日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営陣が甘く見る「阪急阪神ホテルズ」の抜き差しならぬ“病状”

2013-10-24 | 経営
またまた出ました、名門企業におけるコンプライアンス違反事例。今度は阪急阪神ホテルズです。実際は異なる食材を使っていながらの偽装メニュー表示を一流ホテルがおこなっていたと言うのですから、電話やらWEBやらで同社に対する非難は大炎上。現状収まる気配なしという状況のようです。

同ホテルが偽装していたメニューは、「レッドキャビア」「九条ネギ」「霧島ポーク」「信州そば」「手ごね」「鮮魚」など47種類にも上ると言います。しかも遡り調査が可能な06年からずっと続いていたというですから、実際にはいつから始まっていたのか皆目見当もつかない状況にあるようです。

この状況をどう見るかですが、謝罪会見に臨んだ総務人事部長は、「アピールポイントを強調しようとしてメニューを作り、誤った表示をした。意図的、明確な意思を持っていない」と話しています。「悪意」はなかったと言いたいのでしょうが、私は「悪意」があった方がよっぽど救われていると思いました。なぜなら、「悪意」なく「意図的、明確な意思を持たず」、長年にわたって複数の施設でごく自然な形で50にも及ぼうと言う多数の偽装メニューづくりがおこなわれていたことは、この偽装自体が同社の「文化」であるということを示す以外の何モノでもないからです。

誰かの指示や特定部署の思惑による「悪意」が原因なら、その「悪意」を除き「悪意」の再発防止をすれば問題の解決に向けた道筋は作ることが可能でしょう。しかし、「悪意」なく「意図的、明確な意思を持たず」に、同時多発的に偽装が起きたと言う原因不明状態にあるのだとするなら、解決策は途方もなく遠いところにあると言わざるを得ないのです。

組織における「文化」や「風土」というものは、それを変えようと試みるのなら、まずはいつから、なぜそれが根付いてしまったのかを検証する必要があります。歴史が長すぎてその検証が不可能であるとあるとするならば、外圧により風土を一変させるようなショック療法以外に打つ手はありません。最も分かりやすいやり方は、トップの外部招へいと社外役員登用を含めた全役員の刷新です。これは破綻処理に準ずるやり方と言っていいでしょう。

日航の再建に際して同社が稲盛和夫氏を会長として招へいし、氏のフィロソフィーの考え方を全幹部に刷り込むことで同社を破綻に導いた官僚的組織風土を葬り去ったことが、近年の組織風土改革の成功実例として挙げることができるでしょう。いずれにしまししても、同社が発表しているような「役員や社員の処分」といった甘い対応で粛清されるような簡単な問題ではないのです。

みずほ銀行の事件の際もそうでしたが、どうも名門企業や大手企業は組織風土に根ざしたコンプライアンス違反事例を軽く見過ぎる傾向があります。軽く見ればどうなるのかと言えば、組織風土は根本の部分で改まることなく、必ずやまた同じ根っこによる不祥事が再発するのです。みずほ銀行の場合には、統合前の第一勧業銀行で起きた総会屋利益供与事件の教訓が結局活かされることなく、同じ反社会的勢力に対する甘い対応が今回の事件に結びついたわけです。阪急阪神ホテルズにおいても、今回の件を組織の文化や風土に根差した問題として捉えないのなら、必ずやまた同じ根っこに起因する不祥事が起きると私は確信しています。

今回の問題でもまた、みずほ銀行の件と同じく事件発覚に際しての謝罪会見にトップが姿を見せていません。いかにコンプライアンスを舐めているのかがよく分かる同社の対応です。もっと言えばサービス業として多くのお客さまに迷惑をかけていながら、いかに顧客をなめて切っているのかを表すような愚行であるとも思います。これもまた、同社の文化、風土のなせる業に相違ないのです。

名門企業の文化、風土に起因する不祥事は、新進の企業が起こす不祥事以上にその傷が根深く完治しにくいのです。今回の不祥事でまたも名門故に思い切ったメスを入れることができずに、不祥事再発への道を歩んでしまうのか。私は企業のお手伝いをする立場の人間として、阪急阪神ホテルズが名門ではなく“迷門”になり下がってしまっていることに早く気が付き、目先の「処分」にとどまらない抜本的な風土改革に着手されんことを切に望みます。

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