ピカビア通信

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池部良 早春

2011年03月29日 | 映画

 

またまたBSの話。「池部良」のエッセイ(文章が上手いのには定評がある)を元にしたドキュメンタリーだ。内容は、自身と監督、女優との関係を中心に時代を追っていくというもの。中でも興味のあったのは「小津安二郎」との関係。それが「早春」である。それまで東宝中心で出演していた池辺良の、初の松竹作品だ。

すでに人気スターであった池部良に、小津監督は、東宝的演技をしないようにと最初に釘を刺した。一般的な名演技と言うものを嫌う小津ならではの挨拶代わりの一言であった(と、これは私の想像)。台詞に対しては一言一句正確にという監督の要求も、初めての経験だったらしい。そして、ちょっとした動きに対する厳格なまでの要求は、本人をかなり苦しめたらしい。一つ一つの心の動きを積み上げて一つの作品にするという監督の考え方においては、細部のちょっとした動きも他と同じように重要なのだ。小津様式の映画においては、細部が全体でもあるのだ。台詞はむしろ棒読みだし(早春に出ている岸恵子の証言)、所謂リアリズムからは遠い小津の世界だが、ショットは力強い。そのストイックな映画作りは、ブレッソンを思い起こさせる。

池部良ではなく小津安二郎の話になってしまったが、個人的には「早春」の池部良は良く記憶に残っている。割とどれがどれだか分からなくなってしまう小津映画の中では珍しいことだ。素材としての良さは、演技では補えないということか。原節子あたりもたまに大根と言われたりするが、重要なのは素材の良さである。名演技イコール良い役者ではない。

今、今年初の蝶を目撃。越冬した「クジャクチョウ」のようだった。

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