日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“高級化”マクドナルドと“低価格”吉野家~デフレを勝ち抜くのはどっちだ?

2010-04-27 | マーケティング
今月18日に渋谷から一斉に姿を消し話題を集めたマクドナルド店舗が、そろって25日にニュー・オープンしたそうです。この日新装開店したのは渋谷だけでなく都内の13店舗。内装にはフランス人デザイナーを起用して、赤や黄色を基調とした“マック・カラー”の従来デザインを黒や茶色など落ち着いた色合いに変更。ソファの導入や座席の間隔を広げることで、ゆったりすごせるような工夫が施されています。このようなゆとりを持たせた店内設計をおこなうとともに、全席禁煙、LED照明の採用、ユニホームの一新などで高級感を演出。商品価格は従来店舗より10~50円引き上げたそうです。この原田CEO=マクドナルドの戦略変更はいかなる狙いがあるのでしょう。

マックカフェ、クオーター・パウンダー、プレミアム・ロースト等々、原田氏のCEO就任以来試行錯誤を繰り返してきたマクドナルドですが、それらの実験的試行策のとりあえず第一段階での結論として今回の店舗戦略は位置づけられるように思っています。すなわち、マックカフェ、クオーター・パウンダー、プレミアム・ローストはどれも「高級化」「高価格化」路線であり、今回の店舗改革はその手ごたえをつかんだからに他ならないと言えるでしょう。ファーストフード業界はデフレの影響で価格競争が激化しており、比較的価格確保が期待できるカフェ路線への路線変更を志向しての結果と受け取れるのです。まさにマクドナルドの“スタバ化”であり、ファーストフードのカフェ化路線であります。

カフェ化路線のプロトタイプは、90年代から雨後のタケノコの如くその数が増え旧来の喫茶店を駆逐したドトールをはじめとした低価格コーヒーショップを、適度のオシャレ感と高級感で化粧をさせ、「サードプレイス(=自宅、オフィスに次ぐ第三の場所という意味)」という“くつろぎ”をキーワードにグレード感を持たせたスターバックスに代表される新カフェ戦略である訳です。果たしてドナルド君をキャラクターとして長年“お子ちゃまの味方”でやってきたマクドナルドが、“化粧”を少し変えただけで並み居る競合カフェチェーンに対抗ができるのか、また高級化路線で既存のハンバーガー戦争でライバルの後塵を拝することにはならないのか、そしてその双方がマイナスに働いて大きな痛手を被ることになりはしないのか…等々不安材料は尽きない訳ですが、アップル・コンピュータ仕込みの原田CEOはどんな思考回路を巡らせた結果の秘策であったのか一度じっくりと聞いてみたいものです。

このマクドナルドの戦略と好対照なのが、期間限定ながら牛丼並盛り380円を270円に値下げし、低価格競争に堂々参入(会社側はそうではないとは言っていますが、期間限定とはいえライバル追随は明らかです)の牛丼業界の雄「吉野家」です。業界トップの価格競争参入は、自爆的とも思えるほど強烈なインパクトはあるわけで、ある意味マクドナルドの高級化路線以上にショッキングな戦略であるとも言えるでしょう。時を同じくして果敢にも、日本のファーストフード業界を代表する業界トップの2社がとった、「高級化」と「低価格」ふたつの大胆戦略。底なしの超デフレ時代を勝ち抜くのはどちらの戦略であるのか、マーケティング的興味は尽きないところであります。