日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

サントリーの“失敗”とオーナー企業にありがちな「業務私物化」文化

2013-01-22 | 経営
サントリーが昨年鳴り物入りで発売したロックバンド、ローリング・ストーンズとのタイアップ商品「ストーンズバー」の取り扱いを終了すると発表しました。そもそも期間限定商品ではなく、「複数年にわたり新商品も出す予定」と公言していただけに、発売から1年持たずでの終了はかなり異例とも言える展開であります。

サントリーと言えばマーケティング上手という点で日本屈指の企業でもありますが、ことこの商品に関しては発売当初からどうもシックリ来ていない印象を受けておりました。ローリング・ストーンズと言えば今年デビュー50周年を迎えるロック・レジェンドであり、幅広いファン層を得ているとはいえ、彼らのライブに足を運んでも分かるとおり、そのファンの中心は40~60代。それでありながら、「炭酸入りで柑橘系の香りをつけたハイボールやエナジー系の、アルコール度数を4~5%とした発泡性の酒」ってどうなんですか、という感じはあったわけです。

同社宣伝部長氏は昨春商品発売を前にしたインタビューで、「若い人のビール離れ、酒離れに歯止めをかけるため、(ストーンズの)マークを商品開発に生かそうと考えた。『団塊の世代』のロックファンには、新しい軽めの酒として楽しんでほしい」と話していましたが、団塊と若年を両にらみしたターゲット戦略はおよそマーケティング上手の企業の発想ではないなと違和感を覚えたものです。若者のビール離れにストップをかけるのにストーンズ?団塊の世代を含むストーンズのコア層であるオヤジ世代を捕まえるのに「シトラスの香りがするビール飲料」?どっちつかずのおかしなマーケット戦略が、商品のターゲット戦略をいたずらにあやふやにしてしまったのだと思います。このおかしな戦略に至った原因はどこにあったのか、気になるところです。

実は昨春、この商品の発売がメディアで報じられると、我々熊谷のHOTな食の街おこし「くま辛」のメンバー内で、ストーンズのベロマークが辛いものを食べたときの口の反応ともとれるデザインなので、ためしにタイアップの可能性を打診してみてはどうかという話が持ちあがりました。というのも、その前に別のビールメーカーが出している夏向けのカクテル飲料にタイアップを持ちかけたところ、とんとん拍子に話が進み当該カクテルの「くま辛」加盟店への無償配布やタイアップポスターの無償提供などが実現していたからです。

この手のタイアップは、メーカーにとっては安価な宣広費で取引のない飲食店に入り込む絶好のチャンスであり、どう組むかは別としても基本的にはウエルカムなはずなのです。そこで期待感をもってサントリー営業担当氏にタイアップの打診をしたのですが、結果は意外な反応でした。「いやー、これプッシュじゃないんですよ。本社の“筋金入りのストーンズ狂部長”の肝いりで実現したという特殊な商品なものですから。他の話でお願いします」との即答。この商品の社内における異常な位置づけを感じさせられる出来事でもありました。

おかしなマーケティング戦略に加えて地元におけるこの出来事から推測されることは、言い方としてやや誤解を招くかもしれませんが私的に言わせていただければ、今回の「ストーンズバー」は商品開発段階において「業務の私物化」があったのではないか、そのことが商品の失敗を招いたのではないか、ということになるのです。誤解を招くかもと申し上げたのは、「私物化」という言葉が刺激過ぎる嫌いがあるからなのですが、コンプライアンス違反とは別問題ですのでその点は誤解なきよう。

すなわち、ここで言う「私物化」とは、オーナー企業にありがちなオーナーおよび社内実力者の“一存”による金融投資や新規事業投資です。金融投資に関して言うなら、投資コンサルタント等の指南による株式投資や為替投資、あるいは個人的な知り合い企業に対する出資などがこれにあたります。古くは、バブル期に花盛りだったいわゆる“財テクブーム”に乗せられた類の“私物化”投資で、これで大きな穴をあけ企業を傾かせた例は山ほどありました。

新規事業投資についても“私物化”投資は、株式等金融面での“私物化”投資となんら変わりません。要するに、オーナーや実力者の個人的人間関係や個人的趣味の世界への事業投資に他ならないのです。代表的な例を挙げるなら、創業社長でありながら自己の競馬趣味への傾倒から「フサイチ」の冠名を付した競走馬所有を会社の事業として注力したために、メイテック社社長解任の憂き目に会った関口房朗氏が挙げられるでしょう。オーナー企業、特に上意下達文化が強いケースでは、社長に限らず役員はじめ上位管理職の趣味や嗜好優先の事業投資がまかりとおるケースがままあるのです。

さて、サントリーの「ストーンズバー」はどうか。私は、マーケティング戦略のかなり初歩的なミスマッチ、地元での営業担当のこの商品に対するいささかシラけた対応を見る限り、“筋金入りのストーンズ狂部長”の“私物化事業投資”である可能性はかなり高いのではないかと思っています。どうみてもサントリーらしからぬおかしなマーケティング戦略は、ストーンズのメイン支持層である40代以降をターゲットに絞ってもビールの嗜好がすでに固まっているここに割って入るという成功の見通しは低く、無理に若者層を並列メインターゲットに抱き合わせ無理無理商品化にこぎつけたのではないかと、推測されるところでもあるからです。

「ストーンズバー」のニュースと時同じくして、一部ではサントリーは業務一層の国際化を視野に入れサントリーHDを非上場のまま子会サントリー食品を上場すると情報も報じられています。これには専門家から、「サントリー食品が、親会社HDの大株主である創業家の意向ばかりを重視し、一般株主との「利益相反」が起こる可能性」を指摘する声が上がっています。これはまさしく同社の企業文化に鑑みて「業務の私物化」を懸念する声に他なりません。「サントリーバー」の失敗と子会社の上場。このふたつのニュースから示唆されるものは、サントリーが世界の舞台で一層の飛躍を遂げるためには、同社を支えてきた「やってみなはれ」の企業文化から「業務の私物化」を徹底して取り除くことではないかと感じる次第です。

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