日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ85~“マネジメントの遠近感”を持たせる「楕円視界」

2010-04-19 | 経営
時間が少しでもあるとすぐ本屋に立ち寄りたくなる私は、今日も事務所近くの本屋に立ち寄ったのですが、そこで知らない雑誌を目にし気になる記事もあったので買ってみました。

雑誌のタイトルは「taxi」。季刊のようでお初にお目にかかりました。扶桑社刊ですから出所はいかがわしくはないのですが、中身は「特集:皇室の近代」とか「連載:皇室の母性と天皇の超越性」等々しっかり産経新聞チックで、なるほどフジサンケイ・グループのノリ。この雑誌を私がなぜ買ったのかと言えば理由はただひとつ、「特集:ボブ・ディラン ライブツアー緊急レポート」なる見出しです。みうらじゅん氏、菅野ヘッケル氏ら10人の書き下ろし32ページにもわたる読み物特集ですから、これはもう1も2もなく「買い」な訳です。レポートした10人のライターの原稿は、それぞれ個性的なとらえ方で大変面白かったのですが、中でも白眉だったのがミュージシャンで音楽評論家の和久井光司氏。もともと雑誌で氏の原稿を目にする機会も多く、その達者な筆力はよく知ってはいましたが、今回もまた素晴らしいレポートを書かれていました。特筆すべきはその視点。本題のディランから離れて、考えるヒントを与えてもらいました。

氏のレポートはまず作家後藤明生氏の小説の根底に流れる世界観の中枢にある「楕円」の観点を説明し、その視点からつづられています。レポートの内容は割愛しますが、後藤明生氏の「「楕円」の観点」を解説すると、「情報が肥大化した「現代」と「わたし」の関係を鑑みながら「現代におけるわたくし小説」を模索する」ということだそうで。かなり哲学的なので簡単に言うと、常にふたつの視点からものを見ようとすることで、あらゆるもののとらえ方を広くし1視点では捉えきれない本質を捉えていくということかなと…。いや後藤氏や和久井氏の「楕円」の観点の本質はそうでないかもしれませんが、細かいことはどうでもよくて、この原稿を読んだ瞬間「なるほど人の目も2点からモノを見る「楕円視界」。それをもっとマネジメントにおいても意識するべきなのだ」という再認識を迫られたのです。

人間の目は2点から視野を広げる「楕円視界」であることで、「視野拡大」「視力補填」「遠近感」の3つを可能にしてくれています。この3つはどれも片眼の“一点焦点”の「円視界」ではなし得ないものなのです。この点をマネジメントへの応用で考えると、「物事は常にふたつの視点で検討すべし」ということなのです。一番分かりやすい“二点焦点”の「楕円視界」の話は「理論と実態」です。例えば我々コンサルタントがクライアントの問題点の解決策を考えるとき常に心がけることですが、「理論」という視点だけで解決策を策定することは「机上論」に陥りやすく、常に現場の「実態」という視点を忘れてはいけないということがその好例でしょう(理論だけで制度や枠組みをつくって商売をするコンサルタントも間々存在しますが…)。

“一点焦点”でものを捉えて「これが正しい」と決めつけることは、一般の企業の経営者や管理者が陥りやすいエラーであると思います。「理論」があまりにしっかりしていると、ついついそれを過信して「実態」を勘案せず進み思わぬ落とし穴が待っていたり。“一点焦点”のモノの判断が必ず過ちであるとは申しませんが、“一点焦点”での検討は物事の分析や解析には“深み”がなく薄っぺらな判断につながりやすいのです。なぜなら“一点焦点”の「円視界」には思考における「遠近感」がないからです。マネジメントにおいて「理論」と「実態」、「経験」と「知識」、「計数分析」と「トレンド予想」等、“二点焦点”の「楕円視界」は常に経営に「遠近感」という“厚み”を持たせ、過ちを未然に防ぐ役に立つのです。ひょんな雑誌記事をきっかけに、改めてそんなことを考えさせられた午後でした。