日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“見える化”から“開物”へ。企業不祥事撲滅は能動的ガバナンスへの移行がポイント

2012-01-05 | 経営
毎年毎年、繰り返される企業不祥事。昨年も年後半にオリンパスや大王製紙といった歴史のある名門企業で、目を覆いたくなるような不祥事があったとこが相次いで明るみに出ました。これらの事件は、J-SOX法施行後の上場クラスの企業でもまだまだ内部統制が機能していない、ガバナンスがなっていない会社がたくさん存在することを示唆しています。「企業不祥事をどうやって防止するのか」は、2012年の企業経営における大きなテーマであるように思います。

米国で2000年前後に相次いだエンロンやワールドコムの事件を発端として、2002年にSOX法(サーベンス=オクスリー法)が施行されました。日本でもこれにならって2008年4月から上場企業を対象としてJ-SOX法(金融商品取引法)が適用となり、投資家保護の観点から企業に粉飾決算をさせない財務データの透明性確保を目的とした、新たな枠組みがはめ込まれました。俗に言う“見える化”は、この財務の“見える化”を発端として2006年頃からブーム的に盛り上がり、“見える化”をすれば悪いモノも可視化されて、経営改善のポイントがつかみやすくなり飛躍的に企業体質が良くなる、あるいは仮に悪いモノがあっても致命傷になる前に未然防止できるとかなどと、もてはやされました。

しかし、J-SOX法による内部統制システムを構築されているオリンパスや大王製紙でも財務を軸とした“見える化”はされていたハズなのに、いとも簡単に“飛ばし”や“不正流用”は行われていたのです(問題取引の発生がJ-SOX法以前のものであっても、その上塗り隠ぺいすら“見える化”できていなかったという、ある意味機能不全状態だったのです)。内部統制システムは何を統制していたのか、という感じではないでしょうか。この“失態”は何故か。私は、“見える化”という言葉も含め会計士が作った内部統制の仕組みと言うモノ自体への形式依存、「会計」と言う数字であらわされる結果を活用した魂の欠けた管理手法に頼った非人間的受動型管理の導入こそが、企業の本来あるべきガバナンスを危うくしているのではないかと思っています。

そもそも“見える化”とは、「見える」という至って受動的な「Can Be Seen」な状態を作り出すものであり、そのままではどうも能動的な意味合いが感じられないのです。「見える」ようになれば客観的に事実関係が明らかになり全ては解決すると言うのは、大きな誤りです。特に内部統制に代表される数字という客観性をもったもので「見える化」をはかることの意義は大きいのですが、問題はそれをどう使うのか、どのような意志を働かせるのか、その部分にマネジメントが言及しないままでは全く意味をなさないと思うのです。すなわち、多くの上場企業における内部統制は「法で定められたから、仕方なく会計士の作った仕組みで「見える」ようにした」というところにとどまっているのであり、「自ら率先して見えるようにして(=Be Able To See)活用する」という「経営の意志(=Be)」が感じられないのです。

言い換えれば、多くの会計コンサルティングはJ-SOX法施行の時期に、内部統制システムの構築には貢献したものの、マネジメントにまでは貢献しきれていなかった、そこの部分にこそ大いなる過ち発生のリスクが潜んでいるのではないかと思うのです。そして、この内部統制の考え方から派生したあらゆる「見える化」は、多くの企業での導入事例を見る限り同様に能動的な「経営の意志」が希薄で、結果的に「見えるようにはなっただけ」という状態にとどまっているケースが多いと感じています。すなわち会計士と言う数字のプロが作った管理手法の限界がそこにはあり、それを越えたマネジメントあるいはガバナンスと言った領域での、管理に関する「経営の意志」が欠如しているケースが多いのではないかと思うのです。

「意志」のない“見える化”は意味をなしません。「隠ぺい」という“悪い意志”の下ではそれは悪用すらされてしまうのです。このような考えから、オリンパスや大王製紙の不祥事を受けて、今企業が取り組むべきガバナンス強化策は「見える化」を越えた「開物」への移行であると思っています。「見える化」「可視化」と「開物」は似て非なるものです。「見える化」「可視化」はあくまで受動的な「見える」状態をつくり、そこから気がつくものを拾い上げることに過ぎません。「開物」は経営の公明正大さを明確な意志を持って「開き明らかにする」ことです。「不正がない」ことを明らかにする、「私物化」がないことを明らかにする、「保身」も含め「自己利益誘導」がないことを明らかにする、経営者が意志を持って「見える」ようにすること、「開物」こそが今企業経営者に求められている最重要ミッションであると思うのです。

我が国のJ-SOX法下での内部統制監査も、スタートから3年事業年度が経過しました。昨年後半に相次いだ名門企業での企業不祥事発覚は、施行前にあれほど大騒ぎをしたJ-SOX法が、結局は各社が法対応システムの構築に終始し会計士とシステム会社を潤わせて終わりだったということの象徴であるようにも思えます(会計士業界の制度対応コンサルティング実効性のなさは、現状の“会計士難民”大量発生にもつながっていると思います)。企業経営者が、相次ぐ企業不祥事をJ-SOX法による内部統制が形式に流れていることへの警鐘であると受け取り、今年は「見える化」から「開物」へ、受動から能動へのガバナンス姿勢の転換を積極的にはかる年にして欲しいと願っています。

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