日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

みずほ銀行が賃上げよりも前にすべきこと

2014-10-03 | 経営
メガバンクのみずほ銀行が、この春の業績の過去最高益の更新を受けて労働組合の要求もないまま給与を一律0.5%上げることを決めたそうです。年度の途中で給与を上げるというのは極めて異例です。報道によれば、業績好調のこの機会に巨額の赤字を計上した12年前に大幅削減した給与を戻し、新卒採用に向けて競合メガバンクとの給与面での不利を解消するのが狙い、とか言われております。

一般的に利益が上がったから給与を上げますという他社の話によそ者が文句を言う筋合いはないのですが、このみずほ銀行の賃上げに関しては異論大いにありであります。皆さん、お忘れではないでしょうか。みずほ銀行は東京電力の準メインバンクで、同社に対して現在も約7000億円の融資残高があるのです。金利を仮に1%としても、年間70億円が東電から支払われているのです。

先日、川口市の鋳物工場の経営者にお話をうかがう機会がありましたが、嘆いておりました。「東京電力を政府が生きながらえさせたおかげで、電気料が引き上げられてどうにもならない。早く何とかしてくれ!」と。鋳物製造は膨大な電気を消費する産業です。彼の話によれば、電気料金は福島の原発事故前に比べ17%も上がってしまったそうで、これは当然製品価格にはねるわけで、このため仕事が電気料金が比較的安定している九州の企業にどんどん取って替わられているのだそうです。

まさしく死活問題です。思い出してください。なぜ東京電力は料金値上げをすることになったのか。政府の命によって大株主である大企業と取引銀行を守るための東電再生計画を策定するに際し、東電に黒字計画を描かせるための収入確保として電気料金の値上げという納得し難い利用者負担を強いたのです。

一言で言って、理不尽極まりない利用者責任押し付けの東電再生策。本来であれば、まず株主責任を、そして金融機関の貸し手責任を優先して追及すべきところが、政府と東電の大株主である大手企業と融資のお主な出し手であるメガバンクとの癒着関係により彼らの利益を優先し、何の罪もない東京電力の利用者にその再生に向けた負担を強いるという、まれにみる不条理なやり方をしてきたのです。

先の鋳物工場経営者は、「ふざけるなと言いたい。東電にも、その大株主企業にも、取引銀行にもです」と怒りが収まることはありません。しかしそんな状況をすっかり忘れたかのような、今回のみずほ銀行のとぼけた賃上げ報道。関東圏で電気料金の値上げに苦しむ企業の皆さんは、同じ怒りの思いでいるに違いありません。

賃上げをする余裕があるのなら、率先して貸し手責任を全うすべく債権放棄を申し出、その分の金利負担を軽くすることで利用者負担を少しでも緩和することに資するべきではないでしょうか。たまたま今回みずほ銀行が社員の賃上げという寝ぼけたことを発表したので焦点をあてたわけですが、他のメガバンクとて好決算は同じであり、過去最高益などと浮かれていないでこの機会にこそ東電に対する責任を全うすべきという立場にあるのは言わずもがなです。

マスコミもなぜこの点を突っ込み騒がないのか、健忘症がひどすぎませんか。あれだけ政府方針により東電を生きながらえさせた時には、株主責任、貸し手責任と騒いでいたのに、のど元過ぎればなんとやら。今回のみずほ銀行の賃上げを批判的視点皆無の完全容認姿勢で報道をしているという、マスコミの脳天気さ加減にも呆れてしまいます。

組合からも要求されていないみずほ銀行の今回の賃上げは、東電の株主でありかつ主要取引銀行であるという立場から考えて、公共性を帯びた事業体である銀行の企業モラルとして許されざることであると力を込めて訴えたいと思います。政府は理不尽な電気料金値上げに苦しむ中小企業の実情をもっとしっかりと把握し、自己中心的にアベノミクス効果を謳歌する銀行に対してその社会的責任の観点から襟を正すべき厳しい指導をするべきなのではないでしょうか。みずほ銀行の非常識な行動を見るに、元銀行に籍をおいたひとりの人間として恥ずかしい限りであります。

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