日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

携帯電話の発展とも似たフィギュア・スケートの“新時代”

2010-02-26 | その他あれこれ
昨日までいろいろ書いたので、せっかくですからフィギュア・スケートの話を総括しておきます。

女子フィギュア・スケートは、韓国のキム・ヨナの完璧な演技力の素晴らしさ、浅田真央の前人未到のトリプルアクセル2回という驚異、その両者の激しい戦いの結果、総合力で勝るキム・ヨナの圧倒的な勝利で幕を閉じました。浅田選手側には若干の演技ミスもあり、この結果には日本国民も誰もが納得ではあったのでしょうが、全競技が終了した今よくよく考えてみると男子フィギュア・ケートも含めて、フィギュア・スケートという競技自体が今大会から全く新しいステージに突入したと言っていいのではないかと感じています。

女子フィギュアを例にとると、まず何よりその得点の上昇に驚かされます。4年前のトリノ・オリンピックで優勝した荒川静香の得点は190点台前半だったと言います。ところが今回、キム・ヨナ選手の史上最高得点である220点台はともかくとしても、上位3人はいずれも200点を超すハイレベルな戦いであり、単純な比較は意味がないのかもしれませんが、銀の浅田、銅のロシエットも前大会なら金メダルが取れていたレベルの演技だったのです。とにかくこの4年間での技術・演技の進歩は目覚ましいモノがあり、単に個々の高度な技術を競うだけでは総合的には評価されないという水準に達したと言う意味で、この競技の争いは別次元に入ったと思う訳です。

別の例を引いてみます。一番分かりやすいのは携帯電話の機能競争かもしれません。製品開発が発展途上にあった時代は、そのシェア争いの雌雄を決する要素がハード的な機能性の向上による部分が大きかったのですが、ある一定のハード技術レベルを超えたところからその争いのポイントはコンテンツも含めたソフト面、ハード面総合での評価が大きく影響をする時代になってくるわけです。すなわち、これをスポーツ界に引き直してみると、タイムトライアル的競技はどこまで行っても記録との戦いであり、その大会ごとに最大のハード的パフォーマンスを演じた選手が栄冠を手に入れる訳ですが、ことフィギュア・スケートのような肉体を駆使したハード的要素と表現力というソフト的要素を組み合わせた競技では、ハードとソフト両面からその商品水準を競う携帯電話と同じく、技術水準が一定に達した段階のどこかのタイミングで、ハード&ソフトのミクスチュアでの競合評価基準へのステージ転換が起きると思うのです。今大会がまさしくそのタイミングだったのではないでしょうか。

だからこそ、今後一層大切になるのは選手自身の身体的能力以上に、ハード面とソフト面をバランスよく加味したコーチによる戦略的プログラムの策定能力および指導力に移ってきたのです。この競技において技術的なアドバンテージ至上主義とする時代はもはや終わりを告げたとさえ感じさせられる訳で、その意味では男子フィギュアで4回転を入れずに演技したアメリカのライサチェック選手の後塵を拝した“4回転演技者”2位のロシアのプルシェンコ選手が、「4回転を正当に評価しないことは、フィギュア・スケート界の進歩を妨げるものであり納得がいかない」とする考え方は、もはや通用しない古い考え方であるとさえ思わせられます。

それにしても、キム・ヨナ選手の演技は素晴らしいモノでした。次回4年後のソチ大会に彼女が出場するか否かは分かりませんが、浅田選手が次の大会で金メダルを取るためには、技術的な練習の積み重ねだけではもはや届かないと感じさせられる、ある意味“別世界”の演技でした。すなわち、まず第一にすべきは、時代の変遷を理解した「戦略」をたてて指導できるコーチを探すこと。それが次回金メダルに向けた第一歩であると思います。蛇足ですが、今回メダルを期待されながら5位に終わった安藤美姫選手。今の時代を読める戦略的指導家であるニコライ・モロゾフ氏の指導の下での第5位入賞。前回15位からここまで持ってきた原動力はまさしくモロゾフ氏の力によるものでしょう。しかしながらメダルに及ばずの5位。オリンピック開会時に私が申し上げた「GⅠ理論」で言えば、彼女は明らかに「GⅡレベル」あるいは「GⅢレベル」であることが今回ハッキリしました。次回再度チャレンジしても恐らくメダルには届かないでしょう。「GⅠレベル」の浅田選手の次回には、コーチの見直しを大前提として引き続き期待したいところです。