日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ84 ~ 不況下こそより重要な経営者の「シナリオ力」

2010-04-08 | 経営
「ビジョン」とは「めざす姿」「到達したい将来像」とそこへの道筋を明確のすることであると昨日お話しました。では「めざす姿」「到達したい将来像」と道筋が、とりあえず提示されていれば何でもOKかと言えば、そうではないのです。「めざす姿」「到達したい将来像」その道筋に納得性があるかどうか、実はそれこそが肝心の部分であるのです。

不況下の時代社長が思いつきで「我が社をこうしたい!」「こうやっていってこんな会社にしよう」と言ったところで、なかなか社員は素直にはついてはこないのです。「社長は勝手なこと言ってるよ」「俺たちの気も知らないで、この不景気な時に自分でやってみろって言うんだよ」。理由や裏付けの乏しい「ビジョン」は、かえって信頼感を損ない求心力を失っていきます。「経営理念」は経営者あるいは創業者の「想い」ですから具体性に欠けていてもいいのですが、「ビジョン」はこれから先をめざすための航海図でもあるわけで、具体性を帯びた説得力がなくては意味をなさないのです。よく中小企業で、社長が「めざす姿」を掲げていながら、「社長にはついていけない」と社員と社長が分離をしてしまうケースを目にしますが、大抵は「ビジョン」に理由や裏付けがないか乏しいかなのです。

ではどうするかです。「ビジョン」づくりのセオリー的に解答を言ってしまえば、まずは自社のコアコンピタンス(他社に勝る利点、強み)を明確化し、その上で事業ドメイン(核となる事業分野)を決め、その中で自身が考える「めざす姿」を見定めて、何をどうやってそこに行きつくのかを明示しつつ社員を導いていくのが正解です。場合によっては、社員の意見も聞きながら方向修正をしていくことも必要でしょう。その場合には当初社長が考えた「めざす姿」は変更を余儀なくされるかもしれません。例えばそうであっても、皆が共有できる裏付けある「めざす姿」とそこへの道筋が見えてくるなら、それこそ真の「ビジョン」づくりとなりうるのです。

このように「ビジョン」づくりの際に重要なことは、とにかく極力客観的な材料を集めて検証していくと言う作業です。「このやり方を選ぶのは、マーケット的にこういうデータがあるから」とか「このやり方をしないのは、他社の過去の失敗をみているから」といった、理由や裏付けを必ず取りながらすすめることが大切なのです。もちろん経営の場面場面では経営者の“カン”が雌雄を決することも間々あるのですが、こと中期的な戦略を方向づける「ビジョン」の策定は、まだ見ぬ先々への進み方を決めるものでもあり、極力客観的判断材料を求め提示し皆の納得を得てすすめるべきであるのです。

まだ見ぬ先々のゴール地点やゴールへの道筋に納得性を帯びさせるこの力は、言い換えれば「シナリオ力」です。企業にとって「ビジョン」の下にベクトルが揃い社員がまとまる否かは、その「ビジョン」の裏にあるべきこの「シナリオ力」にかかっていると言えるでしょう。すなわち、「めざす姿」に納得性を帯びさせられる「シナリオ力」、「めざす姿」に向かう道筋の「シナリオ力」、これによって「ビジョン」の下に皆がまとまり力をひとつにして発展に向かう闘う企業が作れるのです。景気が良く勘に頼った経営でも大きな危機に陥ることのない時代はいいのですが、今のような不景気で不安定な時代は、納得性に乏しいリーダーシップでは、社員のベクトルを揃えて前に進ませることは非常に難しいのです。

不況下の経営者に求められるリーダーシップの源泉となる力は、客観的裏付のある「シナリオ力」であると思います。いつの世も、論理的に筋道を立てられる「シナリオ力」を持った経営者は確実に社員のベクトルを揃えることで企業をまとめあげ、どんなに景気の悪い時代でもちゃんと企業を成長させているのです。