日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

資生堂を悩ます忌まわしき「名門」体質

2013-03-12 | 経営
資生堂のトップ交代人事が発表されました。現社長の末川氏が退任し、前社長で現会長の前田氏が社長を兼務する異例の“返り咲き”人事のようです。

末川氏は2年前に、リーマンショックの影響とドラッグストアの台頭等による化粧品業界の大激変に翻弄される業界首位企業の復権に向けて、52歳の若さでトップに抜擢された期待の若手エリートでした。しかし業績の回復は思うに任せず、今期は四半期ごとに業績予想の下方修正を余儀なくされる状況下におかれ、非常に厳しい立場に立たされていたようです。

資生堂と言えば、日本においては超のつく「名門」企業であり、その傑出したブランド力がこれまで同社の発展を支えても来ました。しかし、長期化した景気低迷を受けての市場の構造変革には、「名門」企業ゆえ思い切った販売戦略の転換には至らず、復権の決定打が打ち出せぬままにジリ貧状態が続いていました。

本来であれば、前田氏からひとまわり近くも若返った末川氏へのバトンタッチは、世代交代による思い切った改革策の展開が期待されていたハズなのですが、末川氏がどうもそれが組織の力学によって思うに任せなかったようだというムードが外にも伝わってきています。

今回の異例のトップ人事を伝える日経新聞紙上に、それを示唆する気になる文面がありました。末川氏辞任の意向を受けて、社外取締役らで構成する役員指名諮問委員会が前田氏を推挙、「社長経験者の福原義春、弦間明、池田守男の3相談役に報告し了承された」と。非常に違和感を覚える書きざまであります。

経済記者と言うのは、新聞紙面において、表向きズバリは書きにくい企業の問題点指摘を、時として本来書かなくてもよいような事実関係を羅列することにより、暗に読者に対して問題点を示唆するやり方をするというケースが間々あります。同社の前田氏返り咲き人事の決定経緯を記したこのくだりはまさしくその例であると言っていいでしょう。

同社の役員指名諮問委員会というものは、会社法に則ったものではなく、委員会設置会社の取締役で構成される指名委員会を模してガバナンス公正性を外に印象付けるために作られたものであると思われます。しかしながら、「ソニー失われた20年(原田節雄著)」でも指摘されている出井ソニーの例からも分かるように、トップの意向次第で委員会設置会社の指名委員会でさえ我が国においては、社外取締役を中心に据えることでむしろトップの思惑を通しやすくし役員人事権の私物化を伸展させるものであり、法的拘束力のない資生堂の役員指名諮問委員会などは推して知るべしの感を強くします。

そして新聞記事でその後に語られる「社長経験者である三相談役の了承」の文言。私の商売柄の経験則からこの文脈を読みとるならば、三相談役の意向で末川氏は更迭され、その任命責任を負うべく前田氏が復帰したという異常な流れが想像に難くないないところです。「名門」にありがちな「旧態然」が脈々と生きている、そんな印象を強くさせられます。恐らく末川氏の悲劇は、こういった古びた“おうかがい体質”が改革の大ナタを鈍らせ、資生堂のジリ貧状態を甘受せざるを得なかったことにあるのではないかと思うのです。

資生堂の復権に向けて今やるべきは、旧態然とした「名門」体質との決別が第一であり、その最優先施策が相談役への“おうかがい体質”の一掃であると思われます。三相談役の傀儡としての前田体制が続く限り、市場激変に翻弄される「名門」資生堂の復権は難しいと言わざるを得ないでしょう。

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