実施し、
民間のサルベージ請負業者が沈没船の除去を行いました。

このプロジェクトを行ったのが第6艦隊のタスクフォース65です。

その結果、運河の再開が可能になり、1975年6月5日、
第6艦隊旗艦の「リトルロック」も開通記念航行に出席しました。

その日、21発の礼砲が鳴り響く中、7隻の船団がスエズ運河を南下して
イスマイリアまで5時間の航海を行い、運河の公式な再開通を祝いました。

世界の海洋国家、中東、そして何よりもエジプトにとって、
これは歴史的な出来事でした。


■ 「リトルロック」事故写真集

その生涯を通して大きな事故なく任務を終えた「リトルロック」ですが、
あわやという事故、軽微だけれど外国艦との衝突事故を経験しています。

それがUSS「サラトガ」CV-60との超ニアミスです。
1967年の「5月か6月ごろ」と日付が明確でない当たりがなんだかですが。

結論から言うと、進路変更の命令に伝達ミスがあって、
「リトルロック」が「サラトガ」の艦首前を横切ったと言う事故です。

この直前まで「リトルロック」と空母は一緒に航行していました。
事故直前、「リトルロック」は「サラ」の左舷を航行しています。

この後、「サラ」は右舷側に転回するつもりだと通信して来たので、
「リトルロック」はその外側に添って航行すべく、速度を上げました。

ところが「サラトガ」は左に転回して来たのです。

つまり、右側に舵を切った「リトルロック」に向かって来る形です。
これは、何らかの伝達ミスであるとされています。


近づいてくる「サラトガ」の艦首

このことに気づいた「リトルロック」は、速度を上げて、
空母の艦首先をすり抜けようとして、右に舵を切りましたが、
ところがどっこい、空母の方も速度を上げていたのです。


「サラトガ」の左舷側から人が避難し始める

艦長はここで「HARD RIGHT RUDDER」と命令しました。
「リトルロック」は左に転回しようとする空母の艦首を、
右に転回しながら全速力ですり抜けることを選択したのです。
総員が空母の艦首を通過することを、息を呑みながら祈りました。

(ちなみに艦内にいた人は、何が起こっているか全くわからず、
ただ手近なものにしがみついていたそうです)



間一髪!!
「リトルロック」はゴミを捨てるためのブームと、
水温を測るための道具を上げ下げするための道具を失っただけでした。
事柄の大きさから言うと、ほぼ無傷です。

おそらくすれ違うところの写真を撮っている人。



衝突を髪の毛一本で回避してすれ違う「リトルロック」と「サラトガ」。
手前の水兵さんが頭を抱えてしまっているのも宜なるかな。
怖かっただろうなあ・・・。



1970年6月13日、NATOの演習に向かう「リトルロック」は、
ギリシャ海軍に貸与された「フレッチャー」型駆逐艦、
「ロンチ」D -56が艦首を横切ったのち同艦と衝突。

「サラトガ」の事故と同じく、このときもギリシャ艦が急に旋回し、
左側から「リトルロック」の前を横切ったことが原因でした。


その結果、「ロンチ」はこうなり、


「リトルロック」はこうなりました。

「リトルロック」の修理はマルタで行われたということです。


と言うわけで、「リトルロック」から下艦しました。
かつてそこに衝突の痕があったとは思えないほど、
現在の「リトルロック」は静かにその艦首をエリー湖に休めています。



「リトルロック」が得たユニット賞は、

キャンペーンメダル
海軍遠征勲章()
コマンド優秀賞
戦闘効率賞(白いE)


などとなります。

「リトルロック」シリーズ終わり






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1 Comments(10/1 コメント投稿終了予定)

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揚錨機 (Unknown)
2025-07-14 10:48:28
ウインドラス。キャプスタン。海上自衛隊では揚錨機と呼んでいます。リトルロックのものは、錨を巻き上げるだけの仕様になっていますが、海上自衛隊のものは、上半分がもやいの巻き取り用ウインチで、下半分が揚錨機になっており、両方を同時に使うことはないので、上下が分離出来、どちらも同じモーターで回せる構造になっています。下記のリンクで、一般公開中の写真がご覧になれます。
https://www7b.biglobe.ne.jp/~haganetoumi/2018makinami.html

リトルロックのものは巻き上げ機と駆動用モーターが別区画にあって、非常に大掛かりになっています。船が大きくなればなる程、大きな把駐力(船を繋ぎ止める力=錨と投入した錨鎖全体の重さ)が必要になるので、より大きな巻き上げ力が必要になります。リトルロックのサイズだと、自衛隊のようにモーター一体型だと、力不足なのかもしれません。

「デビルクロー」は、自衛隊ではスリップと呼んでいます。投錨の前は、一本だけをこの写真の状態にして、他のものはすべて開放し、錨の全重量が一個のスリップに掛った状態にして、艦長の「錨入れ」の号令で、スリップを繋ぎ止めている金具を金属ハンマーで叩いてスリップを開放すると、ものすごい勢いで錨と錨鎖が出て行きます。この時、錨鎖の錆が凄まじい勢いで揚錨機の周辺に飛び散りますが、そこが「Dirty job」と言われているところです。

抜錨(巻き上げ)の時には、錨鎖庫内で錨鎖をきちんとさばいておかないと、次の投錨時にきちんと錨鎖が出て来ません。錨鎖庫内の作業はきついので、新入りの人が任されることが多いのですが、上陸機会を増やしてもらえる等のご褒美もあります。
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