日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ11 ~ 管理者教育

2007-11-01 | 経営
コンサル先M社のK店長が、13日間の合宿管理者研修から帰ってきました。

彼が行った研修は、富士山麓の合宿所で行われるいわゆる「地獄の特訓」です。
M社は急激な規模拡大で、人材育成が追いつかず、管理者の致命的なまでの管理者意識の低さが、今後企業統治を危うくすると私の目には映っていました。社長と議論の末、とにかく管理者の即効性のある研修派遣が必要との結論に達し、以前他社のボンクラ二代目を見事に再生させた「地獄の特訓」が思いあたったのでした。

「地獄の特訓」は、マスコミでもたびたび、おもしろおかしく取り上げられているので、ご存知の方も多いかもしれません。駅前での大声歌唱(=写真)や40キロ夜間歩行などのシーンばかりが紹介され、どうもキワモノ的扱いを受けているように思いますが、実際は責任感、指導的立場の理解など管理者意識の醸成に向け実によく練られたプログラムなのです。
かく言う私も本特訓実施機関の担当者の話を聞くまでは、「時代錯誤に近い軍隊調訓練」ぐらいにしか思っていませんでした。

管理者に必要な規律意識、責任、指示命令、部下への態度などを身につけるための14の課題を、20代~50代入り混じった10人程度のグループ形式で協力やコミュニケーションを学びつつ、13日間でひとつひとつクリアしていくという本特訓。規定日数内にクリアできなければ、できるまで特訓は延長されます(13日で卒業できるのは約2~3割だそうです)。携帯電話は預け、新聞、TVもなく外界とは一切遮断された世界ですべてを集中させて自己改革を迫るのです。

K店長は当初、「私行っても、きっと全然変わらないと思います。会社にお金を無駄に使わせることになったらごめんなさい」などと言っておりました。彼の問題点は、一言で言って責任感の欠如。時間にルーズ、指示に対する報告怠慢、部下に嫌われたくないから命令できない…、逃げと甘えの問題行動はあげたらキリがない状態でした。

帰ってきた彼を見て驚きました。管理者としての背筋が伸びて、規律意識や受け答えの明快さはもちろん、自信の責任を踏まえ部下への指示も的確に出せるようになりました。顔つき、目つき、姿勢が一新されたのです。

「本当に特訓に行ってよかった。これまで薄々分かっていながら甘んじていた自分の欠点が、白日の下にさらされ、逃げ場のない状態に追い込まれ真剣に自分と向き合うことができました」
「悔しい涙、情けない涙、感動の涙、今までないほど沢山の涙を流し、苦労を共にした一生の友も沢山できました」

彼が特訓の一環で、毎日社長宛て郵送で送付した報告書も見せてもらいました。そこからは、彼が日に日にたくましい管理者になっていく過程が手に取るようによく分かり、実に感動的でもありました。
ちなみに彼は、特訓中盤から自覚をもって取り組む姿勢を手に入れ、見事72人中7番目の成績で、所定の13日間で卒業できたそうです。

中小企業に勤める者にとっては、常に逃げ場が沢山ある甘い管理の下で、長年なかなか仕事上の大きな試練と向き合うことがありません。「地獄の特訓」は、管理者になる前に必要な、そんな経験を擬似的に与えてくれる研修なのだと思います。

私は常々、中小企業では担当者の研修はOJTを中心とした社内でいいが、管理者の研修は外部機関にゆだねるべきと言っています。
担当者研修は、会社の組織風土も含めてその会社固有の独自感を身につけさせることも大切です。同時に、新人研修などは特にそうですが、教える側を社内の人間がつとめることで、ある種の緊張感が社内に生まれ先輩たちの緩みがちな姿勢に警鐘を鳴らす役割もあるのです。

一方の管理者研修の社内実施が難しいのは、そもそも管理を十分に教えられる者が社内にはまずいないであろうことがあります。さらに、管理者の意識改革は座学や書籍で学んでも、理論的には分かるものの実感が得られず“右から左に”になりやすく身に付きにくいのです。
それと私自身の経験から言っても、管理者研修は基本知識や業務知識を学ぶもののとは違うので、例え役員クラスが偉そうに管理者の心得を説いたところで、心のどこかで「あんた偉そうに言ってるけど、そんなに立派だったかい?」的なものがあって、すんなりは入っていかないものです(そんなヒネクレは、私だけかもしれませんが…)。

「地獄の特訓」が決して万能とは思いませんが、管理者育成でお悩みの経営者の方々には、検討の土俵に上げる価値は十分にあるとだけ申し上げておきます。

M社はK店長の研修後の変貌を受けて、全管理者を順次派遣することとなりました。

※株式会社社員教育研究所 管理者養成学校 管理者養成基礎コース
http://www.shainkyouiku.jp/basic/


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