日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

今やブームのMBOと投資家保護

2011-02-16 | 経営
出版社の幻冬舎が15日の臨時株主総会でMBO実施議案を議決させ、来月16日での上場廃止を決めたそうです。

このところ目立って増えたMBO案件。今年に入ってから名の通った企業だけでも、この幻冬舎にTSUTAYAのカルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)、アート引越センターなどが続々MBOによる上場廃止を表明しています。主な理由は、経営裁量自由度の確保。表向きの理由説明として、「厳しい経営環境の中、ドラスチックな戦略的転換を即断即決してより柔軟性の高い経営を実現するため」などという表現を使うのが一般的ですが、本音では「経営環境厳しい折、モノ言う株主の増加はいろいろめんどくさい」と言ったところなのではないでしょうか。業界的に見て書籍の電子化も含めて市場縮小傾向顕著な幻冬舎、在宅ネットレンタル等も含めた価格低下と競争激化のビデオレンタルのCCC、長引く不況下で中小零細入り乱れての低価格合戦にあえぐ引っ越し業界のアート、それぞれ厳しい現実をどう乗り切るかまさしく経営手腕にかかっている訳で、余計な横やりはご遠慮いただきたいといった判断であるのでしょう。

ただ問題となるのは、今回の幻冬舎のケースでも言われているように、一度は上場した企業である以上株主利益の保護と言う最低限のマナーは守る必要があるのではないかという議論です。幻冬舎の場合MBOの買い取り価格約25万円に対して、会社清算仮定でみた1株あたりの企業価値は約36万円と約4割も割安での株買い取りになっていたのです。すなわち、経営者が全株買い取り後に会社清算すれば右から左で粗利が4割出る訳で、言い換えると株主がその分損をしている計算になるのです。この問題では、大株主の投資ファンドが株を買い進め株主総会の議決阻止をもくろみましたが、信用取引で買い進めたがために議決権を発動することが出来ず結局会社側の思惑通りの決着になったのでした。なんともスッキリしない結末であり、経営陣としては大株主云々はともかく、上場企業の経営責任として株主利益の保護の観点からもう少し配慮ある対応を検討するべきでなかったかと思うところです。

内部統制監査の義務化等に伴う昨今の上場コスト上昇などもあり、MBOが増えること自体はある意味やむを得ない時代の流れでもあるのかもしれません。しかしながら、上場企業には上場企業としての非上場企業とは異なる経営モラルやコンプライアンスがあることも事実であり、その点を忘れて自己の都合ばかりで勝手な上場廃止路線に走るのはいかがなものかということにもなりうるのです。2000年前後のネットバブルの時代に後押しされて、マザーズやヘラクレスなどの新興市場の乱立とその市場をにぎわせた新規上場の乱発が、上場企業に本来求められるべき経営モラルの欠如を生んだのではないかとも言える訳で、上場乱発を煽った市場関係機関にもその責任の一端はあるのではないかと思うのです。その当時の反省から、昨今では新規上場の際の上場基準等審査の厳正化が進んでいるようですが、過去のゆるい基準下で上場を果たした企業の自発的上場廃止に関する監視の目が甘くては片手落ちなのではないかと思います。ある種の経営手法の流行になりつつあるMBOですが、幻冬舎のようなケースも含めて市場関係機関は投資家保護の観点からもっとモノ言う監理をしてもいいのではないかと考えます。