日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

長嶋さんと景気回復

2013-05-09 | 経営
長嶋茂雄さんのことを書いておきたいと思います。5月5日に東京ドームでおこなわれた国民栄誉賞の授与式とセレモニーは、現場であるいはテレビを通じて多くの人が感動を覚えた国民的イベントであったと思います。

やっぱり長嶋さんは特別だと、改めて感じさせられた瞬間でもありました。ミスター・プロ野球であった長嶋さんが国民栄誉賞を授与されるその姿に、懸命なリハビリから回復しまた今皆を湧かせる天性のパフォーマーの姿に、涙した人も多かったのではないでしょうか。あの感動や涙は何であったのか。私は「昭和の心」に違いないと思いました。明るく、楽しく、夢を感じさせる昭和。記録や具体的な性能を求めるのではない昭和。何事にも前向きだった昭和。そんな戦後昭和の象徴が長嶋さんだったのではないでしょうか。

長嶋さんは「記録の人」じゃない、「記憶の人」だとよく言われます。いつでも見る人を楽しませてくれるそんな人。ホームランだって本数は関係ない、ここぞという時に打ってくれる、まさかというところで打ってくれる、そんな人だからこそ人気抜群だったわけでしょう。好対照なのは王さん。もちろんここぞという時にも打ってはいるのでしょうが、派手なパフォーマンスを得意とするタイプでもなく、どちらが良いか悪いかではありませんがやはり記録の人。長嶋さんは、5日の授与式も間違いなく長く語り継がれるであろうものにしてくれました。持って生まれた国民的ヒーローなのです。

長嶋さんは、間違いなく「昭和」特に日本が元気だった高度成長期を象徴する人です。現場で、テレビを通じて、今改めて長嶋さんの元気な姿を見て、昔の雄姿を思い出して、つくづく長嶋さんみたいな存在が今の時代の日本に欠けているとは思わせられるわけなのです。今はなきものものだからこそなお、余計に寂しさを感じ、あーあの時代は良かったなと感慨深く思わされたりもするわけです。

企業もそうでした。例えばソニー。明るかったじゃないですか。もちろん技術力はありましたが、性能一辺倒で名を馳せたわけではありませんでした。トランジスタ・ラジオは、据え置きが当たり前だったラジオを外に持ち出せるという楽しさを生み出した画期的な製品でした。ウォークマンは外を歩きながら好きな音楽が聞けるという、これまた画期的な楽しさにあふれた製品でありました。娯楽も仕事も、明るく、楽しく、夢を感じさせる何かを皆が享受していた、そんな「昭和の心」あふれていたと思うのです。

いつからでしょうか、記録や性能に追い立てられるようになり、明るく、楽しく、夢を感じさせる、「昭和の心」がどこかへ消えてしまいました。実体なく浮かれているのは良くないことだと、バブル経済の崩壊以降そういったものは「悪」とされ、日本は次第にギスギスし、実態の見える記録や性能を追い求めることでどんどん自分の首を絞めていく。結果、デフレ経済が蔓延し、夢を語ることをやめたソニーを筆頭に家電メーカー各社は、軒並み国際化の荒波に飲まれて輝きを失ってしまったのでした

昨日は自動車産業がV字回復を果たしたという明るいニュースが飛び込んできましたが、これはまだまだ景気回復ではなく単なる円安の恩恵に他なりません。アベノミクス効果で本格的な景気回復を願う日本が「復活」を本物にするために必要なことは、国民一人ひとり、あらゆる組織のひとつひとつが、明るく、楽しく、夢を感じさせる「昭和の心」を思い出す事なのではないのかと、思うのです。長嶋さんはそれを皆に思い出させるための使者ではないのかなとさえ思えます。もちろん、安部首相の思惑がそこまであったとしたらたいしたものですが、そうは思いません。あくまで、流れです。流れがそうさせたのだと。

流れの話で申し上げるなら、明るく、楽しく、夢を感じさせるためには、2020年東京オリンピックの誘致も有効でしょう(猪瀬知事の失態で雲行きはかなり怪しくなりましたが)。時代や状況は64年当時とは大きく異なっていますが、今日本人が忘れている明るく、楽しく、夢を感じさせる何かを思い出させるための起爆剤として、オリンピック開催はきっと日本を元気づけてくれるに違いないと思えるのです。

国民栄誉賞にふさわしいか否かの議論に関係なく、景気回復のカギを握るこの時期における思いもかけない形での長嶋さんの登場はメッセージを確実に伝えてくれました。そのメッセージを受け取り長嶋さんに感動を覚えた世代は、まさしく日本経済をけん引する経営者世代でもあります。経営者の皆さん、長嶋さんが現役時代、監督時代を通じていつも実践していた、明るく、楽しく、夢を感じさせる「昭和の心」を胸に、景気回復に向け今こそ前向きな経済活動にまい進して欲しいと切に思うところです。

<余談>
始球式で松井くんが投げた球はインハイでした。それをなにくそと打ちにいったミスター。「内閣高め誘導(支持率)」での国民栄誉賞授与なんてクソくらえだ、楽しくなくちゃいかんのだ、というミスターのメッセージにも思えました。

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